『1件40円、本日250件、10年勤めてクビになりました―メーター検針員テゲテゲ漫画日記』(原作/川島徹、漫画/古泉智浩)をご紹介します。三五館シンシャから上梓されています。九州電力から委託された、検針員派遣の会社と委託契約した検針員の日々を描いています。
電気のメーター検針員という仕事をご存知ですか。
ドアも開けず、ベルも押さず、外から「検針でーす」という声が聞こえてきて、少しするとポストにプリントアウトした使用量を記載した紙を入れていく人ですね。
著者は、九州電力から委託された、検針員派遣の会社と委託契約します。
電気のメーター検針員は、個人事業主という名の、「給料も福利厚生もない(歩合給)社員」です。
1件検針して40円。固定給はないから有給なし。
社員ではないので、移動費(ガソリン代)は自分持ち。社保なし。
奇妙な使用量のときは、会社に確認をとりますが、その電話代も自腹です。
携帯電話で状況を説明していると、何十分になることもザラで、1件のトラブルで何日過分の昼食代が消えるそうです。
高いところにメーターがあって、それを読もうとして落っこちたり、その家のポインターに噛まれたりしても会社としての保証は一切なし。
メーターが汚れていて読み間違えをするとマイナス査定。10件で契約解除。
それでも、地域を間違いなく検針できれば、「あがり」は計算できますが、そううまくもいきません。
意味も分からず、検針させない人がいるらしい。「庭に入るな」とか言って。
「電気代が高すぎる」と苦情を言われることも。
心清らかではない日本人の弱い者いじめの体質か。
そうかと思うと、お茶を出してくれる人もいます。
優しい人だなあと思いきや、たんに話し相手が欲しかっただけで、とりとめもない長話の聞き役にさせられます。
時は金なりですから、こういう人も困るのです。
そのうち、家人の身内までやってきて、さらに長話。
すると今度は、蛇が出てきたので蛇退治までサせられます。
その家に雇われているわけではないのに。
仕事はもちろん、雨や雪も関係なくサせられます。
計測器は、個人情報が保存されているため、持ち帰りができません。
著者は、自宅の直ぐそばに現場があり、会社は30キロも離れているため、朝わざわざ取りに行くのは不合理だと会社に異議を申し立てますが、別の検針員が計測器を紛失したことがあるため、連帯責任だと言われます。
社員だって、始業時間よりはやく会社を開けて待っていてあげるんだからといわれますが、社員は時間外手当が出るのです。
そんな検針員生活の苦労が漫画で描かれています。
弊履のごとく捨てられて……
著者は、普通のサラリーマンでした。
高校時代から小説を書いていて、作家になる夢を捨てきれず、バブルが崩壊した頃、会社を退職。
すると、一緒に暮らしていた女性は去り、失業保険が終わってからは蓄えも減る一方。
小説は、何度か賞に応募するも入選できず。
結局、夫に先立たれた18歳年上の姉が独り住む、鹿児島の実家に戻ります。
誰でも経験があることですが、いったん離職すると、なかなか次の仕事が見つかりません。
不景気だからとか、なんだとか表向きの理由はいろいろつけられますが、実はいちばん大きな理由は、ブランクを作ると働く気力が失せてしまうことです。経験ありませんか。
そんなとき、著者は文学サークルの仲間が、検針員の仕事をしていたことを思い出します。
時間が自由というのが魅力的でした。
月に10日だけはたらき、あとは自分の自由なことに使う。
50歳になった著者にとって、それが社会復帰できるギリギリの条件でした。
その結果が、冒頭の苦労する日々を送るハメに。
しかも、著者は夫に先立たれ精神的に不安定な姉からは出て行ってくれといわれ、家賃3万円の劣悪なアパートに転居します。
そして、時代はデジタルとインターネット。
従来の検針員がチェックする電力量計にかわり、30分ごとに電気の使用量を遠隔で管理できるスマートメーターに置き換わることで、検針員は徐々に仕事場を失います。
結局、10年苦労した後、ウマがあわない管理職に契約を解除され、何も残らず著者は廃業。
個人事業主には、退職金も雇用保険もありません。
自由業は不自由業
救いがなく大変そうではありますが、世の中には事情も考え方もあって、このような請負仕事を選ぶ人生もあります。
個人事業主という名の、「給料も福利厚生も要らない(歩合給)社員」は、ほかにはどんな仕事があるでしょう。
日給月給の警備員は、雇用契約なのでしょうか。
NHK訪問集金は、立花孝志さんが遂に廃止に追い込みましたね。
保険代理店は、大きな法人に収斂して個人代理店はほぼ見なくなりました。
生保レディはどうなのでしょうか。
私はかつて、個人の保険代理店を営みながら、ビルや個人宅のクリーニングを行う仕事をしていたことがあります。
ファイナンシャルプランナーのような総合的な生活マネジメントをやってみたかったのですが、肉体労働で疲れて資格の勉強もできず、保険の客先も広がらず、要するにどっちつかずになってすぐに廃業しました。
『ザ・トップテン』という歌番組で、オメガトライブが『サイレンスがいっぱい』を歌っている時に必ず寝落ちするんです。だから午後8時半ごろ(笑)虚弱体質。
代理店は時間の自由が効くからと言って、タクシー運転手を兼業していた人もいましたが、保険は客に合わせて商談するので、タクシーの運転する時間眠くなり仕事にならず、すぐにやめていましたね。
NHK集金人を兼業していた人もいましたが、数をこなさなければならない集金人は運動靴が適していて、革靴にアタッシュケースの保険代理業とは両立できず、結局保険の方をやめてしまいました。
いずれにしても、「自由業は不自由業」ということです。世の中、そんなに甘くありません。
なにより、委託契約の仕事というのは、時代の変化や会社の都合で、真っ先に淘汰されていく仕事です。
給料はないけれど、会社に使われる個人事業主ですよね。
最近のネットで人気を集めている、ホリエモンとか前澤さんとか、ああいう人達は、逆に会社にもお金にも縛られないための起業が成功した人たちですが、それはそれで苦労はあり並大抵でない努力も必要ですから大変です。
終身雇用制がかなり崩れている令和のこんにち。
身の振り方を考えなければならなくなった時、どんな生き方を選択されますか。
以上、1件40円、本日250件、10年勤めてクビになりました―メーター検針員テゲテゲ漫画日記(原作/川島徹、漫画/古泉智浩、三五館シンシャ)でした。
1件40円、本日250件、10年勤めてクビになりました―メーター検針員テゲテゲ漫画日記 – 古泉 智浩, 川島 徹
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