『ナニワ銭道』(及川コオ、徳間書店)は、『もうひとつの「ナニワ金融道」』というサブタイトルのついた スピンオフ標榜作品です。ただし、『ナニワ金融道』とは別設定で同一の登場人物も一切出てきません。不動産売買や株などを扱っています。
『ナニワ金融道』のスピンオフを標榜
『ナニワ金融道』は、青木雄二さんによる未曾有の大ヒットとなった金融漫画です。
その続編である『新ナニワ金融道』は、青木雄二さん没後、青木雄二プロダクション名義で発表されました。
本作『ナニワ銭道』(及川コオ、徳間書店)も、青木雄二プロダクションの「原作」作品です。
2009年~2013年に、徳間書店の『週刊アサヒ芸能』に連載されました。
『もうひとつの「ナニワ金融道」』というサブタイトルがつき、スピンオフ作品を標榜しています。
スピンオフというのは、派生作品(はせいさくひん)のことです。
もとの作品の、特定の登場人物や設定で新たな作品を創造することを言います。
もともと、企業が特定の部門を分離して、新会社として独立させることをさします。
ただし、全16巻を通じて登場人物は、『ナニワ金融道』には一切てできません。
簡単に言うと、別作品です。
おそらくは、スピンオフを標榜することで、『ナニワ金融道』の購読者層をそのまま引き継ぎたかったのでしょうか。
スピンオフではありませんが、作風は似ています。
『ナニワ金融道』の灰原達之似の青威雄一郎と、吉村定雄似の小藪蛙次、桑田澄男似の下品銀三が中心人物です。
そして舞台が、やはり金融に関係があります。
『ナニワ金融道』は帝国金融、『新ナニワ金融道』がナニワ金融と、いずれもマチ金が舞台でした。
手形や債権回収などがストーリーを動かしました。
一方、『ナニワ銭道』は、企業の調査会社を舞台に、不動産売買や株取引などが登場します。
貸金業法が改正されたのと、トレーダーや不動産売買で利益を得る人も増えてきたので、「お金」に関する話題をより広く扱いたかったのでしょう。
今も言われていますが、この頃はハイパーインフレの恐怖を煽る専門家もいて、かつ年金が危ないという報道もされていたので、国に頼らず、地道な働き以外でお金を得ようという考え方がトレンドになりつつありました。
これは、今も同じですね。
もっとも、今見ると、登場人物はスマホを使っていないので、少し古い作品に見えるかもしれません。
それでも、東日本大震災を挟んでその2年後まで連載されていたのです。
時の移ろいは、過ぎてみるとあっという間です。
企業やオーナーの瑕疵を探す「調査業」
大阪ミナミのキャバレーではたらく青威雄一郎(21)。
岡山の役場で臨時採用されていましたが、漫画家になる夢を持ち、大阪に出てきました。
しかし、水商売で稼ぐのは、経営者と一部のホステスだけで、その他大勢の男性職員である青威雄一郎は、雑用の激務で給料は月に12万。
先々の夢も希望も展望もない日々です。
そんなある日、同僚の小藪蛙次(40)に茶を誘われます。
青威雄一郎のマンガ原稿を読んだ小藪蛙次は……
「これがいくらになんねん?」
「まだカネは…入選しないと…」と青威雄一郎
「まだ…?さよか。夢に向かって進みたいと…。夢を持つのはええこや。しかし、それだけではアカンわ」
なにが「アカン」のか。
小藪蛙次は2点挙げます。
ひとつは、機会費用の損失。
機会費用というのは、その人間が本来の才能をフルに発揮して稼ぐべきであろう対価のことです。
90分で5万円稼ぐホステスが、コンビニで同じ時間働いても時給800円として1200円にしかならない。
その差額の4万8800円が、機会費用の損失というわけです。
お金にならない漫画を描いて、貴重な時間を費やすよりも、自分の能力をより高い対価に向けたらどうか、と小藪蛙次は言っているわけです。
これは、耳が痛い(笑)
私も、このブログを書く時間を別のことに使ったら、もう少し財布にはお金が……
私のことはともかくとして、もうひとつは、社会性です。
21歳で、役場の土木課とキャバレーしか経験していない青威雄一郎が、社会と人間を深掘りする漫画を描けるのか。
漫画を描くなら描くで、社会勉強が必要というわけです。
それらを満たすために、自分と仕事をしようと誘われます。
小藪蛙次はキャバレーのスタッフをしながら、同僚に金貸しをしていました。
通帳には1億円。
たしかにすごいですが、それだけではまだ信用もできないし、自分には金貸しはできないだろうと考え、イエスとはいえません。
しかし、小藪蛙次は、別に金貸しのパートナーに青威雄一郎を誘ったわけではありませんでした。
小藪蛙次は企業調査の仕事を行うために、誠実な仕事をする青威雄一郎のちからが欲しかったのです。
企業調査というと、格好良さそうですが、実際には投資家を相手に、企業やオーナーの弱点やスキャンダルを探ったり、金融機関や証券会社、投資顧問からの調査を請け負ったりする、要するに探偵業のようなものです。
表向きは飲み屋の親父である下品銀三が「ウラの仕事」として行ってきましたが、歳を取ってきたので小藪蛙次がその後継ぎをするのです。
青威雄一郎は結局、小藪蛙次のもとで仕事をすることになります。
『ナニワ金融道』では、灰原達之が功名心に走ってしくじることがありましたが、本作も青威雄一郎が尾行に失敗するシーンがしばしば登場します。
小藪蛙次は、リンチにあったり、監禁されたりもします。
調査の仕事も大変だな、と感じます。
2014年には映画化もされた
本作は。徳間書店の『週刊アサヒ芸能』に2009年から2013年まで連載されましたが、映画化もされています。
甥っ子の舞台の劇場から近かったので、近すぎて行けてなかった「ナニワ銭道」のロケ地に行って来ました??
お店はちょっと変わってるけど??
青威くんこんなに近くで撮影してたんやな~?#ナニワ銭道 #窪田正孝 pic.twitter.com/oHjE9yBGmT— cocolo☆ (@tenshiKBT) March 29, 2017
もっとも、短期間、R15+指定の上映だったので、あまり知られていないかもしれません。
封切られたのは2014年7月12日。
青威雄一郎役は窪田正孝、小籔蛙次は的場浩司、下品銀三は大杉漣でした。
お金の悲喜劇を描いた作品というのは、たしかにリアリティがあります。
『新ナニワ金融道』で桑田澄男が、「金と知恵のない奴が不幸になる」というようなことを言っていて、私がまさにそうなので、なるほどなあと勉強になります。
ただ、金を稼ぐ成り上がりこそが「人生の成功なのだ」という風潮が出来上がってしまうと、人の評価が薄っぺらくなってしまったり、人のつながりが希薄なものになってしまったりするようにも思います。
そうでなくても、現代はネットが普及して、言葉だけのやりとりで完結してしまうことが少なくないですからね。
とはいいながらも、お金はほしいですけどね。
以上、『ナニワ銭道』(及川コオ、徳間書店)は、『もうひとつの「ナニワ金融道」』というサブタイトルのついた スピンオフ標榜作品、でした。