ドン底すぎる女たち Vol.9(ぶんか社)は、『私、憎まれてます~人の悪意が一番怖い~』というサブタイトルがつく短編マンガ集です。不妊女性の嫉妬、誤解を謝れない女性などを描きます。作者は川端みどり、小野拓実、さやかゆみ、椎名ほの、三谷三枝子。
『ドン底すぎる女たち Vol.9 私、憎まれてます ~人の悪意が一番怖い~』(ぶんか社)は、川端みどりさん、小野拓実さん、さやかゆみさん、椎名ほのさん、三谷三枝子さんらの短編マンガを収載したものです。
人間の嫉妬や自己愛、群集心理などが描かれていて、実にリアリティがあります。
収録作品をご紹介します。
ドン底すぎる女たちから9 私、憎まれてます~人の悪意が一番怖い~
- 「花 朧」川端みどり
- 「いじめの罪」小野拓実
- 「償いの行方」 さやかゆみ
- 「悪意の眼差し」椎名ほの
- 「棄てられた女」 三谷三枝子
嫁姑問題。ひどい姑の嫁いびりは、自分もそうされていたからだった。
いじめで級友を自殺に追い込んだ女生徒に起こった「報い」
小学校のときにいじめていた元級友が同じ職場になって……
マンションに越してきたセレブ然とした女性と意地悪な管理人。結末は大どんでん返し
愛人に子供ができたからと、熟年離婚させられた女性の復讐劇
「悪意」がテーマですが、中には、怒って当然と思えるものもあります。
「熟年離婚」というのは、妻が夫に付きつけるものかと思っていましたが、そうではないケースもあるんですね。
妊娠出産は、女性だけができる「女の武器」としての側面を持ち、それは同時に「弱点」にもなってしまう、もといさせられてしまうものということを考えさせられました。
いずれも短編ながら読み応えがあります。
『ドン底すぎる女たち Vol.9 私、憎まれてます ~人の悪意が一番怖い~』は2022年10月12日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
本記事では、その中で「いじめの罪」をご紹介します。
嫉妬と自己愛から取り返しがつかないことに
『いじめの罪』は、学校でのいじめを問題にしています。
モチーフとしては、以前ご紹介した『目撃者はいなかった』と重なるものがあるかもしれません。
すぐに誤りを認めておけばいいものを、自己愛でそれを拒んでいるうちに取り返しのつかないほど大きな禍根になってしまったというストーリーだからです。
そして、『目撃者はいなかった』も、主人公は決して極悪人ではなく、ありがちな誤りが発端になっているところに、他人事と思えないリアリティがあるわけです。
さて、ストーリーは、いきなり、女子中学生が遺書を残して自死するシーンから始まります。
遺書にはこう書かれていました。
学校でのいじめに
もうたえられない…
クラス全員 大キライ!!
特に紅粉美咲
こいつだけはゼッタイ
ゆるさない!!
「紅粉美咲」というのは、主人公の女子中学生です。
自殺した高橋絵真は、6月に転校してきました。
ちょうど、主人公が風邪で3日間休んでいたときです。
学校へ行くと、美咲のいちばんの親友である朋香が、高橋絵真と楽しそうに話をしていました。
「誰?」
「茨城からの転校生よ。私達仲良くなったんだ」
紅粉美咲は、いきなり心の中に嫉妬心が芽生え「嫌だな」と思います。
「私と朋香の間に入り込んでくる図々しい子。三人組って二対一になりがちで気を使う」
絵真の家は母子家庭で、1Kのアパート。
トイレが共同で風呂もない貧困家庭でした。
朋香は絵真の境遇に同情し話を聞いていましたが、紅粉美咲は他人の身になってものを考えるのが苦手なようで、じめじめした古い汚れの染み付いた部屋を軽蔑していました。
まあ、そういう子供というのは親の影響を受けるものです。
紅粉美咲が、家に帰ってそのことを母親に話すと、
「母子家庭でそんなに貧しいの。大丈夫なの、その子。お友達は選ばないと」
片親は何仕でかすかわかったものではない、と娘に刷り込んでいます。
そんなある日、その母親の財布から1万円がなくなったといいます。
「俺知らないぞ」と夫。
「じゃあ、まさか美咲」
「ちょっと、変なこと言わないでよ」
この母親は、自分の娘すら悪者にしてしまう、救いがたい自己愛の持ち主のようです。
「そういえば美咲。今日お友達来てたわよね。絵真ちゃんの家って貧乏なんでしょ?まさか」
夫が怒り出します。
「いい加減にしろ!!娘の友達疑うなんて最低だぞ!!」
おー、いいこと言いますね、夫。
「じゃ、いいよ。俺が取ったことにして!!それでいいだろ!?」
夫、格好良すぎますね。
まあ、それには裏があるのですが、それはともかくとして、母親はこれでも考えを変えません。
「娘の友達に、もしも手クセの悪い子がいたら悪影響じゃない」
「悪影響」はむしろ母親で、美咲も母親の言い分に引きずられ、トイレで中座した絵真を疑います。
翌日、「うち、固定電話がないから」と携帯電話を買った絵真について、「家から盗んだお金で買ったのね」と思い込んだ美咲は、絵真に問いただします。
絵真は烈火のごとく怒りだします。
「いくら貧しくても、私は盗みなんかしないよ!!馬鹿にしないで!!」
これはわかりますね。
私の母子家庭だったので、まあ盗みを疑われたことはありませんでしたが、何かというと「あそこは、お父さんがいないから」という話になっちゃうんですね。
そうなると猜疑心が芽生え、そうは言っていなかった人に対しても、目引き袖引きの仕草があるような勘ぐりをしてしまうのです。
それはともかくとして、怒鳴られたことで、絵真は腹を立てます。
一方、美咲も「美咲…謝ったほうがいいよ」という朋香のたしなめも聞きません。
絵真は、「もういい。朋香、行こう」と、絵真は朋香の手を引いてその場を立ち去ります。
「なんで(私の友達の)朋香を連れて行くのよ。あとから割り込んできたくせに。泥棒のくせに」
感情が高ぶる美咲。
とうとう別のクラスメートに、「家のお金を盗まれた」と言いふらし始めます。
そして、「ボロい家」を教えて印象操作に励みます。
ところが、美咲が家に帰ると、真相が明らかになります。
食卓で、絵真の話をする美咲。
「問い詰めたのに認めないんだよ、ムカつく~」
すると夫(父親)が、
「馬鹿!!言っただろ。俺が取ったんだって。珍しく財布が開いてたからラッキーと思ってさ」
やっぱり、犯人はオヤジだったのです。
「明日にでも謝って仲直りするんだぞ」
「お父さん、ひどい」
美咲は、「今更仲直りなんかできない。絵真なんかに頭下げるのはまっぴらよ」
ま、オヤジも反省したのなら、一緒について行って謝るぐらいしてやってもよかったんでしょうけどね。
だた、問題はそこで謝らなかった美咲です。
噂は広がり、美咲は罪人呼ばわり。
美咲は謝るどころか、美咲は朋香の財布を美咲のカバンに入れ、ダメ押しします。
担任のデモシカ教師まで、頭から絵真を疑うようになり、とうとう絵真は……。
人一人の命を失うところまでことが大きくなっても、美咲は「せいせいした」と思っています。
ひとつは、そう思わないと自分を正当化できないこと。
もうひとつは、母親が「人の噂も七十五日だから」とかばい立てていたことで、自己批判する機会を失っていたことです。
しかし、冒頭の遺書の内容が明らかになり、ネットで実名や連絡先までがさらされます。
しかも、父親も左遷。
「どうして?言わなくてもわかってんだろ」
社会的制裁は、父親までも巻き込みました。
父親も、1万円くすねたことが高くつきましたね。
美咲は居づらくなって、母方の姓を名乗って転校しますが、それでも制裁は終わらず……。
結末は本書をごらんくたさい。
なかなか興味深いストーリーでした
いやあ、なかなか興味深いストーリーでした。
ポイントはこのへんでしょうか。
1.自己愛
2.毒親
私が小中学の頃は、昭和40年代でしたが、差別キーワードがありました。
1.片親
2.在日
3.同和
東京の場合、「3」は関西程ではないのですが、まあ、要するに世間は、なにか理由をつけて他人にマウントを取りたいんでしょうね。
それと自己愛ね。
なんとかならないですかね。
自己愛の人というのは、仲良くしていても、いざとなれば平気で人を裏切ったり、嘘をついたり、美咲のように自己正当化のための仕掛けをしたりしますからね。
いずれにしても、「自己愛」というのは、結局、自分の価値を下げることになる、自分自身への独りよがりな陶酔や自己防御ということです。
そして、そのひずみは社会や他者が被ることになるのです。
関わったものは、自己愛に振り回されてしまう、ということです
自分は、全世界77億人の中の1人にすぎない雑魚である、という原点に立ち返ることはできないのでしょうか。
というように、短編マンガではありますが、考えさせてくれます。
他のストーリーについても、また後日、機会があったらご紹介したいですね。
みなさんも、読まれてはいかがですか。
以上、ドン底すぎる女たち Vol.9(ぶんか社)は、『私、憎まれてます~人の悪意が一番怖い~』というサブタイトルがつく短編マンガ集、でした。
ドン底すぎる女たち Vol.9 私、憎まれてます ~人の悪意が一番怖い~ – 川端みどり, 小野拓実, さやかゆみ, 椎名ほの, 三谷三枝子
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