サインはV!《合本版》(原作/神保史郎、作画/望月あきら、オフィス漫)は、バレーボールで頂点を目指す女性たちを描いた昭和のスポ根漫画です。激しいライバル意識や身体的ハンディキャップの克服、魔球などで人気沸騰し、テレビドラマ化や映画化されました。
『サインはV!』は、原作が神保史郎さん、作画が望月あきらさんによる昭和のスポ根漫画です。
単行本になった全9巻を、3巻ずつまとめた全3巻の《合本版》として、オフィス漫から上梓されています。
この記事では、Kindle版をもとにご紹介します。
本作のタイトル表記は、『サインはV!』と「!」がつきます。
人気番組となったテレビドラマの方は、「!」を省略して『サインはV』の表記が用いられています。
ちなみに、テレビドラマは、フジテレビの『サザエさん』と同じ日にスタートしています。
『サザエさん』が、いかに長寿番組であるかがわかります。
テレビドラマに人気があったので、本作の原作のほうがコミカライズ、すなわちドラマを原作として漫画が描かれたように思われがちですが、本作が『少女フレンド』で連載されたのが1968年、テレビドラマは1969年(1969年10月5日~1970年8月16日)ですから、テレビドラマのほうが、本作を原作としているのです。
本書は2023年2月04日現在、KindleUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
魔球、ライバルたち、そして栄光へ
“東洋の魔女”が東京オリンピックの女子バレーで優勝したのが1964年。
それによるバレーブームのさなかに描かれました。
以下、カッコ内は、ドラマの設定と配役です。
朝丘ユミ(岡田可愛)は、母子家庭で「川向う」にある木造の借家に住んでいます。
家庭が貧しいので、中学を出ると母の兄が経営する大阪の工場に就職することにしていました。
母は彼女の養育費を、30万円融通してもらっていたのです。
ユミは、姉(西尾三枝子)がバレーボールの練習中に亡くなったため、本当はバレーがしたいのにバレーを憎んでいます。
そんな彼女は、人数が足りないからと引っ張り出された中学大会の決勝戦で、わざとヘマをして負けるつもりだったのが、姉と編み出した魔の変化球サーブを使って勝ってしまいます。
立木武蔵(立木大和)のコーチになった牧圭介(中山仁)は、それを見逃しませんでした。
彼女の家の借金をこっそり整理して、彼女を自分がバレー部のコーチを務める立木製作所に誘います。
心臓の弱かった姉が練習中に亡くなった時の指導者だった負い目から、牧は退職金を前借りしてカネを工面していました。
彼のスカウトで、各地からキャプテンの松原かおり(ドラマは岸ユキ)、朝丘ユミ、椿麻里(中山麻理)、久保田さち子(青木洋子)、小山チイ子(小山いく子)、岡田きみえ(和田良子)らが集まり、チームを結成しました。
椿麻里は、立木製作所の親会社の部長の令嬢ですが、グレていたところを牧圭介にスカウトされたいきさつがあり、ユミに対しては、バレーだけでなく、牧圭介をめぐる「恋の鞘当て」的な存在でもあります。
チームは、牧圭介の指導で力をつけ、立木武蔵は関東選手権の栄冠に輝きました。
最優秀選手は麻里に。
ただし、それは肝心なときに、「ハハキトク」の電報でユミが試合を抜けたこともあってのことでした。
実は、電報は麻里の練習の手伝いをしていた彼女の父親の運転手が、麻里だけを目立たせるために行ったことでした。
彼女は、立木製作所の親会社の部長令嬢と言う身分でしたが、ユミへのライバル心から、人知れず努力をする根性もあったので、その行為にけじめをつけることにしました。
麻理は、運転手の行為の責任をとろうと退団。
もっとも、本音はユミとの勝負づけをするということもありました。
宿敵ニチボー(レインボー)に移籍しましたが、牧コーチはいずれそうなると思っていました。
彼女の抜けた穴をどうするか。コーチが考えあぐねていた頃、黒人との混血の少女、ジュン・サンダース(范文雀)が入部。
ジュンは親のいない黒人とのハーフのため、寂しく、そして差別でつらい思いをしていたためとっつきが悪く、チームワークが乱れかかりましたが、全国選手権に勝ってアメリカにいきたいという気持ちと、閉ざされたジュンの心を、かつては自分もそうだったと優しく見守るユミによって次第に前向きな気持になり、2人は新戦法X攻撃を体得しました。
しかし、ジュンは不治の病骨肉腫が発覚し、全国選手権の大事な試合に出られなくなりました。
しかも、準決勝のヤシカ戦では、大本龍子に魔の変化球サーブを破られてしまいます。
ニチボーとの決勝戦でも、X攻撃は麻理に盗まれており苦戦する立木武蔵。
しかし、すでに死を覚悟していたユミが、チームドクターにモルヒネを打ってもらって試合に強行出場し、超人的な活躍によって勝運が逆転しました。
そして、見事優勝。
ジュンは、彼女たちが優勝の報告をしにきたときに昏睡状態となり、亡くなりました。
マスコミは、自分の名誉のために、ユミの姉に続き、ジュンまで死なせてしまったと責めているような質問をぶつけてきました。
しかし、ユミの姉がもともと心臓が悪かったことは診断書の証拠があり、ジュンも牧が止めるのに「安静にしていても3ヶ月。このままじゃ死にきれないよ」と言って、チームドクターの「出してやれ」という後押しもあって出場に至ったものです。
いや、半世紀も前の漫画で、当時読んでいるのに、今あらためて読むと、グイグイ引き込まれますね。
実に面白い。
望月あきらイズムは仏教イズム!?
望月あきらさんといえば、このブログでは『ゆうひが丘の総理大臣』をご紹介しました。
『サインはV!』には、神保史郎さんという原作者がいるのですが、どちらも「望月あきら作品」のモチーフとして、共通するものを感じます。
不幸せな「ほしのもと」の人を、決して安易に「幸せ」な結末に引き上げない「悲しみ」を作品中に描いていることです。
たとえば、『ゆうひが丘の総理大臣』の『やさしく咲く花…どんな花?の巻』では、『若草物語』のベスをモチーフとした生徒を描いています。
モデルであるベスは薄幸なまま亡くなっていますが、作中でも、クラスのために教室の掃除をしたり、両親が亡くなった自分を引き取ってくれた家族のために尽くしたりしている女子生徒の「縁の下の力持ち」ぶりは、あえて陽の光はあてない方がいい、つまりクラスで称えず見て見ぬふりをしよう、という結論になっています。
『サインはV!』のジュン・サンダースも、不幸な生い立ちで、せっかくバレーボールで心がほぐれてきたと思ったら早逝してしまいます。
せっかくの立木武蔵の優勝も、必ずしも破顔一笑という雰囲気ではなくなります。
どちらも、薄幸な人が報われないのです。
うすっぺらいハッピーエンドでまとめる、創作としての嘘くささを避けたいと思っているのかもしれません。
ただ、私はそれだけでなく、望月あきらさんの作風に、仏教的な考え方を感じました。
不幸せな人が、不幸せであるのは、(本人の責任かどうかは別として)「ほしのもと」などに必然的な理由がある。
それが解決しないまま、幸せになるのはおかしいし、順当な結果ではないのにそれを願うのは、煩悩にすぎないのではないか、ということです。
考え方はいろいろあるでしょうから、嘘くさくても、わざとらしくても、ハッピーエンドのほうが読後感がスッキリする、せめて読み物ぐらい煩悩を結実させてやってくれ、という人もいるかも知れません。
ただ、創作物というのは、著者の書かずにはおれない自己救済としての面もありますから、望月あきらさんにとって、諸行無常はどうしても表現したかったことなのでしょう。
みなさんは、いかが思われますか。
以上、サインはV!(原作/神保史郎、作画/望月あきら、オフィス安井)は、バレーボールで頂点を目指す女性たちを描いた昭和のスポ根漫画、でした。
サインはV!【大合本版】(1) 1~5巻収録 (オフィス漫のまとめ買いコミック) – 望月あきら, 神保史郎
サインはV!《合本版》(2) 4~6巻収録 (オフィス漫のまとめ買いコミック) – 望月あきら, 神保史郎
サインはV!《合本版》(1) 1~3巻収録 (オフィス漫のまとめ買いコミック) – 望月あきら, 神保史郎