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スラム団地(松田奈緒子著、KADOKAWA)は、著者が幼少期(1970年代)を過ごした団地やその地域の生活を回顧したコミックエッセイ

スラム団地(松田奈緒子著、KADOKAWA)は、著者が幼少期(1970年代)を過ごした団地やその地域の生活を回顧したコミックエッセイ

スラム団地(松田奈緒子著、KADOKAWA)は、著者が幼少期(1970年代)を過ごした団地やその地域の生活を回顧したコミックエッセイです。高度経済成長時代の象徴である団地で、昭和の価値観とリアリティのある庶民の暮らしが漫画で再現されています。

『スラム団地』は、松田奈緒子さんによって、KADOKAWAから上梓されました。

この記事は、Kindle晩をご紹介しています。

作者が、著者が幼少期(1970年代)に団地転居し、学校やご近所との日々を振り返ったコミックエッセイです。

本書は2023年2月1日現在、KindleUnlimitedの読み放題リストに含まれています。

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高度経済成長期を団地で過ごした理想的な家族

主人公(作者)の一家は、作者の「なおこ」ほか、ガテン系労働者で借金大魔王の「父」、美容師でおおざっぱな性格が玉にキズの「母」、次女の「のりこ」という4人家族です。

1970年代は高度経済成長時代。

日本国中に、たくさんの団地が作られましたが、そのなかのひとつ、5階に一家はお引越し。

作中のセリフは、すべて博多訛り(だと思います)です。

新築に入るというのは羨ましいですね。

水洗トイレに感動する作者。

お風呂にシャワーがついているのに驚く次女。

私は1969年に、当時の家賃8万8000円(今でいうと35~40万)のマンションに住んでいましたが、なんと風呂にはシャワーがありませんでした。

今は、別の建物がたっていますが、10年ぐらい前まではありましたが、40年経っても家賃は据え置きでしたね。

それはともかく、部屋は6、6、4.5、4.5畳にキッチン、風呂、トイレですから、団地としては破格の部屋数です。

4部屋あれば、ファミリーとしては十分では?

マイホームわざわざ必要ないでしょう。

団地は何棟もあるので、敷地内には公園もあります。

小学校の児童の8割がその団地の子弟と書かれていますから、相当大きい団地ですね。

ナントカ団地前とか名前がついて、バス停ができる規模なんだろうと思います。

第1話は、そんな家族と団地の紹介が描かれています。

そして、第2話からは、団地の友達や学校生活に。

作者は、ゆみこちゃんという友だちができます。

もちろん、ゆみこちゃんも団地の住人です。

本人同士は気が合って、クラスは違ってもなかよしに。

いつも、作者の家に遊びに来るゆみこちゃん。

「たまには、ゆみこちゃんちで遊びたか~」

「でもウチ」

「おかあさん、だめって?」

「うん、聞いてみる」

翌日、「お母さん、よかって」

今思えば、「お母さんが許した」というのは、嘘だったかもしれない、と作者。

ゆみこちゃんの家に入ると、部屋も玄関も箱がうず高く積まれて、足の踏み場もありません。

「ウチねー、おかしの卸、しよっとさ~」

「コレ、全部お菓子?」

「好きなととって」

ゆみこちゃんがくれたキャンディは、ソーダ味、みるく味、いちご味。

ということは、キャンディ3つですね。

家に帰って、「ゆみこちゃんにアメもろたよ」と母親に報告する作者。

ところが……

翌日、ゆみこちゃんが暗い顔しています。

「ゆみこちゃん、どがんしたと!?」

「あのね……。きのうあげたキャンディは、売り物やけん。返してもらうか、食べた分、お金払ってもらいなさいって、おかあさんが……」

作者は、それを母に云うと、

「子供の食べるものにカネ払えって?うちだって、お菓子出しとるとに」

100円200円の額だったけど、それを云うゆみこちゃんの気持ちはどんなだっただろう、と作者。

原価にしたら、せいぜい20~30円程度のもの。いや、もっと安いか。

お菓子の卸は、ゆみこちゃんの「新しいお父さん」がしていたそうです。

ゆみこちゃんの食べた分も、母親が「新しいお父さん」に払っていたのかもね。

その後、2人は疎遠に。

ま、そうなりますわな。

中学の時、作者はゆみこちゃんにばったり会うと、ゆみこちゃんはポツリと、「うち、お母さん好かんと」。

作者は、ゆみこちゃんと、それっきり会っていないそうです。

作者のお母さんが、「そんな子と付き合うな」と言った……とも思えませんが。

何しろ、作者の家は、お母さんは大雑把で、塾に行かせたり、勉強勉強と厳しく言ったりはせず、挨拶をちゃんとする以外はとくに締め付けはなかったよう。

お父さんは気のいい人で、まあ「人のいいのもバカのウチ」と言いますが、すぐ知り合いの借金の保証人になってしまうそうです。

そこで、一家はいつも借金を抱えて食生活も質素。

でも、夫婦仲も悪くならずに一家楽しくやっているのですから、良い家庭だと思います。

ゆみこちゃんは、きっと毒親なのでしょう。

対象的に、作者の家庭は理想的だと思いますね。

やや貧しいけれども愛情のある家庭

これは、ホントに理想なんです。

盗まないと食えなくなるほど貧しすぎると、犯罪者に転落します。

気持ちも貧しくなります。

たとえば、このブログでは、『猶予の日々』をご紹介したことがあります。

マブチモーター社長宅殺人放火事件の死刑囚・小田島鐵男が、約2年に渡って綴り書籍化されたブログの漫画化です。

『猶予の日々』はマブチモーター社長宅殺人放火事件の死刑囚・小田島鐵男が約2年に渡って綴り書籍化されたブログの漫画化
『猶予の日々』は、マブチモーター社長宅殺人放火事件実行犯の死刑囚・小田島鐵男が、約2年に渡って綴り書籍化されたブログ『死刑台への実況中継』を原案とした漫画です。『殺人犯の断末魔』という書籍に、本人の協力の下に漫画化されています。

小田島鐵男は、貧しさのあまり、中学生時代に買い物に行った店の引出しから現金を盗み補導されたのが、転落人生の始まりです。

中卒後、16歳のときには空腹に耐えられず、食堂で食べ物を盗み中等少年院へ。

出院後も窃盗の常習となり、職を転々としながら各地で罪を犯して何度も服役します。

『映画になった恐怖の実話』(鉄人社)で紹介されていた、川口祖父母殺害事件はもっとひどかった。

川口祖父母殺害事件を題材にした映画『MOTHER マザー』について解説されているのは『映画になった恐怖の実話』(鉄人社)です。
川口祖父母殺害事件を題材にした映画『MOTHER マザー』について解説されているのは『映画になった恐怖の実話』(鉄人社)です。少年が、母親に求められて自分の祖父母に手をかけたものの、母親は「息子が勝手にやった」と供述した事件です。

何しろ、母親が子に直接、祖父母への強盗殺害を命じて、しかも裁判では、息子が勝手にゃったことととぼけているんですからね。

逆に、金持ち過ぎても、カネの価値がわからなくなる上、往々にして精神的には寂しい子が多いですよね。

親がもカネだけ与えてほったらかしとかね。

あとは、団地生活で、いろいろな人との関わりから、人間の価値観の幅を学んだこともよかったですね。

団地と昭和のベビーブームで、小学校は12クラス。

その8割が団地の子弟ですから、名前どころか、顔を覚えきることもできないほどのたくさんの子供たちがいたわけですから。

ネットは便利ですが、やはり人はナマミの人と関わることが大切です。

とまあ、こんな感じで、当時の生活が漫画で回顧されています。

登場人物がリアリテイのある描き方

作者自身の幼少期を漫画化して、それが注目されるようになったのは、『ちびまる子ちゃん』からでしょうか。

団地というのは、高度経済成長時代の代名詞といってもいいですね。

公団かな。

私も1度住んでみたかった。

でも、部屋は4つもあるのは、かなり広いのではないでしょうか。

私が、親類宅などで知る団地というのは、ほぼ正方形のスペースの中に、『玄関+風呂+トイレ』『キッチン』『6畳』『4.5畳』でした。

豪邸ほど価値が高い、外聞が良いと思っている人もいるかも知れませんが、私は今でも団地サイズの住居で十分だと思います。

だって、掃除も大変だし、維持するのもね。

たとえば、豪邸で、芝生のある庭と、池の鯉なんか、何の役にも立たない金食い虫ですよ。

今でも、都営アパート、応募したいなと思ってますから。

本作が、『ちびまる子ちゃん』と違うのは、団地だけに、家庭外のあれこれの話が多いことと、登場人物が、全員ではありませんが、中には妙にリアリテイがある描き方の人がいました。

もちろん、コミックエッセイだから体験に基づいているストーリーですが、顔の描き方がね。

本人は、「あ、これ私じゃないの」と気づくでしょうね。

当時(1970年代)を知っている人はもちろん、平成世代の人も、「ああ、こういう時代があったんだ」と、楽しく読める一冊だと思います。

以上、スラム団地(松田奈緒子著、KADOKAWA)は、著者が幼少期(1970年代)を過ごした団地やその地域の生活を回顧したコミックエッセイ、でした。


スラム団地 (コミックエッセイ) – 松田 奈緒子

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