『不浄を拭うひと』(沖田×華、ぶんか社)は、孤独死者が発見された部屋を清掃する特殊清掃におけるエピソードを紹介した漫画です。あまり一般には知られていない仕事ですが、私たちは誰でも、好むと好まざるとにかかわらずお世話になるかもしれません。
特殊清掃にともなうエピソード
『不浄を拭うひと』は、沖田×華さんの作画により、ぶんか社から上梓されています。
『本当にあった笑える話Pinky』に連載されたものをまとめています。
奥付を見ると、原案協力として、天池康夫(ラストクリーニング茨城)と記載されています。
おそらく、この方の体験に基づいて漫画化されているのだろうと思います。
ラストクリーニング茨城の公式サイトを拝見すると、特殊清掃について紹介されています。
画像は、たぶん公開できる一部であり、実際はもっとすごいものがたくさんあるのだろうと思います。
ということで、本書『不浄を拭うひと』は、大学を出てサラリーマンだった一児の父・山田正人さん(39)が脱サラ。
ゴミ屋敷の清掃や遺品整理、そして孤独死などの変死体があった屋内外などの原状回復をサポートする特殊清掃の会社に勤めています。
どう特殊なのかというと、病死、自殺を問わず、孤独死した人の遺品整理、ゴミ屋敷の清掃、亡くなった人の部屋の現状復帰などを行うのですす。
孤独死・変死については、発見・通報後、警察が検死のため遺体を回収した後、出向くそうです。
亡くなる方で一番多いのは、50代以上の一人暮らし男性とか。
独身男性は、家庭を持った男性よりも平均寿命が15年短く、中央値は66歳という記事を読んだことがあります。
それは「短命」ということを述べている記事ですが、一人暮らしならたんに短命なだけでなく、亡くなるときは孤独死で、ときには発見が遅れる場合もあるわけです。
マスコミでは、「孤独死」の3文字でサラッと済ませていますが、その実態は壮絶です。
生物が死んでから放置されていたら、それだけでも腐敗腐臭がします。
布団には脂がシミ出し、畳やクッションフロア、フローリングなどは全部交換。
もちろん壁紙も。
電化製品などは、どんなに高価なものでも匂いがついたら再販はできません。
風呂でヒートショック死したらどうなるか。
そのまま浸かっていると、人間の脂が湯船に浮き、皮膚などはどろどろに溶けて骨だけが残ります。
第一話から、そんなシーンが出てきます。
以前の居住者死亡がわかったしまう霊感体質
第1話では、60代男性が単身者用アパートで亡くなって1ヶ月後に発見。
大家さんの依頼で特殊清掃に入ります。
山田さんは、防護服を来て部屋に入る前は自分にも消毒。
感染症を防ぐためです。
戸を開けると、何者かが山田さんを抑えて入れなくなります。
山田さんは大家さんに、「この部屋って亡くなられた人、ひとりじゃないですよね」
大家さんは「おととしも一人」と打ち明けます。
事故物件はそうだというわけではないでしょうが、誘われるんでしょうかね。
山田さんによると、「どういうワケかこの仕事をしてから、霊感体質になってしまった」
人間にはまだ見えない、わからない世界があるのかもしれません。
山田さんの霊感体質は、特殊清掃を初めて行った時、孤独死した女性の部屋を片付けたことに端を発するといいます。
死後2ヶ月で近所からの通報で発覚。
病死でした。
片付けをしていた山田さんは、かつらと思ったものを見つけます。
人間というのは、亡くなって3日目から腐敗し、1ヶ月たつ頃には、髪の毛が頭皮ごとはがれて髪の毛だけ残ることを同僚から聞きます。
山田さんは驚きますが、「はやく片付けないと」と髪の毛をつかむと、クシャっという手触り。
乾燥した頭皮がつぶれながらこすれる異様な感触。
すると、その日の夜中、聞き慣れない音で目が覚めると、猫がスーパーの袋にじゃれているようなカサカサッという音。
山田さんは動物は飼っていません。
山田夫人も同じ音を聞いたといいます。
翌日からも、何も原因はないのに夜中にカサカサいうようになったそうです。
そして1週間後。
山田夫人は、夜中のトイレでカサカサを聞き、ネズミだと思い台所をのぞいたそのとき、青い光が差し込み、以来音はしなくなったそうです。
亡くなった人のことを考えると、ついてきてしまうのだとか。
山田さんは、消毒だけでなく、住職にお祓いを頼むときもあるそうです。
単なる心霊経験、と聞き流せない話ですね。
ことほどさように、様々な状態で死を迎えた人びとの生活の跡の特殊清掃体験を一話完結で紹介。。
それに対する肉親の捉え方など、人の生き様や死に対する考え方も描かれています。
「孤独死」は誰でもありえる
ホテルで事故があっても、ホテル側としてはよほどのにおいが残らない限り、大至急特殊清掃をかけて、翌日からその部屋にはまた客を泊める(4話)なんていう話も出てきます。
特殊清掃では、汚物の除去などをする際に金属のヘラを使うことがあるので、もんじゃ焼きが食べられなくなったこともあるとか。
ま、ちょっと言葉だけでもエグいので、具体的なエピソードはこのへんにしておきましょう。
人によっては、孤独死ぐらい迷惑な死に方はない、などといいますが、人間は家族のいるいないに関係なく、また好むと好まざるとにかかわらず、誰もが特殊清掃の人に最期を拭ってもらう可能性があります。
たとえ家族がいても、たとえば主張中のホテルの部屋で最期となるかもしれません。
逆に家族が留守中に、自宅で突然死してしまうかもしれません。
要するに孤独死というのは、バリバリ働く若い「現役」の人であろうが、長患いの高齢者であろうが、来ると思っていたいつもの日常が来ずに生命活動がストップしてしまっただけ、という点では同じなのです。
ですから、孤独死した人自身は、傍の人が気の毒がるほど悲惨ではないのかもしれません。
本書では、そんな死生観も語られていて、たんなる体験談にとどまらない奥の深いストーリーになっています。
一読をおすすめします。
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以上、『不浄を拭うひと』(沖田×華、ぶんか社)は、孤独死者が発見された部屋を清掃する特殊清掃におけるエピソードを紹介した漫画、でした。