どぶ 1~4(土山しげる著、日本文芸社)は、会社を謀議でリストラされた主人公が、風俗業界で失敗しながらものし上がる話を描いています。サラリーマン社会とは正反対の価値観の中で、営業職時代に培った企画力で何度も来る逆境を跳ね返します。
『どぶ』(全4巻)は、土山しげるさんが、日本文芸社から上梓しました。
長年勤めた会社を、部下の謀議でリストラされた主人公・岩田政次が、妻からも一方的に離婚され、退職金までだまし取られてしまい、人生のどん底に堕ちてしまいます。
しかし、ボーイから始めた風俗業界で、前職の営業も生かして次第にのし上がっていきます。
生き馬の目を抜く業界のため、途中何度も裏切られたり、試練が与えられたりしますが、営業職時代に培った企画力でそれらを乗り越えていく話です。
この世界には、前に進むか倒れるかしかないのです。
つまり、現状に満足してぼんやりしていたら、新興勢力に取って代わられるか、もしくは内部からの裏切りにあってしまうか、する世界です。
まあ、どんな世界でも大なり小なりそうかもしれませんが、この業界は、現場のスタッフの引き抜きが日常茶飯ですから、いずれにしてもずーっと同じ状態で安穏としていられるわけではありません。
仏教で言う諸行無常の世界です。
次々新しいアイデアを出して事業を拡大したり、新しい事業に踏み出したり、自分も変化していかなけければならないのです。
『どぶ』というタイトルは、まさにそのような壮絶な世界をあらわしています。
土山しげるさんの作品としては、『喰王スペシャル』もピンク産業が舞台でしたが、そのときはあくまで食べ物がメインテーマ。
今回は、まさにピンク産業そのものがテーマです。
本作は2023年2月19日現佐、KindleUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
第1話から見ていきましょう。
裏切り、監視など当たり前の世界
部下から、「主任、おごりますよって、スカッと拔きましょ」といわれ、「アホ。部下に奢られて抜けるか。君らの分も出したる」と言ってしまった岩田政次。
あるピンサロ(ピンクサロン)に行きます。
早めに店から出ていた部下。
岩田政次自身は、たんなる部下サービスのつもりで、とくに感慨もなく、女の子の名刺もその場で破り捨ててしまいました。
翌日、人事課に呼ばれた岩田政次は、ピンサロに行った写真を突きつけられます。
課から1人、リストラをするというので、部下にはめられたのです。
そして、給料につられて、よりによってそのピンクサロンで働くことに。
しかし、募集のときの金額と、実際は違ったのですが。
妻は、事情を知り、実家に帰ってしまいました。
夫婦なんて、脆いもんですね。子どももいるのにさ。
わずかな退職金は、ピンサロの同僚にだまし取られてしまいました。
もうどうでもよくなっていたとき、ピンサロ嬢のサヤに気に入られます。
そして、肉体関係に。
「おっちゃん。あんた、本当の優しさ、もってはる男や。あんたみたいな男が、店長ヤッてくれたら、女の子もみんな喜んで働くで」
しかし、そのときは、あまり気乗りがしなかった岩田。
「俺が店長やと?こんなドブみたいな世界でなんで俺が……。でも……」
そう言われて悪い気はしません。
このあたりから、少しずつ、岩田はその気になってきます。
店は、何店舗も手広く経営するオーナーのほか、そのうち数店舗ずつを監督する営業部長がいます。
岩田の働く店は、岸辺営業部長の管轄。
店長のイビリにも負けずに頑張る姿に、見どころがあると思った岸辺営業部長は、ある仕掛けをします。
店にかかってきた応募の電話で、岸辺営業部長は、岩田に面談をさせます。
喫茶店での面談。
メガネを掛けた地味な女性は、26歳、バツ1で子ども1人といいます。
岩田は仕事の説明をしますが、竿をくわえるという、肝心のことが言えずにいると、後ろでこっそり聞いていた岸辺営業部長が、「あんた、見ず知らずの男のチンポ、しゃぶることできるか?」と直截に聞きます。
いったんは、店を出ていった彼女は結局、働くことになります。
岸辺営業部長は、「彼女はあんたに預けるから、彼女をうまく使って稼いで店長になれ」と言います。
岩田もその気になります。
が、実は彼女は、岩田の監視役に、岸辺営業部長は彼女をつかせたのでした。
このへん、怖いですね。
上司も、どんな策略を巡らせているかわからない世界です。
どういうことか。
警察のガサ入れがある、ということを、別のピンサロ譲と喧嘩して店をやめたサヤが、こっそり岩田に教えてくれました。
というより、サヤが、その別のピンサロ嬢が未成年であることや、本番もヤッてることを警察に垂れ込んだのでしょう。
岩田はその情報を、上層部に報告しませんでした。
自分を裏切った部下をその時、店に客として引き入れ、部下を逮捕させることで報復するつもりだったからです。
だから、ガサ入れで逮捕者を出してもらわにければいけなかったのです。
ただ、「地味な女性」にだけは、ガサ入れの時刻には店を離れるようにこっそり教えました。
そして、予定通り警察が入り、店は営業停止になりました。
といっても、「その店」が停止になるだけで、おなじ運営会社で、名前を変えて「新規開店」するだけの話ですが、それでも数日間、休まなければならないため、オーナーに損失は発生します。
「地味な女性」は、応募自体は本当でしたが、岸辺営業部長が試しに岩田の竿をしゃぶらせたときに、岩田の出した「赤ちゃんの素」を、テッシュにプッと吐き出す仕草をしたので、彼女が素人ではない、この道は初めてではないことを見抜き、岩田の見張り役をするように彼女に言い含めたのです。
「娑婆っ気が抜けてないのね。仏心なんか出していたら、この世界じゃ生きていけないってこと」
彼女はそのことを岩田に教えると、オーナーの使いの者が、岩田をオーオーナーのもとへ連れていきました。
油断も隙もないストーリーはまだまだ続きます。
こんな感じで、失敗を繰り返しながらも、次第に岩田はのし上がっていきます。
どん底から這い上がるモチーフ
土山しげるさんについては、KindleUnlimitedでこれまでの作品の多くが公開されたので、このブログでもいくつかの作品をご紹介してきました。
『食キング』(土山しげる著、日本文芸社)は、「B級グルメ店復活請負人」の主人公が、傾いた庶民向け飲食店を再建するストーリーです。
物語の前半は、歳三が再建請負人として全国を転々とします。
後半は、幾多の料理人と様々な料理対決を行います。
『漫画版野武士のグルメ カラー版1st01』(久住昌之/原作、土山しげる/画、幻冬舎)は、定年を迎えた還暦男性がありふれた食堂を巡る話です。
人気ドラマ『孤独のグルメ』の壮年版です。
どうして「野武士」なのかというと、「元サラリーマン」で無職だから「浪人」だが、それでは「イメージが悪い」から、主人公が「野武士」と自称しているのです。
『男麺』(土山しげる、ゴマブックス)は、商社に勤める無類の麺好き主人公が、立ち食いそばや町中華の焼きそばなどで騒動を解決する話です。
商社に勤める無類の麺好き、通称イケメンの主人公が経験する、様々なトラブルや面倒な騒動が、全て一杯の麺、しかも大衆的なもので解決するのが大まかなストーリーです。
喰王スペシャル(土山しげる、日本文芸社)は、食べることが好きなキャバクラ店長が、食べ物で問題を解決する日常を描く漫画です。
食べることを除くと、こちらもピンク産業という点で、今回の『どぶ』とは似ています。
シャケ (原作/津流木詞朗、画/土山しげる、ナンバーナイン) は、肩を壊したドラ1投手とブルペン捕手が球界の事件を解決する話です。
こちらは、作画のみですが、やはり野球の続行が難しくなった主人公が、女性問題、八百長を巡る暴力団とのトラブル、政治家と野球選手による三角関係など、様々なトラブルを解決していきます。
こうしてみると、土山しげる作品、ずいぶんご紹介していますね。
いずれも、どん底から這い上がるモチーフです。
世の中の厳しさと、人生の儚さのようなものが感じられ、それでも勝ち抜いていく力強さが、読んでいて力をわかせてくれます。
みなさんも、いかがですか。
以上、どぶ 1~4(土山しげる著、日本文芸社)は、会社を謀議でリストラされた主人公が、風俗業界で失敗しながらものし上がる話、でした。
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