にっぽんスズメしぐさ(中野さとる著、カンゼン)はスズメの写真集です。マツダユカさん描きおろし漫画『きょうのスー』も収載されています。スズメたちの表情や仕草の画像のほか、スズメは自然の厳しい摂理に生きる鳥であることも教えてくれています。
『にっぽんスズメしぐさ』は、中野さとるさんがスズメを撮影し、解説の執筆とともにまとめてカンゼンから上梓した書籍です。
中野さとるさんは、インスタグラムにてアカウント名「Onakan.s」で写真を発表しています。
画像とともに、スズメの生態や野鳥としてのスズメの見方など解説されています。
マツダユカさんの、描きおろしスズメ漫画『きょうのスー』も収載されています。
本書は2022年7月29日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれているKindle版です。
スズメは捕獲・採取・損傷してはならない野鳥
昨今、YouTubeの動画には、スズメの面倒を見ているものが少なくありません。
雛が道に落ちていた。
怪我をして飛べなくなっていた。
可愛そうだから家に連れて帰ってきた。
ここには、2つの「ちょっと待ったぁー」があります。
ひとつは、スズメに限らず、鳥獣および鳥類の卵を捕獲・採取・損傷することは、『鳥獣保護法第8条』で禁じていること。
もし、違反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
鳥獣の勝手な飼育や捕獲は、生態系のバランスが崩れる危険性があるのです。
例外的に、一時保護は役所に届けることで不可能ではありませんが、役所はあまり歓迎も推奨もしません。
なぜなら、道端に捨てられている雛は、長くないと判断したから親鳥が捨てた可能性があり、道端で飛べなくなっている成鳥についても同様です。
たくましい野生の鳥が、自らの生命を保てないのに、人間が引き取って事態を好転させられるかどうか。
それとも、自分が保護さえすれば、損傷せずに必ず助けられると獣医師でもないのに断言できますか。
ふたつめは、そもそもスズメにかぎらず野鳥の捕獲や飼育は、法律以前に人間にとってリスクのある行為です。
スズメは、ドブネズミ並みの病原菌の持ち主です。
それはそうです。
たとえば、野鳥は自分で巣を作りますが、その巣の材料は、犬や猫の死体の毛など感染症リスクのあるものが含まれます。
感染症は、動物由来感染症といって、種の壁のあるはずの人間にも感染するものだってありえます。
触る時に気をつけていても、垂れ流す糞便から感染するリスクがあります。
以前、プロレスラーの天山広吉さんが、故・橋本真也さんに合宿近くで仕留めたスズメの手作りソテーを騙されて食べさせられ、慌てて病院で検査を受けたことがあるらしいです。
ソテーにしたということは、火を通しています。
それでも検査したようです。
感染症はそれだけ怖いのです。
そして3つめ。
これがいちばん大きな理由、というより理念ですが、「明日がある生命」という人間の寿命に対する考え方が当てはまらないというこです。
1日1日が勝負。道端で飛べなくなった鳥は猫やカラスの餌になる、という自然の摂理に生きているのです。
「かわいそう」というのは、良くも悪くも人間らしい人間だけの感情なのです。
病院で手当して、リハビリをして、場合によっては延命して、なんていう人間の寿命のあり方とは考え方が異なるということが、本書には書かれています。
ちょっと長くなりますが、引用します。
野生のスズメの平均寿命は1年3カ月、というデータもあります。 「そんなに短いの?」と驚く人が多いのですが、 それはあくまで人間を基準にしているから。 野鳥の寿命はよくわかっているわけではないのですが、スズメが特別短いというわけではありません。一冬を越し、生まれた翌年の春から彼らは繁殖できるようになりますが、そこまで生きのびる個体が少ないので、何年も生きる個体が一部いても平均した値は短くなるのです。
地球という惑星において確認されている200万くらいの生物種の中で、我々人間の考える命というのは非常に “特殊”です。人間は持続可能な自然、野生の仕組みから外れることによって生存率が高くなって現在の繁栄があるわけですよね。
今や 「明日があって当たり前」という、 自然から見るととんでもない考え方で我々は生きていますけど、命の根本というのは決してそうではありません。
命の多くは「他の命の食べ物」です。たとえばスズメが毎年あれだけ子育てを繰り返しながら増え過ぎないというのは、自然の中ではほとんどが生き延びられないからです。 生き残ったほんの一部が子孫を担うことで命が繋がっている、個体でなく種の命として繋がっているんです。 だからこそ生物多様性があるわけで、人が 「生き延びて当たり前」という前提で発想してしまうことは特別な繁栄をとげた文明や社会のお陰なのです。 私たちが野鳥を見るときには、ペットと同じように見てはいけません。 たとえば人でいうと何歳とか、 寿命がどのくらいとか、 そもそも寿命という概念そのものが人のものですから、それを当てはめてよいものでしょうか?
我々と同じように、生まれたからには1日も長生きして、子孫を作って、なんていうものではない。
様々な淘汰の出来事があるが当たり前で、残れた命だけが子孫を残せる、ということです。
その摂理で、これまでやってきたわけです。
でも、実は本当は人間だってそうなんですよね。
病気や不慮の事故、災害などで生まれた全員が「長生き」できるわけではないし、全員が結婚して子供を作って孫に囲まれるわけでもない。
平均寿命が80年を超すと、ひとたび生まれたらそれだけ生きるのが当たり前という感覚になってしまいますが、実はそうした「淘汰」に該当しない「幸運」で長生きをしただけなのです。
ですから、本書を読むと、野鳥の生涯を通して、人間の、そして自分の人生とはなんだろう、ということも考えさせてくれます。
飼いたくなる気持ちもわかるけど野鳥の魅力は野に放ってこそ
ただまあ、先程の動画の話に戻ると、捕獲・飼育が禁止されていても、一時保護はしてもいいよ、いやしてみたいな、という気持ちはわかります。
たとえば、スズメの雛はツバメのように、保護した人間を前にして親のように口を開けて餌を求めます。
もっとくれ、という仕草をするので、餌付けし甲斐があるのです。
スズメは成長しても、片手でそっと握るように持てるサイズです。
ひよこのように、成長したら鶏になってしまうと、都会ではもう飼えないですよね。
ヒメウズラなども、大きくなると片手ではちょっと苦しく、両手で持たないと重いし大きいのです。
そして、スズメは人に対して攻撃的ではありません。
文鳥のようなスズメにサイズの近い鳥でも、機嫌が悪いとくちばしで突きますが、痛いですよね(笑)
その一方で、スズメは本来は野鳥で人に対して慎重ですが、ひとたび慣れるとなつきます。
要するに、安心かつお世話し甲斐があるんですね。
YouTubeの動画コンテンツを見ていると、50日以上も「一時保護」している人を見かけますが、それは「一時」の定義を外れてペット化しているだろう、と思います。
もう、放鳥はむずかしいのではないでしょうか。
だって、スズメの寿命は1年ちょっとでしょう。
その中の2ヶ月ですから、人間で言えば10年ぐらい相当するのではないでしょうか。
でも、それだけでなく、日常的な仕草にも魅力はありますよ。
それも、野鳥ですから家の中の「一時保護」よりも、外での振る舞いこそが真骨頂です。
いずれにしても、スズメの関心は、まず本書で満たしましょう。
以上、にっぽんスズメしぐさ(中野さとる著、カンゼン)はスズメの写真集です。マツダユカさん描きおろし漫画『きょうのスー』も収載、でした。