ワケありな映画(沢辺有司著、彩図社)は、上映中止になったり、裁判になったり、ソフト化されなかったりした作品の真相を解説した書籍です。『人間革命』など古今東西の46本を収録。何気なく観ていた映画の「裏側」が明らかにされています。
『ワケありな映画』は、沢辺有司さんが彩図社から上梓しました。
この記事ではKindle版をご紹介します。
スーパーや家電の量販店などでは、本来もっと高い市場価格のはずの商品が、「訳アリ」として安く売られることがあります。
表面に傷があったり、大きさがまちまちだったりなど、主たる価値は残しながらも、規格外となった商品のことです。
では、本書の「ワケあり」が意味する「規格外」とはなにか。
映画を公開直前に、その映画が扱った類似の事件が起こったために上映できなくなったとか、権利関係で齟齬がありソフト化ができなくなったとか、作品本来の価値以外のところでトラブルがあったために、私たちが享受しにくくなってしまったものを指します。
本書は、それを46作品リストアップしました。
古今東西の作品を集めているので、邦画ファンも洋画ファンも読み応えがあります。
本書は2022年10月11日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
古今東西の作品がまとめられている
では、本書『ワケありな映画』が取り上げている46作品とは、どのようなものがあるでしょうか。
目次からご紹介します。
第1章
上映禁止になったワケありな映画
『時計じかけのオレンジ』
『ガキ帝国 悪たれ戦争』
『ブラック・サンデー』
『スパルタの海』
『Mishima: A Life in Four Chapters』
『コンクリート』
『暗号名 黒猫を追え!』
『殺人狂時代』
『靖国 YASUKUNI』
『橋のない川』
『戦ふ兵隊』
『ザ・コーヴ』
第2章
悲劇に彩られたワケありな映画
『ローズマリーの赤ちゃん』
『ラスト タンゴ・イン・パリ』
『東方見聞録』
『タクシードライバー』
『泥棒成金』
『黒部の太陽』
『ポルターガイスト』
『トワイライトゾーン/超次元の体験』
『ナチュラル・ボーン・キラーズ』
『ソドムの市』
第3章
ソフト化を封印されたワケありな映画
『ウルトラ6兄弟15怪獣軍団』
『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』
『原子力戦争 : Lost Love』
『悪霊島』
『人間革命』
『犬神の悪霊』
『緯度0大作戦』
『幻の湖』
『赤い帽子の女』
『太陽を盗んだ男』
『ノストラダムスの大予言』
『日本暗殺秘録』
第4章
トラブル続きのワケありな映画
『地獄の黙示録』
『愛のコリーダ』
『RAMPO(奥山バージョン)』
『ドンキホーテを殺した男』
『殺しの烙印』
『トラ・トラ・トラ!』
『ディープ・スロート』
『バトル・ロワイアルⅡ【鎮魂歌】』
『落陽』
『エクソシスト』
『死亡の塔』
『ポンヌフの恋人』
ワケありの内容ごとに3章に分けています。
正直、私も全作品を鑑賞したわけではありませんが、有名な作品が多いので、「なるほど、あれはそういうことだったのか」というふうに感じながら読みました。
邦画、もしくは合作でまとめられている第3章から、『人間革命』をご紹介しましょう。
一般映画として公開されたもののテレビ放送なし
『人間革命』(1973年、東宝)は、東宝と創価学会系のシナノ企画の共同製作で映画化された作品です。
本書によれば、お金持ち、もしくは数字(観客動員)を持っている会社や団体などにお金を出させて映画を作るビジネスモデルの走りだったとか。
1970年代になって映画の斜陽化が深刻となり、東宝は制作部門を5社に分社化。
専属俳優の契約解除などを行いました。
しかし、制作部門の会社も以前ほどは制作しなくなり、外部からの買取作品・委託引受け作品の配給に力を入れるようになったのです。
『人間革命』もそのひとつというわけです。
そういえば、嘘か本当かはわかりませんが、亡くなった山城新伍さんがテレビで、深作欣二監督が日本共産党の映画を作ろうという企画もあったと話していたことがありましたね。
人間革命(にんげんかくめい)は、創価学会戸田城聖第2代会長によって唱えられた宗教思想です。
作品は、創価学会の牧口常三郎初代会長(芦田伸介)と、戸田城聖第2代会長(丹波哲郎)の生き様を軸に、創価学会の設立からの戦前戦後の歴史を描いています。
一般映画として公開され、興行収入は目論見通り学会員の大量動員もあり、1973年の観客動員数で『日本沈没』に次ぐ第2位となったそうです。
私は当時、中学生でしたし、宗教の映画だと思ったので鑑賞はしませんでした。
ただ、その後、『パパと呼ばないで』というドラマの舞台となったお米屋さんを見に行ったとき、ちょうどオーナーがいらして、お米屋さんは廃業、建物は老朽化とネズミ対策で近日取り壊すと伺ったのですが、そのとき、『人間革命』のロケ地にもなったことも知りました。
本書によると、映画化のきっかけは東宝側から。
田中友幸プロデューサー(東宝映像社長)が、創価学会の映像コンテンツ窓口であるシナノ企画に持ちかけたところ、すぐには了承しなかったものの、数年の交渉の末にシナノ企画の全額負担で制作にゴーサインが出たそうです。
戸田城聖第2代会長役は、丹波哲郎さん。
作品ポスターは、丹波哲郎さんが度の強い眼鏡と鼻の下に髭を蓄えている姿が印象的でした。
もっとも、創価学会側は、東映のギャング映画に数多く出ていた丹波哲郎さんのキャスティングが不満だったそうですが、本書は「結果的にはまり役だった」と評価しています。
う~ん、見ておけばよかったなあ。
本書によると、戸田城聖第2代会長は全く聖人化されておらず、ビジネスに失敗した金貸しで、酒好きの凡人に描かれているそうです。
獄中で対峙する検事役の青木義朗さん、戦後の焼け跡をうろつくヤクザ役の渡哲也さんも「いい味を出し」と書かれています。
青木義朗さんといえば、『特別機動捜査隊』や『新幹線大爆破』など東映映画やドラマに出ていましたし、渡哲也さんにいたっては当時東映と契約していましたから「東映の俳優」でした。
丹波哲郎さんに限らず、東映系の方が出演していたんですね。
とすれば、テレビ放送、ビデオソフト化、現在ならDVD化などのコンテンツ化による利益も見込めます。
しかし、封切り後、そうした展開は見られず、2006年になって、やっとシナノ企画からDVDが発売。
2018年10月~11月にかけ、CSの日本映画専門チャンネルでテレビ初放送されただけです。
その理由は、本書にこう書かれています。
2006年にシナノ企画がDVD化したものの一般には流通しておらず、DVDレンタル店にも置かれていません。
よくある話では、団体の方針で公式な歴史には変更があり、映画の内容がその変更前のものであるから一般の流通は歓迎しないということがあります。
あとは、折伏ツールにしたいとか。今更それはないかな。
いずれにしても、せっかく一団体の宗教プロパガンダではなく一般映画として公開されたのですから、ぜひ拝見したいですね。
それはそうと、丹波哲郎さんは主演しましたが創価学会には入らず、創価学会に演説を頼まれたら、「南妙法蓮華経」というべきところを「南無阿弥陀仏」と言って会場を騒然とさせたエピソードは、「丹波哲郎さんらしいな」と思いました。
とにかく、興味深い内容ですので、ご一読をおすすめします。
以上、ワケありな映画(沢辺有司著、彩図社)は、上映中止になったり、裁判になったり、ソフト化されなかったりした作品の真相を解説、でした。