『クレヨンしんちゃん』(臼井儀人作、双葉社)全50巻が、AmazonUnlimitedで今月いっぱい読み放題と話題になっています。5歳児がボケて大人がツッコンでいるようでいて、大人が5歳児に振り回されている諧謔の漫画は本来おとなが楽しむ漫画です。
「掛け合い」と諧謔による大人の子供漫画
『クレヨンしんちゃん』は、臼井儀人さんが1990年夏に双葉社『漫画アクション』で連載開始。
現在は、元スタッフによって『新クレヨンしんちゃん』と改題し、『まんがタウン』(双葉社)で連載中です。
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5歳の幼稚園児の主人公野原しんのすけが巻き起こす騒動に、ひろしとみさえの両親をはじめ周囲の大人たち、さらに幼稚園の友人たちが、面白おかしく振り回される日常を描いたギャグ漫画です。
第50巻には、急逝した臼井儀人さんが遺していたプロットをもとにした『オラ みんなのために頑張るゾ!!編』の収録とともに、『新クレヨンしんちゃん』の連載が開始されることも告知されています。
アニメ番組として放送されてから長いので、『ドラえもん』とともに、今や国民的子供向け漫画のイメージができあがってしまったかもしれませんが、原作はあくまで大人が笑えるギャグであり、一貫して青年漫画誌およびレディースコミックで連載されているれっきとした青年漫画です。
たとえば、その『オラ みんなのために頑張るゾ!!編』を見ていきます・
しんのすけたち5人が結成した「春日部の愛と平和を守る」がモットーの組織「かすかべ防えい隊の活動」がテーマになっています。
風間トオルくんに、「しんのすけは何かやりたい事ないか?」と尋ねられると、「20才から34才までのきれいな女の人を守りたい」と答えて、桜田ネネちゃんに「なぜ限定するの?差別しないで全員守りなさいよ」と突っ込まれます。
「全員」と聞いて興ざめした(笑)しんちゃんは、「じゃ、電気をこまめに消すは?」と新たに提案。
佐藤マサオくんに、「どこの電気を消すの?」と聞かれると、またしても「見ず知らずの20才から34才までのきれいな女の人の家を勝手に」と答え、風間くんから「不法侵入!!ストーカー行為!!」と突っ込まれます。
いうまでもありませんが、「5歳児の笑い」ではありません。
それとともに、これは第1巻から一貫していますが、ディテールのやり取りは、「掛け合い」なのです。
サンドウィッチマンが、やってくれそうなネタです。
もっとも、これだけですと、「5歳児がそんなこと言うわけねーだろ」と、それこそ突っ込んで終わりのシーンですが、実は全体を通して、大人のばからしさを悪気のない子供が皮肉った展開になっているのです。
そういう意味では、かつてのコント・レオナルドに近い「芸風」かもしれませんね。
コント・レオナルドのコントは、必ず常識人の国民(石倉三郎)と土木工事従事者(レオナルド熊)のやりとりでした。
石倉三郎さんが、世間でいわれている建前を言うと、一見非常識そうなレオナルド熊さんが絶妙なツッコミを行います。
つまり、巷間正しいとされている建前が、実は穴だらけなんだよという諧謔の笑いです。
5歳児がボケて大人がツッコンでいるようでいて、大人が5歳児に振り回されている諧謔というわけです。
アニメ番組はやっと認められたが……
『クレヨンしんちゃん』は、日本PTA全国協議会なる団体が決めつける、「子どもに見せたくないテレビ番組」の常連でした。
それが、前述のようにTVアニメが長寿番組の仲間入りをしたあたりから風向きが変わり、「舞台である埼玉県の春日部市のキャラクターのような扱いとなり、2016年からは同市のコミュニティバス「春バス」のラッピングに採用された。」(Wikiより)のです。
しかし、それはもとの作者の臼井儀人さんが没した7年後のことであり、あくまでも子供向きTVアニメとしての評価にすぎず、原作に対する評価であるかどうかはまた別の話です。
何しろ、もともとの評価は、「ばかばかしい」「常識を逸脱」「言葉が乱暴」などでしたから。
「言葉が乱暴」だから「見せたくない」そうだが、全くばかばかしい限りだと思いませんか。
たしかに、子どもが口まねしやすい言葉は使っていますが、決して口汚い言葉ではありません。
「ら抜き言葉」とか、女子高生がSNSあたりで使いそうな意味不明言葉などは出てきませんからね。
先日、『働かないふたり』をご紹介しました。
ニートを楽しそうに描いているからけしからん、というピント外れのコメントがあることをご紹介しましたが、それと似たようなものかもしれませんね。
ちなみに、日本PTA全国協議会が「親が見せたい番組」のトップ3は、8年前が『プロジェクトX』『どうぶつ奇想天外!』『その時歴史が動いた』『世界一受けたい授業』『天才!志村どうぶつ園』『ダーウィンが来た!』など。
絵に描いたような根性主義と綺麗事の「理性」、動物に対する愛情表現だけとはいいがたい動物ショーや「教養」番組を「見せたい」と賞賛して押しつけ、何を期待しているのでしょうか。
最近の学園生活は殺伐としており、ただでさえストレスが溜まります。
その上、帰宅してもやれ塾だ、友達とのコミュニケーションはメールになってしまった、「茶の間」はすでに死語になっている……と、子どもが他人と関わることで息を抜ける場も体験的に学習できる場もありません。
その上、テレビからまで娯楽性を奪って「いい子」の鋳型にはめ込んでしまったら、子どもはどこで理性と精神のバランスを整え、人間性を磨くのでしょうか。
何よりも、こうした「教育的な狙い」の発表は、日本の為政者が目指してきた国家の体面・建前と一体化させて振る舞う均質化と排他性に閉じこめられた大衆、すなわち大衆の平準化への道を掃き清めることにつながっていくのではないでしょうか。
もちろん、本当に「俗悪」というか、有害無益な番組もあります。
それについては、最初から、このような調査の体裁をとって勝手にレッテルを貼るのではなく、家庭で親子が議論すればいいのではないでしょうか。
ちょっと違う話だけど、小学校受験の塾で先生をしていたうちの母親は「子どもにクレヨンしんちゃんを見せていないことを自慢する親は、自分の子はクレヨンしんちゃんをフィクションとして楽しむ感性も、現実とフィクションを区別する能力もないと白状してるようなもの」という名言を残した。
— い (@iseyan93) February 12, 2016
このツイートが、なんと2万を超えるリツイートがあったそうですね。
ツイートは、『クレヨンしんちゃん』を理解できないやつは、「フィクションをフィクションとして楽しむ感性」と、「現実とフィクションを区別する能力」が欠落している、と言っているのです。
フィクションなのに、いちいち文句をつけていたら、不倫や、犯罪などをテーマとする作品が成り立たなくなっちゃいますからね。
ただですね、このツイートについて、私なりの補足があります。
私は、映画やTVトラマ・アニメを「これはフィクション」と、きっぱり現実と区別する思考や想像力というのも、必ずしも諸手を挙げて賛成はできないのです。
映画やドラマは、ストーリー自体はフィクションでも、ディテールに真実が描かれている場合があります。
一方、ドキュメンタリーがガチガチの「現実」かといったらそんなことはなくて、現実のシーンを借りて製作者の意図や視点で見せている、フィクションとしての面は否定出来ないのです。
つまり、コンテンツにおける現実とフィクションというのは、はっきりわかれているわけではなく、ないまぜであり、視点の違いによるものなんです。
そのないまぜの中から「真実」を見出すことこそが、物事の本質を見抜くことだと思います。
うわべの「下品」「俗悪」について、「これはフィクションだから」としてしまうのではなく、「下品さの中にある人間の温かさ」「俗悪のヴェールをかぶった前衛的な哲学」などを踏み込んで読み取るべきなのです。
フィクションだから、ではなく、「皮相的」という意味で「俗悪」のレッテルは「くだらない」と思うわけです。
『クレヨンしんちゃん』は、「こんなマセた幼児がいるかよ」といえるようなキャラクターですが、その深奥は子どもの純粋な心を表現しており、作風もあたたかいと私は思います。
全50巻。読み応えあります。
いかがですか。チャレンジしてみませんか。
なお、本作はスピンオフ作品として『野原ひろし昼メシの流儀』があります。
以上、『クレヨンしんちゃん』(臼井儀人作、双葉社)全50巻が、AmazonUnlimitedで今月いっぱい読み放題と話題になっています。でした。
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