他人を攻撃せずにはいられない人 (片田珠美著、PHP新書)は、職場や家族に潜むあなたの「害になる人」の精神構造を知る書籍です。他人の価値観を無視し、疲弊させ、罪悪感を持たせるその人は、自己愛が強いというのが筆者の論考です。
『他人を攻撃せずにはいられない人』は、片田珠美さんがPHP研究所から上梓した書籍です。
片田珠美さんは精神科医です。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析的視点から分析されているそうです。
片田珠美さんについては、過去にも『嫉妬をとめられない人』(小学館新書)や
『他人の不幸を願う人』(中央公論新社)などをご紹介してきました。
いずれも、自己愛者のはた迷惑な人間性について述べたものです。
今回もそうですが、今回は『他人を攻撃』ですから、より直截な人間性が徹底検証されています。
本書は2022年7月23日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
著者が経験した患者や知人の例
本書『他人を攻撃せずにはいられない人』の「攻撃」とは、相手に暴力や著しい暴言を加えるのではなく、善人ぶった言い回しで押さえつけてしまう人を対象にしています。
著者は、ご自身が経験した患者や知人の例を引いていますが、本書から「こんな人は(他人を攻撃せずにはいられない人だから)要注意」という具体例を引用します。
「他人を壊すのが楽しくて、やっているみたい。私が自分なりのやり方でやろうとするのを許さない」
「全てを支配しないと、気がすまないみたい。私に、弱くて、ちっぽけで、取るに足らぬ 人間だということを思い知らせたいのだろうか」
「私を『役立たず』にしてしまいたいみたい。私が成長しようとするのを許してくれない」
「いつだって『おまえのため』と言いながら、私を壊そうとしているみたい。第一、あの 人と一緒にいると、息が詰まって、落ち着かない」
「結局、私の言うことなんか聞いてくれないし、認めてもくれない」
「口を開けば、ネガティブなことしか言わない。全然前向きではない批判ばかりなので、 どうすればいいのかわからなくなる」
「いつもバカにされ、侮辱されているような感じで、気力がなくなってしまう」
あなたに思い当たるフシはありませんか。
いや、あなた自身、思い当たりませんか。
本書は第1章で、攻撃欲の強い人とはどんな人なのかを定義し説明しています。
第2章では、攻撃によってターゲットにつれた人をどんなふうに壊していくのか、その手法を紹介しています。
第3章では、ターゲットにされた人が、攻撃されても抵抗できない不思議を解説しています。
第4章では、他人を攻撃せずにはいられない人は、どうして攻撃したり支配したりしようとするのかを論考しています。
第5章では、攻撃によって、ターゲットにされた人はどんな影響を及ぼすのかを分析しています。
第6章では、他人を攻撃せずにはいられない人に「つける薬」はあるのか、こういう人とどう向き合えばいいのか、どんなふうに対処すべきかについて述べ、「処方箋」までも紹介している盛りだくさんの内容です。
攻撃者は自分自身の「悪」を否認
ダイジェスト的に、本書の指摘を枚挙します。
まず、あなた自身がターゲットにされると、どんなふうに感じるのか、どんな反応が出てくるのか?
次のような症状が出現したら、3つ以上で「疑い」、5つ以上あてはまれば、ターゲットにされている可能性が高いと指摘しています。
- 急に気力がなくなることがある
- しばしば、罪悪感にさいなまれたり、不信感が募ったりする
- 突然、もうダメだと自信をなくすことがある
- ときどき、エネルギーがなくなったように感じる
- 反論や反撃をしても、ムダだと思う
- あの人は、何かにつけて私をけなすので、落ち込む
- あの人の感情を動かしたり、考えを変えさせたりすることはできないと思う
- あの人のやっていることは、言っていることと随分違うように感じる
- あの人の言うことには、曖昧さがあり、どう受け止めたらいいのか困惑する
- あの人がいると、心身の不調を感じることが多い
そして、他人を攻撃せずにはいられない人は、理屈のつじつま合わせや「理論武装」をしています。
- 「うまくいかなかったら、それは悪いということだよね」→うまくできなかったあなたが悪いと責めるための言葉
- 「どんなことでも、能力がないとうまくいかない」→あなたに能力がないからこんなことになったのだと責任転嫁するための言葉
- 「友達同士の間では、何でも言ったほうがいい」→相手を攻撃する自分を正当化 するための言葉
- 「愛があるからこそ、厳しくするんだ」→こういう言葉で虐待や体罰が正当化さ れることがいかに多いか
- 「いろいろ文句を言う人がいるけど、だいたいは、そんなことを言っている本人 が悪い」→私に対して不平や不満をもらすあなたが悪いのだと非難するための言葉
本書によれば、こういう言い回しをしばしば用いるのは、自分自身が罪悪感にさいなまれずにすむようにするためだそうです。
そのために、自分自身の「悪」を否認して、相手に投影し、責任転嫁するそうです。
そういう場合には、一人で悩んでいないで、他の誰かに相談して、助言や助けを求めたほうがいいといいます。
もし、かりにあなたがターゲットでなかったとしても、周囲の誰かがターゲットになっていると、独特の悪い雰囲気になるそうです。
- 重苦しい雰囲気
- もめ事や不和
- 病気の増加
- 沈滞ムード
- 疲弊
他人を攻撃せずにはいられない人は、どうしてそのような言動を取るのか。
まあ、このブログでも何度も書いてきましたし、前述の片田珠美さんの書籍でも言及されていますが、自己愛の強い人がそうなるそうです。
誰かを攻撃せずにはいられない人は、(相手を疲弊させているという)自分自身が見えていない。自分のやっていることは常に正しいと思い込んでいるので、誰の助言も聞き入れないそうです。
自己愛者というのは、本来の自分と向き合えない人でしたね。
「自分自身が見えていない」というのは、まさに自己愛者そのものです。
自己愛については、『自己愛的(ナル)な人たち』(岡野憲一郎著、創元社)をご紹介しました。
「自分はイケてる、それを認めない周囲や社会が悪い」と、承認欲求が肥大化している人を自己愛者といいます。
「そんなの関係ねえ」と言っているあなたへ
これを読まれても、
「自分は、ターゲットにはしてもされてもいないよ」
と思われますか。
でもねえ、知らずにやっていることってありませんか。
たとえば、ネット掲示板スレッドでの叩きコメント書きを著者は例に取っています。
ある芸能人の身内が、生活保護を受けていたことが叩かれたことがあった。
生活保護は、必要な人に正しく支給されなければならない。
そして、不正受給が後を絶たないという問題に一石を投じたという点では意味のあることだった。
だが、ドヤ顔でコメントを書いたあなたに尋ねるが、その騒動が起こるまで、その問題と向き合っていたのか。
騒動後も継続して、この問題と向き合っているのか。
著者はこう言います。
実際、この騒動が収まると、次は芸能人の不倫騒動、人気アイドルの男性との交際騒動と、攻撃ターゲットは目まぐるしく変わっていった。全ての騒動に参加している人がどれだけいたかは知らないが、他人の悪を叩いた人は総じて次のような快感を得たのではないだろうか。
「悪を叩いてスッとした。楽しかった」
なぜ悪を叩くとスッとするのか。それは悪を叩くことによって、「自分には悪がない」 というふりをし、自分自身の悪を否認できるからである。しかも、自分が否認した悪を外 部の他人に転嫁する、つまり攻撃対象の他人に「投影」しているのだ。
どうですか。掲示板や、ヤフコメに書き込んでいる人がどれぐらいいるかはわかりませんが、多くの人がこれに当てはまるとはいえませんか。
ぜひ、本書を読んでみてください。
他人を攻撃せずにはいられない人のターゲットにされたくなければ、そして万一ターゲットにされたとしても一刻も早く呪縛から解き放たれたければ、是非お読みいただきたいと著者も述べています。
以上、他人を攻撃せずにはいられない人(片田珠美著、PHP新書)は、職場や家族に潜むあなたの「害になる人」の精神構造を知る書籍、でした。