ドラマ新婚さん(ひきの真二、双葉社)は、夫がコンビニ店長、妻が店のオーナーの娘で年上という夫婦の日常を描いたコミックです。しかも妻は再婚なのに夫の気持ちを配慮せず、夫はいつも妻が自分を愛してくれているのか不安な日々を過ごしています。
女性が男性と関係する意味が変化した時期の作品
ドラマ新婚さん(双葉社 連載、1989年、単行本全3巻)は、タイトルに「ドラマ」とついていますが、テレビドラマをコミックライズしたわけではなく、作者のひきの真二さんオリジナルのコミックです。
設定は、ハッピーマートというフランチャイズ制のコンビニのオーナーの娘・静香と、その店長を務める並平が夫婦。
夫は24歳で、妻は27歳。
夫は初婚。妻は再婚です。
その2人と、その周辺の人々をめぐる日常マンガです。
単行本は全3巻で完結しています。
AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれていたので拝読しました。
時は1989年。
つまり、昭和から平成に変わった頃です。
男女雇用機会均等法ができたのが、その4年前です。。
そして、トレンディドラマと呼ばれる、性が比較的開放的に描かれたドラマが流行し始めたのが、やはり1980年代後半です。
女性が、いろいろな意味での自由を獲得した時期です。
当時のトレンディドラマは、それまでの定番だった片思いの男性を思い続けるという純愛ではなく、わりとあっさり関係するようになっていました。
しかも、主要な登場人物が、みんな穴兄弟と竿姉妹とか(笑)
たとえば、当時人気のあった『男女七人夏物語』(1986年)では、明石家さんまさん演じる男性が、池上季実子さんや大竹しのぶさんらと関係。
ところが、池上季実子さんと大竹しのぶさんは友達で、それが発覚しても友情は壊れません。
男性陣も、明石家さんまさんの友達の片岡鶴太郎さんで、池上季実子さんのことを思っていたのに、池上季実子さんとシた明石家さんまさんとは友達であり続け、結局自分はその池上季実子さんと暮らすのです。
私のような奥手で純愛好きな人間は、ドラマ自体は面白いと思いながらも、もしこれが自分を巡る現実だったらと思うと、ちょっと嫌だなと思ったものです。
簡単に述べると、愛についての考え方や、女性の「処女」性に対する価値観が決定的に変わる時期だったのだと思います。
もちろん、現代も男性経験のないまま婚姻する女性はいますが、「いつか出会いたい星の王子さまのために、取っておく」という「男性軸」の考え方は影を潜めるようになり、その傾向がはっきりと漫画やドラマでも描かれるようになったのがこの時期あたりからではないかと思います。
それを含みおいた上で、本作を読むと、登場人物の設定が飲み込めるのではないでしょうか。
女性優位の夫婦関係
ですから、本作の特徴は、男女の設定が従来の作品に比べると異色に感じられるかもしれません。
それまでは、恋愛や結婚生活を描く場合、男性優位に描かれていました。
女性は、どんな男性が星の王子さまとして自分の前にあらわれるのかが、人生の幸せを決める指標でした。
ところが、本作は違います。
妻は、再婚のくせにいつも無愛想で、夫に気を使わせたり、気をもませたりしています。
自分は、前夫と食事までしてしまうくせに、現夫の行動には手厳しいのです。
夫は、いつもそんな妻の心の中を心配しています。
妻は、いったい自分を本当に愛してくれているのかと。
再婚のくせに……、と書くと、再婚を見下しているのかとの非難が来そうですが、そういう意味ではありません。
見下すという意味はありませんが、再婚の人のほうが、初婚の人に気を使うのは当然だと思います。
なぜって?
かつて結婚生活があった人と結婚する配偶者は、大変不安なのです。
なぜ離婚したのだろう。
今は、前夫とはちゃんと切れているのか。
いや、会ったり連絡をとったりしなくても、妻の心の中に未練や後悔などの気持ちは残っていないのか、という意味です。
自分との結婚生活は、前夫と比べてどうなのか。
自分のほうが劣ることはないのか。
もしあったとして、それが不満になっていないか。
セックスは、前夫よりも満足させているのか。
もっと踏み込めば、妻は1回失敗している人なんだから、自分との結婚生活だっていつケツを割るかわかったものではない、なんて不安もあります。
心配の種はつきないのです。
過去を持っている方が、過去を心配している人に心配させないようにするのは、当たり前じゃないですか。
ましてや、この夫婦は妻のほうが3歳年上なのです。
妻が気を回して配慮したほうがいいのに、と思える場面ばかりです。
ところが、この妻は全く夫に配慮しません。
それでいて、自分の独占欲だけは旺盛なのです。
自分の満足度で「愛の結晶」を作るかどうか決める
たとえば、1度読んだだけでは、すぐに理解できないところがありました。
夫は、愛の証として子供を欲しがっているのに、妻は「そんなありふれたものに憧れているのか」と取り合ってくれません。
ところが、妻は前夫に対しては、今の夫と同じことを経験していました。
つまり、妻は子供をほしいと願っていたのに、前夫は「そんなありふれたものに憧れているのか」と取り合ってくれなかったのです。
読んでいて、「そりゃおかしいだろう」と思いました。
だって、前夫には子供を求めておきながら、今の夫との間には、夫が求めているにも関わらず子を欲しがらないなんて。
何をもったいぶっているのだ、と思いました。
今の夫からすれば、前夫の子は欲しくて、自分との子はほしくないのか、と不信感を抱いて当然です。
ストーリーを追うと、どうやらこういうことのようです。
前夫は、自分に何も与えてくれなかった。(だから子供が欲しかった)
でも、現夫は与えてくれる。(だから子はいなくても満足)
与えるというのは、一途な愛らしいのですが、それにしても、自分勝手ですよね。
子がいるか要らないかは、自分の満足度が全てで、現夫の気持ちなんて考えていませんから。
まあ、ネタバレしますと、結局妊娠はするんですけどね。
男女平等とはなんだろうか、と考えてしまいました
私は、そこで改めて考えてしまったのは、「男女平等」についてです。
この世の中は、現在も男社会だと思います。
ただ、本当にそれはいけないことなのか。
「男女平等」は、真の両性の平等なんだろうか。
だって、この漫画にもあるように、子を出産するのは女性ですから、その家庭にとって子孫を残せるかどうかは女性が鍵を握っているのです。
嫌なら、生むのを拒絶することも、不倫して婚外子を生んでしまうことだってできるのです。
そして、平均寿命も女性の方が長い。
生物学的には、女性が優位なのです。
さすれば、せめて社会的には男性に権限を持たせなければ、男女の力関係のバランスは保てないのではないでしょうか。
本作の傲慢な妻を見て、そんな気がしました。
SDGs的に、この意見はけしからんですか?
本作を読まれた方のご意見、お伺いしてみたいものです。
以上、ドラマ新婚さん(ひきの真二、双葉社)は、夫がコンビニ店長、妻が店のオーナーの娘で年上という夫婦の日常を描いたコミック、でした。