『健康情報・本当の話』(草野直樹著、楽工社)は巷間あまた存在する健康情報、健康食品について調べています。危ない健康食品、健康観と治療法の疑似科学、マスコミや有名人の健康情報、怪しい健康情報からわかったことなどをまとめています。
『健康情報・本当の話』とはどんな本か
『健康情報・本当の話』(楽工社)は、2008年にこの記事の執筆者である草野直樹(かやのなおき)が書いた書籍です。
健康情報、健康食品が巷間にゴロゴロしているが、その正体はいかがか。
「健康ブーム」といわれる昨今、健康食品、健康療法、健康器具など様々な健康情報が、広められています。
なぜでしょうか。
ひとつは、健康情報は科学と価値の連関する複雑な問題であり、科学的な回答に沿った選択が必ずしも受け入れられるとは限らないことがあります。
2つ目は、健康問題が単にそれ自体の科学的根拠だけでなく、社会的な問題としての視点を持たなければならないのに、それが批判陣営の間でも必ずしも理解されていないという問題もあります。
怪しい健康情報は、そうした隙を突いてきます。
3つ目は、医学がまだ未解明の部分を多く残し、真実の書き換えが現在も頻繁に行われていることもあります。
現在正しいとされていることが、より高次の水準で否定されることは決してめずらしくありません。
4つ目は、健康の問題は個体差や多様な条件によって非線形の変化を生じる「複雑系」であることです。
つまり、健康情報を検証する仕事は、従来の分析主義や要素還元主義が通用しない分野のため、古典的な自然科学者の手法が通用しにくい。
いずれにしても、医師や医学者、科学者といった「専門家」が、その専門分野の回答を高見から居丈高に押しつけるだけでは国民に伝わりません。
一般消費者・国民の価値観に沿った視点から、そう信じさせているものを科学的に読み解いて行くことが必要であると思います。
本書『健康情報・本当の話』(楽工社)は、そうした健康情報のうちのいくつかをとりあげ、学者でもオタクでもない「普通の人」である筆者・草野直樹が、普通の人のスタンスで疑問や批判をぶつけています。
本書の目次
第1章 危ない健康食品
第2章 健康観と治療法の疑似科学
第3章 テレビの健康情報
第4章 危機煽り本の危うさ
第5章 芸能人の健康情報
第6章 “怪しい健康情報”からわかったこと
はじめに
■第1章 危ない健康食品
●八木田旭邦「新免疫療法」 進行がんには成果なし/手術すれば助かったかもしれないために裁判に/独自の判定で居直る現在
●師岡孝次監修『末期ガンに一番効くアガリクスは何か』 「食品」と「医薬品」の違い/ついに逮捕者が出た「がんに効く」書籍/担当医の話がない不思議さ/使えるネタを無原則に採り入れる論理矛盾
●新谷弘実『病気にならない生き方』 120万部突破のベストセラーというが……/新造語や独自のPR/総花的な「健康」情報と科学的根拠の曖昧さ/「抗がん剤」で治療できる患者に対する責任/誰でもいえる「正しいこと」が説得力を持たせる?/医学的に使ってはならない単語の横行
●清水妙正『医者が体験した末期ガンからの生還』 「マイタケで生還した」現役医師の体験談/医師としては批判せざるを得ないが……
●他の健康食品事件の数々 プロポリスの薬事法違反で実刑/CPLのバイブル商法/イチョウ葉エキスと大豆エキスで催眠療法
●バイブル商法に騙されてはならない 食品にもいろいろある/それ以外の「自称健康食品」/バイブル商法がいまだのさばっているのは……/健康「食品」であるかぎり、「抗がん」のEBMはない
■第2章 健康観と治療法の疑似科学
●川竹文夫 NPO法人ガンの患者研究所 1124人のがん患者が交流した集会/がんはライフスタイルを改めれば治るのか?/「5年生存率向上」はまやかしなのか?/「4週間小さくなる」抗がん剤は無意味か?/医師の治療を受けることも自覚的である/カルト団体傘下の保険適用外治療を紹介
●福田稔・安保徹「自律神経免疫療法」 交感神経と副交感神経のバランスが大事と提唱/量・質ともに不足したデータ/科学的見識を疑うコラム/「リンパ球の数だけ」で見る現実にそぐわない珍論/誰とでも組むことで医学を否定することになりはしないか
●野島尚武「超ミネラル水」 薬事法的にはアウト、ヒトのデータなし/気をつけておかなければならない点/「超ミネラル水」にこだわる人たちの体験
●朝倉一善『医者もおどろく奇跡の温泉』ほか 体験談と飲泉商品紹介の「温泉バイブル本」/疑似科学用語の数々/温泉に過度の期待を抱かないこと
●その他の”ちょっとおかしい”療法 石原結實『ドクター石原結實の若返り健康法』ほか/甲田光雄『少食の実行で世界は救われる』ほか/山田豊文『細胞から元気になる食事』ほか
■第3章 テレビの健康情報
●関西テレビ「発掘!あるある大事典」 主要な部分はすべて捏造/企業と科学者の癒着も「反科学」の根源に/公権力の揺さぶりだけで根本的な解決にはつながらず/痩せ信仰を大きく変える文化が必要
●日本テレビ「おもいッきりテレビ」「おもいッきりテレビ」とは何だったのか/ありふれたことで煽り、ありふれたもので落とす/番組隆盛の背景には「ビジネス」と「国策」
●NHK「ためしてガッテン」 アディポネクチン値に疑問/くずされた言い分/健康は特定の数値と全体とのバランスを見るべき/「ガッテン」の批判は的はずれか?/なぜ「ガッテン」に甘いのか
●他のテレビ放送のトラブル 白インゲン豆ダイエット法/「クローズアップ現代」の番組改編疑惑
■第4章 危機煽り本の危うさ 203
●三好基晴『ウソが9割 健康TV』 「商売科学」こそ「健康トリック」の真犯人/健康情報番組のトリックを暴く/「健康」を煽るのも「不健康」を煽るのも同じではないのか/科学的誠実さを欠いた危機意識の煽り/脱力するしかない結論/リスクとベネフィットの両面を示せ
●中村三郎『水道水も危ない!』 アスベストのリスクは不明/20年前のデータを現在は明らかに違う/引用と吸入のリスクははっきり区別されている/残留塩素はそんなに危険なのか/殺菌塩素と抗がん剤の共通点は?/安全を求めたはずの結論が「地下水」「ミネラルウォーター」だって?
■第5章 芸能人の健康情報 251
●水道橋博士『博士の異常な健康』 『博士の異常な健康』読んでみました/硬水を勧める無責任さ/旧式の体験談で今を語ってもいいのか/そんなに若返ることが大切なのか/デトックスと分子栄養学の問題点に触れない/ヒトを対象にした検証が必要/「右肩上がり」の健康感をどう見るか
●倖田來未「35歳を過ぎると羊水が腐る」発言 「羊水腐る」に「一理」なんかあるものか!/彼女は疑似科学の信者であり喧伝者だった/彼女だけを責めて済む問題ではないが……
■第6章 ”怪しい健康情報”からわかったこと
●健康情報・こんな点に気をつけよう/疑似科学は社会の仕組みを知った上でとらえるべき/「理科教育だけ」論は他分野の研究者からも批判/疑似科学は一般社会人が自発的に発送するものではありえない/「カマキリ叩き」だけで問題は解決しない/取り締まれば済む問題なのか/代替医療=非科学という紋切り型批判の問題点/代替医療に向かう社会的要因/今の時点でいえること
■健康情報についての参考書籍・サイト 318
疑似科学は「科学の問題」か?
こうした疑似科学の問題議論すると、一部の物理学者は必ず、「科学的知識が足りない」と言います。
しかし、それはあまりにも単純すぎる意見です。
教育学者の汐見稔幸さんは、教育現場で、小⇒中⇒高と、科学教育の積み重ねが出きているはずの上の学校ほど、生徒は科学的でないことに心を奪われるという結果に「どうしてなんだろう」と問題提起してきましたが、それにきちんと回答した、疑似科学批判を標榜する科学者はいまだに一人もいません。
これは、一般の人でも直感的にそう思われるでしょう。
科学知識が全てなら、なんでオウム真理教の幹部は理系の高学歴だったのか……と。
この問題は、「科学知識の問題」という前提を手放さない限り、永遠に前には進めないでしょう。
少なくとも、文系、理系、さらには芸術や宗教が手を携えて解くべき問題ということです。
私は、その仮説として、1989年にスーザン・フォワード(英: Susan Forward)が作った言葉「毒親」を思い出します。
日本人は自己肯定感が低いといいますが、理系の高学歴たちのオカルトへの傾倒はこれが関係していると思います。
つまり、科学的には知識からおかしいと自分の中には答えが出ているのに、目の前のいかがわしい光景をきっぱり否定できないのです。
「こんなはずはないんだけど、でもそうでない現実があるのならそうなのだろう」
なぜか。
有名大学に進むことが目的化した、毒親の威圧と過干渉で、子の自我はボロボロにされているのです。
懐疑することが許されず、自分の頭で考えることができなくなってしまうのです。
いくら秀才になろうが、いざ現実のでたらめな「超能力」を前にして、「な、こうだろう」と言われたとき、「いや、違います」ということができないのです。
では、日本人がどうして自己肯定感の低い人になってしまうのか。
民法は、「成年に達しない子は、父母の親権に服する。」 (民法第818条第1項)と定めています。
子は親の作品であり、奴隷であれ、と法律で定められているのです。
これが、疑似科学にひっかかることのすべてだとは断言しません。
しませんが、科学的知識だけで解決はできないだろう、というひとつの視点にはなるでしょう。
以上、『健康情報・本当の話』(草野直樹著、楽工社)は巷間存在する健康情報、健康食品、治療法の疑似科学をまとめています、でした。