ホームレス収容所で暮らしてみた台東寮218日貧困共同生活(川上武志著、彩図社)は、自立支援センターでの暮らしと「卒業」までの体験を記したものです。ホームレスが6ヶ月間、食費やお小遣いをもらいながら社会復帰の準備をする施設です。
『ホームレス収容所で暮らしてみた台東寮218日貧困共同生活』は、川上武志さんが彩図社から上梓した書籍です。
著者が、東京都と台東区が共同で運営していた「自立支援センター」の台東寮で生活をしていた体験談です。
章ごとのイラストは、村田らむさんです。
「あの乞食どもを早急になんとかしろ」という石原慎太郎都知事(当時)の命令で、ホームレスが最大で半年間、家賃は無料、給食や食費など「お小遣い」まで支給される、自立支援センターが都内に5箇所できました。
著者は静岡県御前崎の浜岡原発労働者でしたが、その体験から原発反対運動に身を投じ、『原発放浪記』(宝島社)を上梓。
2018年には、『放射能を食らって生きる』(緑風出版)から上梓し、被ばく体験だけでなく、浜岡原発の危険についても告発しました。
すると、その直後から無言電話に悩まされ、警察官の監視、立て続けの職務質問、しまいにはパトカーまで自宅に張り付くようになったとか。
原発城下町の御前崎でそのような活動をすれば、お上からの制裁があるといいます。
本書によると、中部電力には「中電防災」というグループ企業があり、浜岡原発では「消防防災業務」と「警備業務」を行っていて、後者の大半が県警OBで占められているといいます。
原発に反対した研究者に、いつも見張りがつくという話は聞いたことありますが、原発労働者も同じ目に合うんですね。
日本には、実に闇が多いです。
著者は、静岡の住まいを捨てて上京します。
上野のハローワークで職探しをしてもうまくいかず、上野や新宿のカプセルホテルを利用しているうちに有り金の乏しくなった著者が、山谷で自立支援センターがあることを聞きます。
窓口は、台東区役所の福祉課。
本来は72歳の著者ですと自立支援センターは入れないのですが、著者は物書きとして本を出して印税収入があり、自立支援の対象(要するに社会復帰の見込みあり)とみなされ、自立支援センターの「台東寮」に入ります。
寮では、8部屋に約60人が荷物のように詰め込まれ、1人分の専用スペースはたったの1畳というお粗末さ。
そして、酒や体臭やタバコなどの合わさった独特の匂いがたちこめるといいます。
提供される食事は、著者曰く「豚のエサ」。
そこの暮らしで、様々な入居者とのかかわりを経験します。
各部屋には、牢名主のような存在がいて、その多くは暴力で支配。魑魅魍魎の巣窟のような凄まじいところです。
しかし、金も職も住まいも失った者にとって、半年間も三食昼寝こづかい付き、ジャージ提供、洗濯機や乾燥機も使い放題、シャンプーや石鹸も常備された風呂など、夢のような好条件は、やはり飛び出すわけにはいきません。
もとより、住めば都という思いも……。
ビル清掃の仕事にもつき、印税も溜まったことで、「カリアゲ」という、復帰の準備期間としてのマンションへ転居します。
そんな半年間の体験記。
Amazon販売ページには、「そんな「ホームレス収容所」で暮らす者たちの姿を通じて、現代日本の闇を覗き見るノンフィクションルポ」と書かれています。
レビューによると、事実についての記述に異論もあるようですが、自立支援センターが魑魅魍魎の世界である、という主題についてはそのとおりなのでしょう。
本書は2023年2月28日現在、KindleUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
緊急一時保護から「カリアゲ」まで
寮に入った最初の2週間は、「緊急一時保護事業」に組み込まれたそうです。
その間は、宿泊援護や健康診断、生活指導等が行われるそうです。
そして、その間は仕事につくことが出来ません。
ホームレス自立支援センターは、都と区にから委託されたNPO法人が運営するそうです。
本書では、寮の住人のあれこれの出来事ややりとりが書かれていますが、やはり人間関係がいろいろ大変なようですね。
ボスになりたがる人がいて、そういう人に逆らうと仲間はずれにされてしまう。
あることないこと陰口を言われ、まだ部屋が変わるだけならともかく、結局寮を出ていってしまった人もいるようです。
2週間をすぎると、「緊急一時保護事業」から「自立支援プログラム」に移行します。
2週間でホームレスのアカを落としたところで、これからは仕事を見つけて社会復帰してください、というわけです。
面接を受けるための履歴書に貼る写真用の背広も、自立支援センターで貸してくれるそうです。
住所に寮を使ってもいいのですが、台東寮とそのままは書かず、「〇〇○台東」というマンション名になるんだとか。
いやー、至れり尽くせりですね。
月に1度は無料の散髪もあるそうです。
そして、著者はビル掃除の仕事をすることになりました。
仕事先が決まると、就労開始日からは「豚のエサ」がなくなり、食費が支給されます。
朝食500円、昼食と夕食が600円。休日も同額が支給され、日用品費を合わせると毎日2100円がもらえるそうです。
さらに、週5日、1日7時間以上の雇用なら、「就労準備貸付」として、31000円を上限に受け取ることができるそうです。
それにしても、仕事が決まってお給料が入るのに、さらに2100円もの現金を毎日渡すというのはすごいですね。
私は16時間断食をしているので2食しかいただきませんから、1食分浮きます。
逆に、そういうお金を、お酒やパチンコに使ってしまい、御本人のためにはならないような気もしますが。
ちなみに、著者はそれらを一切やらないので、松屋や日高屋やファミレスで優雅に外食していたようです。
私も日高屋のタンメン、いただきたいな。
Kindleの印税が入った著者の預金は27万円に。
その上でビル清掃の給料も入るということで、5ヶ月で「カリアゲ」を言われます。
カリアゲというのは、自活する前の訓練として、別のマンションに移ることです。
カリアゲの生活は1ヶ月で、その間に、アパートを探さなければなりません。
これもまた大変なんですけどね。
保証人か保証会社が必要ですし、家賃6~8万円ぐらいの独居用でも、初期費用として預金と給料はすべてふっとんでしまいますよ。
著者は、カリアゲで三ノ輪の9階建てマンションの7階に移ったところで本書は終わっています。
生活保護を選ばなかった矜持とは?
本書を読んで、他人事ではないなあ、明日は我が身だと思いました。
何しろ、まだ将来のある20代、30代のネットカフェ難民も、自立支援センターの世話になっているそうです。
まあ、ネットカフェ難民も、考えてみればホームレスですからね。
文章は読みやすく、スムーズに読み進められます。
ただ、登場人物が多いのですが名字だけしかかかれないので、覚えの悪い方はメモ書きしながら読まないと、わからなくなるかもしれません。
あ、これ誰だっけなあ、とページを戻すこともありました(笑)
自立支援センターは、ずっと同じところにはないので、本書に出てきた「台東寮」は今はないそうです。
一点、違うところは、著者に生活保護を受ける意志がないことです。
どうしてかなあと思いました。
生活保護は、国民の権利ですよ。
私なんか、生活保護を受けたくて、いつもネットに転がっている計算シートで計算していますけどね(笑)
だって、子供2人は障がい者で、昨年まで親の介護をしていて、仕事も制限されていたんですよ。
これからは歳も取ってきますからね。
職業の貴賎という意味ではなく、私は清掃夫や警備員は出来ません。
私は現役の編集制作会社代表取締役ですからね。
それが、十分にできなかったので、また軌道に乗るまで、生活保護を受けたいなあと思うのです。
実はもう車も処分したので、だいぶ有資格者には近づいているんですけどね。
書いた本が売れた試しがないので、印税収入はこの著者ほどありません。
家や家族を失ったら、自立支援センターにも入れないかもしれません。
それにしても、自立支援センターが、石原慎太郎さんの「差別的発言」がきっかけになって作られたというのは笑いました。
革新野党は、石原都知事をいつも批判していましたが、結局何も目に見える客観的な実在としての成果を残していません。
「悪法に反対した」ことを誇るのですが、本当に悪法かどうかだってわかりゃしないですよ。
もちろん成果主義が無謬万能とは思いませんが、なにをしてくれたかを、客観的なもので評価する面があってもいいのかもしれませんね。
以上、ホームレス収容所で暮らしてみた台東寮218日貧困共同生活(川上武志著、彩図社)は、自立支援センターでの暮らしと「卒業」まで、でした。
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