くまぇり諏訪地方連続放火事件(2006年)は、タレントのそっくりさんを自称した(当時)20歳の女性による自作自演放火事件です。『実録!女たちの猟奇事件簿』(ぶんか社)が漫画化しました。自身のブログで火災写真を掲載し注目されました。
『12人目:ネットアイドル』というタイトルの漫画が、安武わたるさんがぶんか社から上梓した『実録!女たちの猟奇事件簿』(ストーリーな女たち)にあります。
くまぇり諏訪地方連続放火事件(2006年)を漫画化したものです。
くまぇりというのは、ある女性グラビアタレントに日本一似ていると自称するブロガーの「ペンネーム」です。
くまぇり諏訪地方連続放火事件は、自称タレント似のブロガーが芸能界に憧れ、ブログで目立つことを計画。
自分で火災を起こし、とくダネをアップしたように見せかけましたが、続けざまに行ったことで怪しまれあっけなく逮捕。
懲役10年の実刑でしたが、2016年には出所しています。
バラバラ殺人などを目論んだわけではないので、猟奇事件といえるかどうかはわかりませんが、動機が常軌を逸した事件ということで収録されたのだと思います。
本書は2022年9月5日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
待望のメディアデビューの撮影日に逮捕
本作の登場人物は、平川恵理奈(19)。
キラ星の如くスターたちの集う華やかな世界、芸能界に憧れています。
といっても、自分には傑出した才もコネもない。
そんな人間が、この世界に入るにはどうしたらいいのか。
「芸能界に進みたいです」と、中学の卒業文集にも書いたほどですが、きっかけがわかりません。
恵理奈は常々考えています。
家を出ようかな。
が、実家の居酒屋がそこそこはやっているので、すぐに手伝いに駆り出されてしまいます。
恵理奈は、いわゆる出戻りです。
高校時代に知り合った男性と学校は中退して結婚するも、夫婦の諍いで包丁を振り回して、怪我をさせてしまい離婚。
離婚して「自由の身」になったことで、いっそう芸能界への夢が膨らみます。
それがあるとき、ふと考えます。
自分は、あのグラビアタレントと似ている。
だったら、似ている自分だってチャンスがあるんじゃないか。
恵理奈は、風俗店で働いてお金をため、整形手術を繰り返しながら、「日本一のそっくりさん、くまぇり」を標榜したブログを立ち上げます。
ネットアイドルとして、芸能界入りを目指したようです。
まあ、金もコネもない一般人にとって、それは同じ立場なら誰でも考える選択肢かもしれません。
しかし、すでにその時点でブログはたくさんの人が立ち上げており、なんとなく更新してもなかなか閲覧数は増えません。
オーディションも落選が続き、なにか起死回生の策はないかと焦るくまぇり。
そんなとき、近所の火災画像をブログにアップすると、閲覧数がぐんと伸びました。
くまぇりは、人は事件・事故に興味があることを知ったのです。
「そっか~。『火事』って結構みんな見たがるんだな。じゃあ、いっぱい画像アップしたら、アクセスが増えて、話題になって……マスコミだって食いつく。芸能プロダクションだって、きっと」
以来、平成18年の4月17日未明に近所の資材小屋全焼、5月1日に民家一棟全焼、5月11日に諏訪市内の中学校体育館全焼。5月21日に茅野市のアパートのガスボンベに放火。5月26日に駐車場の車6台全焼。5月30日に学校のうさぎ小屋と、なんと1ヶ月半の間に、6件もの自作自演(要するに放火)をやらかしてしまったくまぇり。
しかし、あまりにも多すぎる遭遇に、当然警察は怪しみます。
とうとう7月8日に逮捕されてしまいました。
逮捕されたのは、週間総合誌『SPA!』のグラビア撮影が行われた日。
彼女が、何年も願い続けた芸能界に、やっと足を踏み入れようとしたその矢先のことでした。
撮影現場には刑事が待機。
まるで『砂の器』のようなシーンでした。
撮影された写真は、グラビアページとしてではなく、「放火事件」のニュース写真になってしまいました。
逮捕後の調べに対して、くまぇりは、「(いじめによる)母校への恨み」や「地元(諏訪市)を有名にしたかった」などと動機を供述していたそうですが、いかにもとってつけたような理由です。
自分が芸能界に進むきっかけにしたかった、と正直に言えなかったのでしょうか。
茅野警察署での勾留中に自殺を図ったものの、自殺未遂に終わっていることも明らかになりました。
検察側は懲役13年を求刑。
長野地裁は2007年4月9日、懲役10年の判決を言い渡しました。
パニック障害の発作も服役中に克服
出所している人に対して、こんなことを指摘するのは忍びないのですが、火付けといえば重罪です。
続けざまに自分勝手な欲望で行ったにしては、少し刑が軽いような印象があります。
まだ年齢が若いから、更生に期待したのでしょうか。
事件は、多くの人にとって記憶に新しいと思われるので、すでに出所していることが意外に思われるかもしれません。
事件後、月刊『創』の篠田博之さんは、服役中のくまぇり元受刑者に接触しました。
一応
連続放火事件で服役中のくまぇりに8年ぶりに面会した(篠田博之) – Y!ニュース https://t.co/5G7Ex1wtbV
— あらきムラムラ (@arakissunne) May 13, 2020
前掲の自殺未遂を明らかにしたのも月刊『創』です。
同誌の2007年5月号には、判決が下される3週間ほど前に書かれた3ページの手記を掲載しました。
「一番楽しみたい20代を刑務所で過ごさないといけない」ことに打ちひしがれ、「本当人生終わりです」と述べています。
篠田博之さんによれば、事件当時は「17のときからふういんしてきた」パニック障害の発作が拘置所で再発。
始め薬が手離せない状況だったものが、刑務所で服役中に克服したといいます。
出所後は、ボイラー技士の資格を取った、というツイートも。
くまぇり出所してボイラー技師になってんのめちゃくちゃホラーでわらう
— YOON (@hype_6oy) August 30, 2022
いまだにツイートされるのですね。
ネットのツールは使い方が大切
それにしても、ネットというのは罪深いですね。
一般人が、不特定多数の注目を簡単に集めてしまう。
若い人の自己顕示欲を刺激して、くまぇりのような事件になってしまうんでしょう。
いわゆるバカッターといわれる、バイト先などでの悪ふざけ投稿が多額の損害賠償につながっています。
もちろん、そうした事件を起こすことに免罪の気持ちはあませんが、テレビにもBPOがあるように、ネットメディアとして自浄作用を働かせるシステムがないと、せっかく便利なシステムに制限が加えられてしまうように思います。
余談ですが、私はブログとツイッターを連携させ、記事の更新をツイートするように設定しています。
それによって、書籍や映画・ドラマのレビュー記事タイトルが、関係者のエゴサーチにかかり、著者や出演者からリツイート、リプライなどをいただくことも少なくありません。
自分なりに、一所懸命書いた記事を、当事者や関係者に認めていただくというのは大変光栄で、さらに記事づくりにも気合が入ろうというものです。
ですから、せっかくのすばらしいツールを、低級な自己満足や犯罪行為に使われるのは本当に残念です。
以上、くまぇり諏訪地方連続放火事件(2006年)は、タレントのそっくりさんを自称した(当時)20歳の女性による自作自演放火事件、でした。