代理ミュンヒハウゼン症候群による我が子サツ害事件(2008年)を漫画化したのは『実録!女たちの猟奇事件簿』(ストーリーな女たち)です。母親が5人の女児を産み、そのうち3人をシに至らしめ、1人をコロしかけた事件の背景に「褒めて育てる」危うさを感じさせます。
ミュンヒハウゼン症候群をご存知ですか。
ミュンヒハウゼン症候群とは、周囲の関心を引く方法として、自分自身をわざと傷つけたり、病気を持った人の検体と自分の正常な検体を入れ替えたり、小さな出来事を大げさに話したりすることです。
自作自演や、話を盛るなどして、承認欲求を満たそうとする行為ですね。
文字通り「イタい人」ですが、今回ご紹介するのは、「代理」がつきます。
代理ミュンヒハウゼン症候群です。
誰が代理するのか。というより代理をさせるのですが、(わが)子です。
子どもに薬物等を飲ませたり、窒息させたりなどの行為を行い、子どもに実際の身体不調や病的状態をわざわざ作り出し、いかに自分が不幸か、そして自分が甲斐甲斐しく看病しているかをアピールするのです。
本作がそうですが、子は最悪シ亡、不必要な検査や治療、保護者への恐怖感・不信感の形成など考えられます。
代理ミュンヒハウゼン症候群事件については、2008年に実際にあった事件ですが、以前ご紹介しました。
同じ事件を、安武わたるさんが、『実録!女たちの猟奇事件簿』(ストーリーな女たち)で描いています。
「“よくやってるね”“頑張ってるね”って言ってもらいた」
どこにでもある家庭でしたが、とにかく両親、とくに母親に可愛がられていた加害者の女性。
おこられたことはなく、いつも「〇〇ちゃんはすごい」と、両親に褒められて育ちます。
姉もいるのですが、姉と同じことをしても、妹の女性だけが褒められる“えこひいき”も公然と行われました。
末っ子は可愛いといいますが、ありがちな「あやまち」ですね。
溺愛が後の大事件の伏線になります。
父親の勤務していた会社が倒産。
父親は独立開業して転居します。
慣れない土地だったからか、両親は交通事故にあい、母親は死亡、父親は腰と両足骨折の大怪我を負います。
女性は落胆し、こう考えます。
「いくら頑張ったって、褒めてくれるお母さんはもういない」
女性の父親が再婚したため、女性は姉と一緒に家を出ます。
そして、進学校に在籍しながら、大学を諦め結婚。
長女、次女と恵まれましたが、あるとき次女が肺炎で入院します。
これが、事件のトリガーとなります。
女性は泊まり込みで看病していましたが、長女を義両親に預けていたこともあり、早く退院させたいと懸命に看病します。
ここまでは問題ありません。
ところが、彼女は、他の入院患者の母親たちや看護師から、一所懸命世話をしていることを褒められます。
尊敬の眼差しや称賛の声は、何でも褒めてくれた母親が亡くなって以来のこと。
喪失していた充足感でした。
一方、義両親は二世代住宅を建てて、女性一家と同居。
1人だけ他人の女性は、家庭で疎外感を覚えるようになります。
そんなとき、また次女が肺炎で入院します。
そして、再び周囲からは献身的な看病の称賛。
義両親や夫も、自分を気遣ってくれます。
子どもに「もっと入院してもらいたい」気持ちになった女性は、ICUで不眠不休の看病を続けながら、看護師の目を盗んで点滴に異物を混入するようになります。
4ヶ月後、次女はそれが原因でなくなりますが、周囲からの温かく慈愛に満ちた視線は、女性を落胆させるどころか、ますます気持ちよくさせていくのです。
三女が生まれると、「子どもがミルクを飲まない」として点滴を求め、またしても腐敗水を点滴に混入させてコロしてしまいます。
同情の目を向けられた女性はいっそう心地よくなっていき、四女にはわずか生後7ヶ月で同じことを繰り返します。
しかし、同じことが続けは周囲は疑問を感じます。
生まれて間もない五女にも同じことをしようとしていた女性について、病院はその一部始終を防犯カメラで撮影していました。
「コロすつもりなんてまったくありませんでした。ただ…看病する姿を周囲の人に見てもらいたかった。誰かに“よくやってるね”“頑張ってるね”って言ってもらいたかっただけなんです」
精神鑑定により、女性は代理ミュンヒハウゼン症候群の可能性があるとされました。
「子どもに病気を作り、かいがいしく面倒をみることにより自らの心の安定をはかる、子どもの虐待における特殊型」(日本小児科学会 https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/abuse_8.pdf)だそうです。
「褒めて育てる」の危うさ
今回は、えこひいきともいえる溺愛が原因だったかもしれませんが、ひと頃、褒めて育てることが、子育てや指導の王道ともてはやされたことを考え直す契機となる事件とも言えるでしょう。。
教育関係者の、その手の書籍はたくさんあります。
「褒めて育てると伸びる」とかね。
しかし、私は、自分が「いい気になる」タイプなので、実体験としてそれに対して懐疑的であり、そうではないという研究に関心をもっていました。
ところが、「褒めて育てることがいいとは限らない」と書くと、「そんなことはない」と、このSSブログの一部の人からも否定をされました。
その方々には、心理学や、精神医学や、脳科学は、従前の「褒めて育てる」の先を行っていることを知って欲しいです。
失敗を恐れるのは「褒められた子」。脳科学者が語る「褒めて育てる」危険 https://t.co/38VWIB8Pnf @mimollet2015より
— 赤べコム (@akabecom) October 23, 2023
報告内容は、褒められることで、その快感や評価を失いたくなくなり、次から失敗を恐れるようになるため、その子は伸びなくなる、というものです。
それだけでなく、「打たれ弱くなる」ことも明らかになっています。
つまり、こういうネットで、自分の投稿に批判、いやたんなる異論が入っただけでも、すぐにブロックするとか、コメントを削除するとかいう、ヘタレになってしまうということです。
ヘタレは、世の荒波に打ち勝って自己実現するにあたって、致命的な弱点となるでしょう。
まあ、なんでも怒っていればいいわけではないですけどね。
たとえば野村克也監督が、「人間は、『無視、称賛、非難』の順で試される」と言ってますが、その人の能力や立場、目指すもの、そして性格に応じた是々非々の教育が大事だと思うのです。
自ずと、褒めるだけではだめであることがわかるでしょう。
子育てだけではなく、上司と部下、教員と生徒の関係にも当てはまるかもしれませんね。
以上、代理ミュンヒハウゼン症候群による我が子サツ害事件(2008年)を漫画化したのは『実録!女たちの猟奇事件簿』(ストーリーな女たち)でした。