ミトコンドリアを活性化するとがん細胞は自滅する(福田一典、彩図社)は、活性酸素とブドウ糖遮断でがん細胞を倒すことを標榜する書籍です。そして推奨しているのは、炭水化物を減らし脂質を多めに摂取するケトン体を増加させるケトン食です。
ミトコンドリアとは細胞内小器官(オルガネラ)の一種
『ミトコンドリアを活性化するとがん細胞は自滅する』(福田一典、Kindle版)は、タイトル通り、ミトコンドリアについて書かれている書籍です。
では、そもそもミトコンドリア(mitochondria)とは何でしょうか。
私たちの体は、兆単位の細胞で構成されています。
以前は60兆、最近の研究では約37兆とカウントされています。
ミトコンドリアは、その細胞内にある「細胞内小器官(オルガネラ)」と言われています。
赤血球以外の全ての細胞に存在し、肝臓、腎臓、筋肉、脳などの代謝の活発な細胞には特に多くのミトコンドリアが存在。
その数は1細胞あたり100個~2000個程度含まれています。
量は平均して、細胞質(細胞の空間)の約40%、成人体重の10%も占めるそうです。
それだけの数量が存在するということは、当然、その存在は体にとって重要な役割を果たすわけです。
なんと、体に必要なエネルギーの約95%を産生するのです。
具体的には、酸素を使って、有機物を水と二酸化炭素に分解(呼吸)しています。
そして、分解する過程でATP(アデノシン三リン酸)という単位で表現されるエネルギーを合成しています。
それ以外には、古くなったり傷ついたりした細胞を自死(アポトーシス)させたり、熱を産生させたり、酵素を作ったり、カルシウムを貯蔵したりもします。
飢餓によって誘発されるオートファジーにも、ミトコンドリアが関わっています。
私たちの体の細胞は、性質の異なる2つのエネルギー経路があることを、先日ご紹介しました。
2つとは、
- 解糖系といわれるものと
- ミトコンドリア系といわれるもの
です。
解糖系は、ブドウ糖からエネルギーを合成するもの。
ミトコンドリア系は、文字通りミトコンドリアによってエネルギーを合成するものです。
解糖系は、糖を分解するだけの単純なシステムなので、すぐにエネルギーが作り出せます。
しかし、速効性がある分、一度に作り出せる量は決して多くはありません。
一方、ミトコンドリア系は、解糖系で分解された栄養素などに加え、呼吸によって得られた酸素などから、それよりも桁違いのエネルギーを産生します。
ミトコンドリアは、数が増えるほど活性化すると言われています。
数を増やすには、
- 有酸素運動
- 断食
- 適度な日光浴
- マッサージ
などか効果的と言われています。
ミトコンドリアの酵素呼吸の促進とブドウ糖の兵糧攻め
では、そのミトコンドリアを活性化すると、どうしてがん細胞は自滅するのでしょうか。
本書によると、ミトコンドリアはエネルギーを作り出しますが、その際に活性酸素を生み出します。
何しろ、生体内の活性酸素の約90%は、ミトコンドリアが発生させているといわれているのです。
ミトコンドリアは、生体内の約95%の酸素を使い、そのうちの1~3%を活性酸素に変換すると言われています。
そして、ミトコンドリアから発生する活性酸素は、がん細胞にダメージを与え、アポトーシス(細胞死)を起こさせるといいます。
すなわち、ミトコンドリアを活性化すればがん細胞は自滅するわけです。
がん細胞の中のミトコンドリアの活性を高めると、増殖や転移が抑制され、アポトーシス(細胞死)が引き起こされることが分かっているとか。
だったら、活性酸素をふやせばいいのか。
しかし、活性酸素は私たちの細胞を傷つけ、逆にがんの原因とも言われます。
活性酸素は、毒(DNAを傷つける)にも、薬(ガン細胞を殺す)にもなるわけです。
そのどちらになるかは、活性酸素の量と発生する場所によって決まるそうです。
詳細は、本書をご覧ください。
一方、がん細胞が増殖するためには、細胞構成成分を合成するためのブドウ糖が大量に必要となります。
ブドウ糖の取り込みが多いがん細胞ほど増殖が早く悪性度が高く、予後が悪いのです。
そこで、ブドウ糖の取り込みや解糖系での代謝を阻害すると、がん細胞の増殖活性を低下できます。
がん細胞にとって、解糖の阻害と、ミトコンドリアの酵素呼吸の促進は非常に都合が悪いのです。
しかし、ブドウ糖が出回らなければ、何をエネルギー源としたらいいのか。
そこで、本書のもう一つの論点は、ケトン食の採用です。
本書では、ケトン食を推奨しているのです。
長寿に関わる遺伝子はケトン体の産生を制御する酵素の活性に影響
ケトン食とは何でしょうか。
炭水化物の摂取を極力減らし、脂質を多めに摂取することで、体内に蓄積されるケトン体という物質を増加させる食事構成のことです。
では、ケトン体とは何でしょうか。
ケトン体というのは、ご飯をしばらく食べなかったときや、長時間の運動などをしたときに、体内の栄養が足りなくなり、その際に使われるエネルギー源です。
ケトン体とは総称であり、その内容はアセト酢酸、β-ハイドロキシ酪酸、アセトンという3種類の物質。
りんごが腐敗したような独特の匂いがします。
ケトン体は、血流に乗り脳や筋肉へと分配されていき、最終的にエネルギーの素となるブドウ糖に変わり体を動かすパワーとして使われます。
要するに、ケトン体濃度を持続的に増加させ、十分な量のタンパク質と大量の脂肪を摂取することで、炭水化物を可能な限り避ける食事療法の一種です。
ケトン体は、肝臓と赤血球以外の細胞でエネルギー源として利用されています。
怪しげな民間療法ではなく、たとえば、てんかん患者に対する食事療法に採用されています。
平成28年4月から、ケトン食は「てんかん食」として認められています。
ケトン体が、脳の神経細胞やそのネットワークに作用して抗けいれん作用を有し、てんかん発作に効果があるとされているからです。
人が断食しても数日間生きられるのは、ケトン体が発生するからです。
むしろ、栄養をとらずにカロリー制限をしてケトン体を発生させることで、寿命を伸ばすのではないかともいわれています。
長寿に関わる遺伝子は、ケトン体の産生を制御する酵素の活性に影響しているとの報告もあります。
一説には、夜遅くの電車内は、ケトン臭で酸っぱい匂いがするといわています。
食事をしない残業で、昼からエネルギーを使いケトン体が発生。
ただし、ケトン体は全てが使われるわけではなく、余ったものが尿や汗などに出てくるため、つまりは体臭として出てくるのです。
もっとも、車内は全員残業というわけではなく、また残業したとしても一杯やって帰宅する人もいるでしょうから、その酒の匂い、もしくはゲップから出てくる消化管より発生する匂いかもしれません。
ミトコンドリアと活性酸素、そしてがん細胞との関係を説明
本書は、全体を通して専門的な書き方のため、とっつきにくいと感じるかもしれません。
しかし、ミトコンドリアと活性酸素、そしてがん細胞との関係が詳細に説明されていると思います。
ミトコンドリアを活性化するとがん細胞は自滅する(福田一典、彩図社)は、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
いかがでしたでしょうか。
以上、ミトコンドリアを活性化するとがん細胞は自滅する(福田一典、彩図社)は、活性酸素とブドウ糖遮断でがん細胞を倒すことを標榜、でした。