『主婦の生活』(山上たつひこ作、小学館クリエイティブ)は、二世代住宅に住む主婦昌代さんと家族とのあれこれを描いた日常漫画です。といっても、あの『がきデカ』の作者ならではの笑いも随所に散りばめられたシチュエーション・コメディです。
1986~87年に、ビッグコミックで連載されました。
つまり、すでに2つ前の年号になってしまった昭和時代の発表ですが、今読んでも作品の価値は全く色あせていません。
シットコム漫画
『主婦の生活』は、山上たつひこさんが小学館クリエイティブから上梓した漫画です。
秋野宅の昌代さんという主婦が、夫の両親との同居ぐらしの中に紛れ込んだ、些細な出来事をめぐって大真面目に右往左往する日常を描いています。
そのような感想は見かけませんでしたが、私が拝見したところ、『主婦の生活』は、ドラマで言えば、いわゆるシチュエーション・コメディにあたるものではないかと思います。
シチュエーション・コメディというのは、シットコムともいわれます。
『主婦の生活』は、一部、派手なジェスチャーのコマもありますが、基本的には二世代住宅を舞台に、あるテーマを基に「主婦」の皮肉やユーモアのある台詞で話が進むので、シットコムとしての構成だと思います。
コメディにはもうひとつ、スラップスティックと呼ばれるものもあります。
こちらは、コミカルな動きで笑わせるコメディー。
漫画で言えば、ドツキとか、ポーズを決めるギャグのコマで構成するもの。
山上たつひこさんでいえば、『がきデカ』はスラップスティックの要素がありましたね。
一方、『主婦の生活』は、そのようなインパクトのあるコマも随所に見受けられるのですが、たとえば第1話の『昌代さんのおろし金』などは、まさに教科書通りのシチュエーション・コメディといった趣です。
昌代さんのおろし金
おろし金ってご存知ですか。
食材をすりおろす為の調理器具の総称です。
この「おろし金」をキーワードにして、ストーリーがどんどん進んでいくのです。
「それは台所にあってはならない種類の“危険物”だった」という文章とともに、第1コマ目には大きくおろし金が描かれています。
最初は、昌代さんがおろし金で手を擦り、おろし金を危険物呼ばわりしたところから始まります。
姑は、そんなこといったら包丁も箸もガスもみんな危険物だと、昌代さんの言い分をいっしゅうします。
しかし、昌代さんも引きません。
「銅製のおろし金でもサメ皮のおろし金でも手もとが狂えばけがをするけれど…その傷はどこかやさしいわ。でも、このおろし金がつける傷は残忍で容赦がないの。わたしねもう少しで手のひらの肉をそぎ落としてしまうところでしたわ。」
姑は、「そうかしらねえ。よく降ろせるし、あたしは使いやすいと思うけどねえ。」と返しますが、なんと今度は姑もだいこんをおろしているときに手を擦ってしまいます。
おろしただいこんには血が混じってしまいました。
それを知らずに食べた夫は、「今日の大根おろし…モミジおろしが派手にかかってた上にいやに生臭かったぞ」と昌代さんに打ち明けますが、昌代さんは表情を変えず、「お義母さまの血よ。親の血なんだからありがたく思いなさい。と」返し、夫も特に「気持ち悪いもん食っちゃったよ」などとも言わず、それを受け入れます(笑)
翌日、昌代さんは販売店に行って卸元を聞き出し、開発者を調べます。
そして、開発者の生き様を夫と徹底議論しながら、その会社がなぜおろし金を作ったのか、と論考します。
さらに、次の日には、夫が勤務先からその“続き”をFaxで送ってきます。
というわけで、おろし金をネタに、ずーっと話が続くのです。
ただの掛け合いでは退屈してしまうのですが、そこは昌代さんが、皮肉やジョークを巧みに取り入れた笑える会話術で、読むものを楽しませてくれます。
こまわり君的な愛犬はいるものの下ネタはなし
登場人物は、昌代さんと夫、それに夫の両親。
そして、毎回“ゲスト”的な登場人物とともに、飼い犬の直助(ブルマスティフ)がいます。
ブルマスティフが、『がきデカ』のこまわり君的な存在感で受けるキャラクターです。
なにせ、いつも勃起しているのです(笑)
そのままの形を描いているけど、いいのかな。
ここは、シチュエーション・コメディの中に唯一見られるスラップスティックとしての要素です。
コメデイリリーフとでも言うべきか。
昌代さんは、腰回りがふくよかに描かれているので、ブルマスティフは昌代さんが好きなのかもしれません。
といっても、そこでブルマスティフが昌代さんの腰に後ろから乗ってしまうと、スラップスティックのナンセンス漫画になってしまうので、そういうシーンはありません。
昌代さんには子供はいないようです。
子供がいると、親子のドタバタになってしまい、これまた作品の質が変わってしまうので、あえて設定しなかったのでしょう。
主要登場人物は成人だけにすることで、大人が楽しめるストーリーになっているのかもしれません。
第2話で、夫は高校時代から付き合っていた相手ということもわかります。
昌代さんはきれいで好奇心の旺盛な人ですが、異性に対しては意外と一途なんですね。
些末なよろめきやナンセンスなどは描かず、ただひたすら、昌代さんのまじめだけどおかしみのある日常を展開させているわけです。
いかがですか。
未見の方は、一度ご覧になってみませんか。
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以上、『主婦の生活』(山上たつひこ作、小学館クリエイティブ)は、夫の両親と同居する主婦昌代さんと家族とのあれこれを描いた日常漫画、でした。