ジャンボ鶴田最強説を追う!!俺たちのプロレス vol.14 (双葉社スーパームック)は、12名の関係者インタビューを収録したムックです。ほとんどの人がジャンボ鶴田を絶賛する中で、とことん否定的なコメントに終始した人が1人だけいました。その人の名は……誰だと思いますか?
『俺たちのプロレス』は、現象や事件、団体やレスラーなど、昭和から平成にかけてのプロレスのキーワードについて、関係者のインタビューでアプローチしているムックです。
ムックというのは、BookとMagazineの合わせた出版業界の造語です。
雑誌の体裁で書籍コードにて販売するものです。
『俺たちのプロレス vol.14』では、『ジャンボ鶴田最強説を追う!!』というテーマをたてています。
本誌は2022年7月11日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
一人を除いて絶賛
『俺たちのプロレス vol.14』の扉には、『ジャンボ鶴田最強説を追う!!』というテーマで次のサブタイトルが記載されています。
長州力との60分フルタイムドローから
ジャイアント馬場との「ほんとうの関係」まで!!
12名の証言にによって浮かび上がった
「ジャンボ鶴田最強説」の真実
「証言」した12名は、この方々です。
- ドリー・ファンク・ジュニア
- 百田光雄
- ザ・グレート・カブキ
- 越中詩郎
- 梅垣進
- 谷津嘉章
- 藤波辰爾
- 川田利明
- 田上明
- 和田京平
- 武藤敬司
- 天龍源一郎
そして、市瀬英俊さんの寄稿も加わります。
市瀬英俊さんについては、著書『痛みの価値』(双葉社)をご紹介したことがあります。
12名は、ジャンボ鶴田さんについてどう語ったか。
一人を除いて、「最強」にふさわしいエピソードや賛辞が口々に出ました。
「日本にはババやイノキ、サカグチといった偉大なレスラーたちがいた。リキドーザンもすごく強かったと聞いています。ジャンボもそのひとりであったことは間違いないでしょう」(ドリー・ファンク・ジュニアさん)
「とにかく持って生まれた身体能力がケタ外れだった。たとえばジャパン・プロレスが全日本に来た時に、長州(力)が最終的にはお手上げだったんだから。長州がガンガンいこうと思っているのに「はいはいはい」って手先であしらわれたら、「うわっ、これは無理だな」って長州も絶対に感じたと思うよね」(百田光雄さん)
「僕がびっくりしたのは、昔の大阪府立かどこかの体育館での試合ですよ。夏はクーラーが効かない。(中略)テレビのライトもあるから、リング上は軽く40℃。下手したら50℃近くあるわけですよ。それを「じゃあ、越中くん、行ってくるかね」って言って、UN選手権かなにかでビル・ロビンソンと60分フルタイムで闘ってきたもんねえ。それで涼しい顔して、「今日はまあまあだったね」なんて言って。すごいなあと思いましたよ。だった僕らだって1試合目とか2試合目に出て、10分くらい試合をしただけで、暑さが尋常じゃないですもん。それをビル・ロビンソンと60分ですから。いやあ~、後にも先にもあんな人いない」(越中詩郎さん)
「ジャンボっていうのは、すごいスタミナがあってテクニシャン。身体もある。非の打ち所なんて、どこにもないから。」(谷津嘉章さん)
「鶴田さんがナンバー1だね。あれ以上の人はいないよ。ずば抜けてるんだもん。(中略)だって長州さんとの大阪城ホールの試合(85年11月4日)を見ればわかるじゃん。60分やって、鶴田さんなんて飄々としていたもんね。長州さんは死んでいたでしょう?」(川田利明さん)
「まあ間接的に聞いた話だと、長州(力)さんがよく「あの人は大変だった」って言ってたからね。長州さんとジャンボ鶴田さんは60分やったんだよね?(中略)長州さんは「死ぬかと思った」って言ってたよ。だけど向こうはケロッとしているんだもんね」(武藤敬司さん)
こうした賛辞は、すでにプロレスマスコミでも定説になっていますから、「うんうん、まあそうなんでしょうね」という感じで読めました。
ところが、1人だけ、たったひとりだけ、ジャンボ鶴田を否定する男がいました。
それは、
ザ・グレート・カブキさんです。
アメリカでオーバーした自負、そして嫉妬か
ザ・グレート・カブキさんは、こうした昭和プロレス回顧の生き字引のような人で、面白い話をたくさん聞かせてくれるのですが、今回はなんとなくノリが悪い。
読み直すと、とにかく救いがないのです。
まあ、ジャンボ鶴田さんに対しては、ほぼ全否定のインタビューです。
さすがに、ここまで言うと、なんか含むところがあるのだろうと思ってしまいますよね。
「(大阪城ホールの鶴田対長州戦は)長州がえらいのよ。(中略)新日本を飛び出して、ジャパン・プロレスで乗り込んできたじゃない。でも長州たちが給料もらうのは馬場さんなんだよ。馬場さんにヨイショしなくちゃいけないから、ジャンボを強く見せなきゃいけないのよ。(中略)普通だったら、長州のほうがぜんぜん強いよ。だけど長州は頭がいいから、ジャンボをヨイショしたんだよ。わざと息づかいを荒くして「ハーッ、ハーッ」ってさ。そういうところが、長州はえらいよ」
「(鶴田最強説は)ぜんぜん違うなと思うよ」
「(ジャンボ鶴田はアメリカでやったら)メシ食えないでしょう(笑)。ダメだよね。ドリー(・ファンク・ジュニア)のところに送られて、ちょっとやっただけ。「アメリカで1人でメシを食っててけ」と言われても、まず無理。タイプ的には(アントニオ)猪木さんと一緒よ。猪木さんもアメリカでぜんぜん食えなくて、すぐ帰ってきたじゃない。猪木さんは半年もいなかったでしょう」
「(鶴田さんとの一番の思い出は)いやあ、俺はあまりないんだよね。(カブキさんにとって最強は)マサやんだよ。マサやんは強かったよ。ガッツもあったしね。手も早かったよ」
「ブロディはタイトルマッチのとき、俺のところに聞きにくるのよ。「どうしたらいい?」って言うから「ガンガンいってやれ」って答えたら、ガンガンいってた(笑)。ジャンボはついてこれないもん」
「ジャンボかあ。でもジャンボもこっち(小指を立てる)が好きだったから、誰も手を付けないような女性にも行っちゃってるもんね。年もぜんぜん関係ないから。そこは最強だったんじゃないかな(笑)」
と、最後は中傷で締めくくっています。
少なくとも、レスラーとしてはベタ褒めで、「日本では一番」と絶賛していたジャイアント馬場さんに対する評価とは、あまりにも違いますよね。
別のインタビューでは、ミツ・ヒライさんの名前を出して、ヒライさんが「ジャンボは技が軽いと言っていた」なんて話をしていたこともありました。
どうしてそこまでして、ジャンボ鶴田を落とさなければならないのか。
本誌の中に、答えがあるような気がしました。
たとえば、和田京平さんは、こう言っています。
「(ジャンボ鶴田に対して)最初からやっていた人間は、やっぱり嫉妬するよ。それもプロには必要だけどね。いじめたりはしないけど「コイツには負けん」という気概のもとでやっていたのが高千穂さんであって、アメリカに腰を落ちつけてカブキになったんでしょ。」
天龍源一郎さんも、こう言っています。
「高千穂(明久=ザ・グレート・カブキ)さんとか、(グレート)小鹿さんからは、「そうはいかない」って思われていたんじゃないかな。日プロは相撲部屋に雰囲気が似ていただろうから、義侠心を見せない部分が日プロで育った人にとっては不服で、ジャンボをナンバー2としては認められないみたいなところはありましたよ」
何より、カブキさん自身が、全日本プロレスにいたくなくなった理由としてこう述べています。
「やっぱりね、「ここではいくら努力しても、このままなんだ」って。将来性もなにもないの。だから「アメリカに行くしかないな」って。それで行ったり来たりしていたんだけど、そういうチャンス(SWS旗揚げ)があったから、こりゃいいやって。」
要するに、ジャンボ鶴田さんが原因だったんですね。
自分は叩き上げて頑張って、アメリカで苦労してオーバーしたのに、何の苦労もしていないジャンボ鶴田は絶対に抜けないのかよと。
結局、同じようなことを言って去っていったのが、タイガー戸口さんであり、長州力さんであり、天龍源一郎さんだったわけです。
カブキさんが、この手の嫉妬や対抗心が強いのは、日本プロレス時代、鳴り物入りで入門したグレート草津さんやサンダー杉山さんらを道場で極めていじめていたことでも明らかです。
そして、やはり別のインタビューでは、日本プロレスで一緒にやっていた、藤井誠之さんや平野岩吉さん、本間和夫さんら、上に行けずに引退したレスラーたちに対して向上心の緩さを指摘し、先輩の松岡巌鉄さんに対しては、「アメリカでは食えない」と断言していました。
それだけ、自分は向上心と努力で上に行けたのだ、という自負があるわけです。
よくいわれる、サムソン・クツワダさんによるジャンボ鶴田さんの引き抜きと独立の話も、最初の暴露者はカブキさんでしたが、果たして大仰に暴露するほどの話だったのか。
つまり、それほど大した段階でないところで頓挫したものを、さも深刻なクーデターのように話すことで、ジャンボ鶴田が面従腹背の徒であることを強調したかったのではないかという気もしてきました。
自分が、ジョニー・バレンタインから奪ったユナイテッド・ナショナル選手権を、復活王座決定戦の出場権はジャンボ鶴田にとられてしまい、その前にジャンボ鶴田には30分1本勝負で敗北。
その試合は、王座決定戦の出場権を賭けた試合、にはしてもらえず、あくまでも決定戦の権利はジャンボ鶴田にあり、格上のジャンボ鶴田が胸を貸すような形になった、高千穂明久にとっては屈辱的な試合だったと思います。
鹿児島で、ジャイアント馬場さんがNWA世界ヘビー級選手権を奪取した試合も、足を痛めたジャイアント馬場さんに、肩を貸してやれと、高千穂明久さんがジャンボ鶴田さんに指図しているシーンは、2人の微妙な関係をなんとなく感じさせてくれました。
そんなわけで、ジャンボ鶴田の凄さを再確認するとともに、高千穂明久⇒ザ・グレート・カブキのジェラシーをも知ることとなった興味深いムックです。
未見の方は、いかがですか。
以上、ジャンボ鶴田最強説を追う!!俺たちのプロレス vol.14 (双葉社スーパームック)は、12名の関係者インタビューを収録したムック、でした。