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ひめゆりの歌が聞こえる~女の戦争哀史~(安武わたる、ぶんか社)は、戦中戦後の時代に翻弄され地獄を生きた女たちを漫画化

ひめゆりの歌が聞こえる~女の戦争哀史~(安武わたる、ぶんか社)は、戦中戦後の時代に翻弄され地獄を生きた女たちを漫画化

ひめゆりの歌が聞こえる~女の戦争哀史~(安武わたる、ぶんか社)は、戦中戦後の時代に翻弄され地獄を生きた女たちの戦争史を漫画化。沖縄の女子生徒動員を描いた『ひめゆりの塔』、美輪明宏さんの『ヨイトマケの唄』の翻案作品を収載しています。

『ひめゆりの歌が聞こえる~女の戦争哀史~』は、安武わたるさん作画で、ぶんか社から上梓されています。

ストーリーな女たち、というシリーズ名がついています。

同シリーズは、実在する特定の事件ではないけれど、その時代にしばしば話題になった「トレンド」な事件や生き様を漫画化したものです。

『ひめゆりの歌が聞こえる~女の戦争哀史~』は、4作品が収載されています。

戦中戦後という、難しい時代背景ですが、時代に翻弄され、泣かされたのは女性である、という話ですね。

本書は、2022年11月2日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。

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『ひめゆりの塔』と『ヨイトマケの唄』の翻案作品収載

本書メイン収載の『ひめゆりの歌が聞こえる』は、タイトルから推察できる通り、『ひめゆりの塔』という、1953年(昭和28年)1月9日に公開された東映映画(今井正監督)の翻案作品と思われます。

『ひめゆりの塔』とは、糸満にある、沖縄に学徒動員された沖縄師範学校女子部と沖縄県立第一高等女学校の生徒222名と、引率教師18名のために建てられた慰霊碑です。


学徒動員というのは、学校の生徒が戦争の手伝いをされられる部隊のことです。

「ひめゆり学徒隊」とよばれる女子生徒は、負傷兵の看護や死体埋葬などに当たりました。

しかし、唯一の地上戦に巻き込まれた沖縄では、ひめゆり学徒隊に動員された生徒と引率教師240人のうち、その半数以上の136人が命を失いました。

動員されなかったひめゆりの生徒と教員91人も、沖縄戦によって亡くなったそうです。

米軍が迫ってくるなか、軍はいち早く退却。解散した学徒隊の女子学生たちは、丸腰で逃げ続けるしかありませんでした。

亡くなり方は、国際法で禁止されていたガス弾の被害によるものだったり、逃げ場を失った末の自決だったりと、悲惨なものでした。

映画では、津島恵子さんや香川京子さんらが出演しています。

『ちむどんどん』という、2022年度前期放送のNHK連続テレビ小説第106作に、沖縄の本土復帰50年を記念し、沖縄本島北部のやんばるを舞台としていました。

同作は、沖縄戦の描き方が物足りないという声もありましたが、まあ、しょせん朝のドラマですから、あまり重くなってもということで、そのへんは多くの期待はむずかしいのかもしれません。

『子供のためならー「ヨイトマケの唄」より』は、タイトル通り、美輪明宏さんが自ら作詞作曲した1966年のヒット曲である『ヨイトマケの唄』をもとに、ストーリー化したものです。


ヨイトマケというのは、まだ建設機械が普及していなかった時代、重量のある岩を縄で滑車に吊るした槌を、数人掛かりで引張り上げて落とすことで地固めをしていましたが、引張り上げる際の掛け声です。

滑車の綱を引っ張るときの、「ヨイっと巻け」のかけ声を語源とするそうです。

この仕事は、主に日雇い労働者を動員していました。

ということは、お給料の安定した職場で働けず、労働者は不安定な収入で裕福でない家庭であることが想像できます。

美輪明宏さんによる作詞でしたが、幼少時に一緒に育った友人の母親が、父や子供のために懸命に働き続けて亡くなったそうですが、それを回顧する歌だそうです。

「ヨイトマケ」の地均しの日雇い労働者は、裕福でないだけでなく、その職業を馬鹿にされ、いじめられることもあったそうです。

しかし、その悔しさを克服して大学まで卒業。

エンジニアになったそうです。

本書収載の『子供のためならー「ヨイトマケの唄」より』は、設定を変えていますがそのエピソードを用いたストーリーの翻案作品です。

ひめゆりの歌が聞こえる

そもそも、「ひめゆり学徒隊」とよばれる女子生徒はどうして誕生し、動員されたのか。

沖縄は、日本で唯一、地上戦が行われたところです。

第2次世界大戦において、米軍は沖縄戦を、日本本土攻略の拠点を確保する最重要作戦と位置づけていました。

一方、日本軍は米軍の日本本土上陸を、一日でも遅らせるために壕ごうに潜んでの防衛・ 持久作戦を採用。

軍は県民総動員体制で、 学校の生徒は学徒隊を編成して戦場動員を強行したのです。

時は昭和20年(1945年)。

沖縄師範学校女子部では、卒業会式が中止になり、皇国のために働く、つまり動員されることが決まりました。

沖縄県下の学生・生徒は、男子は「鉄血勤皇隊」として、女子は「学徒看護隊」として、兵力不足を補うために戦場へ駆り出されました。

「ひめゆり学徒看護隊」として「お国のために尽くす」ことになった天願十美子級長は、生徒を取りまとめる立場です。

集合をかけますが、ひとり、下級生の平良松子はお祖母さんと面会です。

お祖母さんは沖縄ユタで、特高警察に引っ張られたこともあるといいます。

沖縄ユタとは、霊媒師(シャーマン)のことです。

感受性の強い女性が、神意を鋭敏に感じることができるとされていますが、実際には男性のユタも存在します。

なぜ、特高に引っ張られたのか。

それは、沖縄が火の海になり、学徒は命を落とし、日本が負ける未来をすでに感じ取っていたからです。

そんな不吉なことをいうのは非国民だ、というわけです。

しかし、神意でなくても、きちんとした情報のもとに冷静に見れば、それは一般人にだって想像できることでした。

何しろ米軍は、約1500隻の艦船と、54万8000人の兵力。

一方、迎え撃つ沖縄守備軍は兵力10万弱です。

沖縄に点在するガマ(自然洞窟)が、防空壕や病院として利用されました。

化膿したウデを切断するとき、それを支えるのは本職の看護師ではない学徒動員です。

壕の中は、汗・血・膿、入浴もできない百人もの人間の体臭と人いきれで酸欠状態になるといいます。

負傷兵は増える一方。

休もうにも、壕内はろくに体も横たえられない岩場です。

平良松子は、千里眼で本の配線を予告。

天願十美子は彼女の頬を叩き、「非国民」と詰ります。

日本軍の勝利を疑ってはいけない、と彼女は自分に言い聞かせているのです。

そして、5月21日には首里が包囲され、陥落。

本書では、「ありったけの地獄を集めた戦場」と表現されています。

毎日、攻撃は厳しくなっていくのに、日本側の攻勢はほとんどなし。

平良松子もガス弾の犠牲になります。

6月19日には、ついに解散命令。

兵隊や学徒隊は、各自の判断で戦闘を続けろということになりましたが、なんとも無責任な命令です。

軍医は天願十美子に言います。

「沖縄は本土の捨て石だったのだ」と。

沖縄の役割は、1日も長く米軍を足止めし、「本土決戦」の時間稼ぎをすることだった。

いくら守備軍が頑張っても、大本営は援軍を送らぬと決めていた。

しかも沖縄には知らせずに……といいます。

沖縄が、選挙や基地問題を争点とし、与党が必ずしも優位に立たないのは、こうした出来事があったからです。

子供のためならー「ヨイトマケの唄」より

『子供のためならー「ヨイトマケの唄」より』は、母子家庭が主人公の設定ですが、美輪明宏さんのモデルと違うのは、子どもが女の子とされていることです。

昭和27年。

飲み屋さんで働く下村トモ代の仕事は、お酒以外のことも含めたお客さんの相手です。

そんな母親を、小学校4年の娘・淳子は軽蔑していました。

淳子は、母親のことで学校でからかわれ、いじめられてもいたのです。

そんな淳子が、「いいな」と憧れていたのは、ヨイトマケで働く母親と、お弁当を持ってきた子どもの光景。

子どもは赤ん坊をおぶっていて、決して人が羨む環境とはいいがたいのですが、自分の母親や母子関係と比較して、淳子は羨ましかったのです。

「お母ちゃんも、ヨイトマケで地道に働いてくれたら、私は貧乏でも良いのに」

そんなトモ代は、あることがきっかけでヨイトマケで働くことになりましたが、その時、もう淳子はトモ代のもとにはいませんでした。

心温まるストーリーに仕上がっています。

ぜひ、本書をご覧ください。

以上、ひめゆりの歌が聞こえる~女の戦争哀史~(安武わたる、ぶんか社)は、戦中戦後の時代に翻弄され地獄を生きた女たちを漫画化。でした。


ひめゆりの歌が聞こえる~女の戦争哀史~ (ストーリーな女たち) – 安武わたる

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