プロ野球「黒歴史」読本メディアを騒がせた75人の男たち(手束仁著、イースト・プレス)は、事件・騒動・イメージの「黒歴史」を振り返ります。登場する人々は、古今東西の選手のほか、監督・コーチ、さらにはフロント・球団首脳まで網羅しています。
『プロ野球「黒歴史」読本メディアを騒がせた75人の男たち』は、手束仁さんがイースト・プレスから上梓した書籍です。
古今東西のプロ野球選手(外国人選手含む)に加え、監督やコーチ、さらにフロント・球団首脳まで「悪党」が枚挙されています。
その中には、球団は作れませんでしたが、いったんは手を上げた堀江貴文さんの名前も。
本書では、一般にヒールと言われている人々を「悪党」と呼んでいます。
本書によると、悪党とは悪人のことではなく、『太平記』に登場する楠木正成のように、実力を持ちながら、時の権力者に異を唱えて戦った者たちを指すとのことです。
また、好成績を残しても「黒歴史」をもつ人は、本書では「悪党」としてまとめられています。
手束仁さんといえば、野球関係の執筆でお馴染みですが、私はその前職、全通企画という編集制作会社にいらっしゃったときに、私の会社が請けた仕事の担当編集者として名刺を交換したことがあります。
請けた仕事はとくに指示や書き直しなどなかったので、頻繁にやりとりしたわけではなかったのですが、気さくというか腰の低い方と思いました。
その後、手束さん名義の書籍を見る機会が増え、健筆ぶりは十分存じております。
私も、手束さんのようなノリで人と会って取材活動をすれば、書き物の幅が広がるのにと思っています。
「黒歴史」あり「イメージ」ありの悪党人気
選手編では、清原和博、江川卓、桑田真澄、笠原将生と続くのは「なるほど」と思いますが、次に登場は愛甲猛。
てっきり、失踪騒動を勘ぐるのかと思いましたが、「一瞬の表情でアイドルから悪党に反転」という見出しがついています。
ロッテに指名されて、嫌そうな顔をした件を取り上げているわけです。
愛甲猛さんといえば、同世代で、また神奈川県の高校出身である私には懐かしい。
「横浜の愛甲(猛)か、Y高の宮城(弘明)か」といわれていました。
Y高というのは、横浜商業高校のことです。
2年夏県大会で、宮城弘明さんは愛甲猛さんに投げ勝って甲子園に出場しているのです。
神奈川県は、かなり激戦区でしたね。
加藤哲郎さんも登場します。
日本シリーズで巨人を抑えたとき、「巨人は(その年最下位だった)ロッテより弱い」と言ったとされる人です。
すると、巨人が発奮して逆転優勝をしたから、虎の尾を踏んでしまった失言というわけです。
3勝3敗で迎えた最終戦で、加藤哲郎さんは駒田徳広さんにホームランを打たれ、駒田徳広さんが加藤哲郎さんに向かってアッカンベーをしたというエピソードも有名です。
ただ、加藤哲郎さんは、そういったわけではなく、インタビューでアナウンサーの問いに答えたことをもとに新聞がセンセーショナルな見出しを立てただけだったんですよね。
本書でも、「マスコミの捏造」と指摘しています。
しかし、通算17勝の投手が、今でもこうして思い出してもらえるのですから、加藤哲郎さん自身はまんざらでもないのでは、と思います。
無人気よりも悪党人気です。
意外な人選としては、元木大介さんもいます。
巨人に入りたくて浪人したことかな、とおもいきや、「くせ者」としてのプレーが、他チームからは悪党として見られたこと、清原和博さんの弟分的なキャラクターであることなどを指しているようです。
実際に起こしたスキャンダルというよりも、イメージですね。
東尾修さんも入っています。
「数々の乱闘を巻き起こした強気の内角攻め」とあります。
これは「黒歴史」でもなく、まさに東尾修のアイデンティティですね(笑)
東尾修さんといえば、権藤博さんとは「投手の肩」について180度意見が違うのに、しばしば座談会などで一緒に仕事をしていた印象があります。
西鉄ライオンズ、太平洋クラブ・クラウンライターライオンズ、そして西武ライオンズと、20年にわたってエースとして酷使されましたが、決してつぶれませんでしたね。
私は、それはすごいと思います。
西鉄時代の21歳、300イニング以上投げて18勝25敗。
今なら3シーズン分ぐらいの責任投手をつとめたとき、最終戦で東田正義外野手の音頭により東尾修投手を胴上げしたことを当時のスポーツ紙で知りました。
20年で4086イニングというのは、たしかに「投手の肩は消耗品」論を否定できるだけの説得力がありますね。
堀内恒夫さんは、「選手でも監督でも憎まれ役だった『悪太郎』」とあります。
ただ、監督時代は、いささか気の毒な面もありました。
球団は、もう少し長い目で見てやれなかったのかなという気がします。
その他、名前はあげませんが、刑事事件を起こした「悪党」ならぬ「悪人」も何人か含まれています。
外国人選手や背広組の「悪党」も
冒頭に述べたように、本書は外国人選手や、背広組も含まれています。
私が印象深かったのは、元中日⇒クラウンのウイリー・デービス外野手。
いろいろ変わった振る舞いが当時から話題になり、西本聖投手だったと思いますが、雄叫びを上げながらランニングホームランを打ったこともありますね、しかも満塁で。
意外なところでは、太平洋でプレーした、ドナルド・ビュフォード外野手。
当時、太平洋クラブライオンズは財政難で、助っ人選手ですらチケット売りの割り当てがあったといわれているほどですから、そもそも入団してくれること自体「悪党」とは正反対のところにいると思いますが、本書ではロッテとの遺恨合戦のことを指摘しています。
ま、あれも盛り上げるための「ヤラセ」だったといわれていて、むしろ金田正一監督もよく付き合ったな、と思えるものです。
「シーズンきたる(木樽)」「勝とう始め(加藤初)」などと、ダジャレで開幕投手を予告し合ううちは面白かったのですが、次第に遺恨がエスカレートして、警察のお世話になるまで発展してしまいました。
まあ、そういう意味では、ビュフォード外野手にとっての内心の「黒歴史」かもしれませんね。
本書の最後は、ライブドア・フェニックスの堀江貴文さん。
「球界進出は逃したが、じつは影の功労者」とあります。
だったら、「悪党」とは正反対ではないかと思いますが、まあ、あのキャラクターですから、「経営難の球団をまとめてオークションにかければいい」等の放言が、関係者を激怒させたという話です。
いずれにしても、刑事事件は別として、おもしろ困った「黒歴史」は、むしろその人がプロ野球人として愛されるキャラクターだったということでもありますから、本書で語られることは誇るべきことだと思います。
プロ野球ファンのみなさんにはおすすめの一冊です。
本書は2022年7月4日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
以上、プロ野球「黒歴史」読本メディアを騒がせた75人の男たち(手束仁著、イースト・プレス)は、事件・騒動・イメージの「黒歴史」を振り返る、でした。