ロウソクの科学(著/マイケル・ファラデー、著・翻訳/三石巌、角川文庫)は、マイケル・ファラデーが行った一連の講演をまとめたものです。単なるロウソクの炎から、化学反応、物質の性質、燃焼の複雑さ、ロウソクの材質の国による違いなど、科学諸分野に話題を広げた科学啓蒙書の金字塔です。
本書『ロウソクの科学』は、19世紀の科学者であるマイケル・ファラデー(1791~1867)が行った、1860年のクリスマス・レクチャーとして英国王立研究所で、青少年のために行った全6回の講演内容を、ウィリアム・クルックスが編集したものです。
Xで検索すると、講演から200年たったいまも、科学的な探究心と理解を育むための入門書として、「科学・理科教育のモデル」という最大限の賛辞が、続々ポストされています。
面白いほど科学的な物の見方が身につく図解ロウソクの科学 / 市岡元気
マイケルファラデーによるロウソクの科学を、わかりやすく図解にしている本作。
たまたま目につき、懐かしさから読みました。
科学入門の第一歩、やはり面白いですね。 pic.twitter.com/sM72gVmYrX— せせり@読書垢 (@SeSRbook) August 26, 2023
教育者や研究者で、本書をご存じない方は、一から出直されたほうがいいかもしれません(笑)
まあ、少なくとも理系の方だったらそれはないと思いますが……。
ロウソクはなぜ燃えるのか、という問いから始まり、燃焼とは、空気とは、そして人体では何が行われているのか、という様々な現象を、自宅でもできるような簡単な実験を通して教えてくれます。
そして、理系はもちろん、文系の研究者も、啓蒙書の金字塔であると絶賛しています。
たとえば、このブログで何度かご紹介している、仏教学者の佐々木閑さんは、お釈迦様の生涯(仏伝)を講義する際、親近性のあるテーマとして『ロウソクの科学』を思うといいます。
「ロウソクについて実験を通して、科学諸分野を説き示していくわけです。最終的に科学全体を説明。#ロウソクの科学 は名著の中の名著ですけれども、仏伝と非常に親近性があると思うのです。#仏伝ブッダの生涯 1 (佐々木閑「仏教哲学の世界観」第2シリーズ) https://t.co/SZwuIs348M @YouTubeより
— 戦後史の激動 (@blogsengoshi) April 11, 2024
そのほかにも、ノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんや、ノーベル医学・生理学賞を受賞した大隅良典さんなど、多くの著名な研究者が、「科学者を目指すきっかけとなった書籍」として本書を挙げているため、18世紀の科学者の本であるにも関わらず、本書はいまだにアマゾンランキングの上位にあります。
不思議を実験で解明する
ロウソクのロウは固体です。
ろうそくの炎は、ろうから少し離れたところで燃えています。
液体と違って動くことができないのに、固体のろうは、どうやって液体として芯のてっぺんまで上がって燃えるのでしょうか。
みなさんは、ご存知ですか。
ファラデーは、子どもたちに考えさせました。
ろうは、炎の熱で液体になり、毛細管現象と呼ばれる仕組みで芯の上にあがります。
/
ファラデーの「ロウソクの科学」を
ご存じですか?
\#つぶキャン でキャンドルを作ると
毛細管現象を色つきで
観察することができます!次々とロウが溶けて
ロウだまりに
湧き上がるような
現象が起こります??上に薄い色・下に濃い色を敷くと
よりはっきり見えて美しいですよ? pic.twitter.com/YrqtXXxW89— あぶら屋ヤマケイ【公式】山桂産業株式会社 (@aburaya_yamakei) March 30, 2022
ろうそくは小さいし、ろうは透明でわかりにくいので、ファラデーは、見ている子どもたちにわかりやすく、別のもので実験を行いました。
まず、皿の上に食塩を山のように盛り、青い色水を皿の上に注ぎます。
すると、青水は食塩の山に染み込み、上にあがっていきます。
液体は、細い管状のものがあると、吸い込まれていく性質があるのです。
ろうそくの芯になる部分は、洋ろうそくは糸、和ろうそくは井草の髄からとれる燈芯が用いられていますが、その芯がろうに熱を伝え、液体化した上部のろうは芯に吸い込まれて自分で上がっていくのです。
では、ろうそくのろうは燃えてどこへいくのでしょうか。
次の実験は、ろうそくの芯の周りにガラス管を差し込み、ガラス管の先にビンを置いて、ろうそくから出た気体をビンに集めます。
そして、そのビンには何かがたまっているのですが、火を近づけると燃えます。
ビンに溜まったものの正体は、ロウソクのろうが気体になったものということがわかりました。
今度は、氷が入ったボウルを、ろうそくの炎の上にかざします。
すると、温まったボウルの底に水滴がつき始めました。
つまり、ロウソクから出た空気を冷やすことで、ロウソクの炎から気体の水(水蒸気)が発生していることを確認しました。
このように、ただ「ろうそくはろうで燃えます」で終わりではなく、
ロウソクが燃える仕組みを、
1.観察して、
2.疑問を持ち、
3.仮説を立てて、
4.実験をする。
という4段階で明らかにしています。
そのようにして、ロウソクの炎、 燃焼からの生成物、ロウソクの中の水素、空気の中の酸素(と二酸化炭素)、炭素または炭などについて、その都度上記のプロセスで示していきます。
そして、実験の過程では、洋ろうそくと和ろうそくの違いの話も出てきます。
原文には、日本のロウソクの話も出てきます。
それは、ロウソクを通じた文化の違いや歴史などにアプローチするきっかけになり得ます。
諸学問は対等に関係している
ファラデー著「ロウソクの科学」
ロウソクひとつで全六回も講演するって、そんなにネタあるか?と読み始めたら、いやはやロウソクって面白い。文章を脳内で映像化していると実際に実験してみたくなる。眼前の事象を当たり前と思わず「なぜ?」と寄り添う観察眼。科学者すごい。#こうみえて仕事中 pic.twitter.com/1PNZghO25U— 純子???よろこび上手はごきげんさん (@FreelyFlapping) August 7, 2023
ファラデー先生は、「ロウソクの不思議」を解き明かすことを通じて、次のことを述べています。
1.ロウソクの炎、というありきたりの現象にも、たくさんの不思議が隠れている。世の中には、まだまだわからないことに満ちているから、この方法論で実証的に解き明かしてほしい。
2.ひとつの現象は、物理、化学など複数の視点から語ることができる。つまり、諸学問は対等に関係している
3.ロウソクのように周りを明るくし、人とかかわりを持ちながら、自分の義務をはたす人間になってほしい。
つまり、本書は、科学的な探究心と理解を育むだけでなく、自然や社会をどう見るか、人間としてどう生きるか、といった物の考え方をも啓蒙しています。
最近はわかりませんが、ひところは、一部物理学者に、物理学帝国主義、なんていう学問的優位性を誇る態度がありました。
物理学こそが学問の王様で、同じ理系でも工学や化学は厳密には科学ではなく、文系諸分野を「社会科学」「人文科学」などと科学扱いはおこがましい。芸術学や宗教学など問題外、という見方です。
しかし、物理学以外をコバカにしていたら、本書のような、立派な書籍はできません。
そんな無意味な格付けなどから開放されて、もっと自由にアプローチしてほしい、とファラデー先生はおっしゃっているのだと思います。
いずれにしても、こんにちの理科教育の原型を、ファラデー先生はは先駆的に実践していました。
……いやいや、むしろ昨今のネット時代は、嘘かホントかわからないネット情報から「結論」を手っ取り早くコピペすることばかりで、そうしたプロセスは重視されていないのかもしれません。
AIを全面的に否定する必要はありませんが、自身の認識を手助けさせるものであり、そこに依存するのは危険だと思います。
自分で試行錯誤しながら答えにたどり着く、そういう手間や泥臭さから逃げていると、いつか大きなつけを払うことになるように私は思えてなりません。
わからないことや、できないことがあったら、ご自身で調べますか。ネットやAIの情報にまかせてしまいますか。
以上、ロウソクの科学(著/マイケル・ファラデー、著・翻訳/三石巌、角川文庫)は、マイケル・ファラデーが行った一連の講演をまとめた、でした。