『僕の仕事は YouTube』(Hikakin、主婦と生活社)は、YouTuberの先駆者であり代名詞ともいえるヒカキンさんの自伝的エッセイです。「日本でいちばん“YouTube視聴者”を持っている」人が何を書いているのか、それだけでも楽しみなので読んでみました。
「日本でいちばん“YouTube視聴者”を持っている」人の書
『僕の仕事は YouTube』(主婦と生活社)という書籍があります。
著者はHikakinというビートボクサーです。
チャンネル登録者数1050万人の、「日本でいちばん“YouTube視聴者”を持っている」人だそうです。
ここのところ、YouTubeがブログ、SNSと並んでネットの発信手段として注目されているので、その日本一という人の本を読んでおこうと思いました。
YouTubeに精通していない人は最初から対象外?
『僕の仕事は YouTube』は、全部で7章で構成されています。
本書の宣伝を見ると、「YouTuberが明かす成功秘話&必勝法則」を明らかにした書籍といいます。
私の印象では、具体的なテクニック解説というよりも、よくある有名人の自伝やエッセイに近い印象があります。
目次です。
まずは自分の「好きなもの」にとことん打ち込んでみる
第2章 日本一のYouTuberになるまで
「挫折」が、自分をひとまわり大きくしてくれた
第3章 初期投資「0円」はウソじゃない
キミもYouTuberになれる!
第4章 経験から得たアクセスUPの秘訣公開
HIKAKIN流YouTube必勝法
第5章 1つの成功の陰に、100の落とし穴が待っている
YouTubeで破滅しないために
第6章 HIKAKIN誕生秘話
自分を売り出す、自分を表現する方法
第7章 未来に向けてHIKAKIN進化中!
「身近」で「楽しい」「ほっとする」ものを人はみたい
私はビートボクサーというものの価値がよくわからなかったので、この人がビートボクサーとして日本一のスキルがあるのか、あまた存在するビートボクサーとしてYouTubeを効果的に利用していますよ、という話なのかをまず知りたかったのですが、少なくともヒューマンビートボックスについて、知らない人が理解できるほどの具体的な話は書かれていません。
では、YouTubeの利用法について詳しい解説が書かれているかというと、それも中途半端であるように思います。
著者は3つのチャンネルを持っているといいますが、たとえばこの書籍を手にした人の中には、そもそもYouTubeのことが全くわからず、ただ書籍のタイトルから、動画サイトで稼げる話らしい、ぐらいの漠然とした期待で関心をもつ人もいるはずです。
そういう人の中には、いきなり「チャンネル」といわれてもピンと来ない人もいるでしょう。
私もYouTubeには動画をアップしていますが、最初の頃はYouTubeから「○○さんがチャンネル登録しました」という連絡がきても何のことかわかりませんでした。
YouTubeの仕組みや、ビジネスとしてYouTubeを使うためのより具体的な機能紹介があってもよかったのではないかと思います。
本書は、「YouTubeってなんだろう」という説明がたった1ページあるだけです。
Amazonのレビューを見ると、評価は決して高くないようですが、あながちアンチが為にする批判で責め立てているとばかりはいえず、そうした本書の課題を的確に指摘していると思いました。
つまり、この本を手に取る人というのは、ビートボクサーとしての話を詳しく知りたいか、何の特技もない普通の人がYouTubeで稼げるようになるテクニックを知りたいか、だと思うのですが、どちらにも特化されていない中途半端な印象を受けます。
むしろ、そうした「一般の人」や「ビギナー」は、文句あんだったら別にいいよ、ぐらいの姿勢に感じました。
レビューにあるように字が大きいのは、中身の薄さをごまかしているようにも見えます。
実際、どちらにも突っ込んだことを書いていないのですから、字数は増えないわけです。
どうも、本書は著者の人気をあてにして、著者のファンが買ってくれればいい、という感じがします。
つまり、本書はYouTubeを利用するチャンネル登録者、もしくはヒカキンさんに興味がある人、というきわめて狭いターゲットのように思いました。
そうではなくて、むしろ著者を知らない人をターゲットにして、知らない人でもこれを読んでHikakinさんのファンになる、という企画を練って欲しかったですね。
ライターとしては、シロウトの著者を助けるのは編集者です。
そのへんで何を目指していたのかなあという気がします。
本書にも書かれているように、著者は一般社会に通じる有名人ではなく、たまたまYouTubeであたった一般人の枠内にいる人です。
スターなら雑文や自己宣伝だけでも商品になるでしょうが、一般人で人気を得るその仕組みを具体的に見せなければなりません。
たとえば、本書を見ると、「YouTubeに身も心も捧げる、そんな日が続きました」とあるのですが、そういう書き方ではなく、捧げる日々に何をしたかを具体的に書いてほしかったです。
どういう仕掛けをしたらアクセス数が上がったとか。その経過を示すグラフを見せるとか。
レビューで不満を書いている読者は、そういうテクニックを期待したのではないでしょうか。
参考になったのは動画の作り方
動画の作り方については、電車が走っている動画やお祭りを漠然と撮っているような私のレベルからすると参考になりました。こんな見出しです。
動画冒頭で内容をズバリ説明する
スタートから15秒で勝負が決まる
YouTubeアナリティクスを使い倒せ
他の人気ツールとも連動させる
最新、先取りのイベントを盛り込む
今旬のネタを上手に盛り込む
世界を目指すならやっぱり英語
ただこれは、ブログ記事でもいわれていることで、いうなれば、コンテンツ共通のテクニックといっていいでしょうね。
この中に、コンテンツでは「ああ疲れた」とか、ネガティブなことは表現するな、と指南している件があるのですが、それは同感です。
なんとなれば、見る者がどうレスポンスしていいかわからないからです。
表現者は、見る者(読む者)におもねる必要はありませんが、感情を投げるだけの発信は不特定多数の視聴者・閲覧者を求めているのならどうなのかな、という気がします。
賛成・反対・同感・異論など、相手がハッキリとレスポンスできる形でメッセージを送らないと、それは相手が存在する表現活動とはいえないだろうと思うのです。
ですから私は、個人ブログといっても、そうした独白的な感情の吐露は避けています。
このあたりは、YouTuberを目指していない人でも、人気ブログ記事の書き方として参考になるかもしれません。
現代の「人気」のあり方を象徴した内容
本書の全体としての感想は、もう少し一般の人が読むことを想定した説明があってもよかったのではないかと思います。
たとえば、ビートボクサーについて、YouTubeについて、など。
明らかに、YouTuberや著者ファンのYouTube視聴者だけを対象にしています。
こうした書籍に思うのは、以前は、有名人というと、「国民的」な人気がその頂点にありましたが、今はターゲットを絞り、そこでポピュラリティを獲得すればいい、という価値観に変わってきたようですね。
視聴率が、全体の視聴率から、世代別の視聴率重視に変わっていったように……。
価値観が多様化した現代では、あらかじめ脈のあるターゲットのみを対象とする、という割り切りが必要なのかもしれません。
私個人は、動画の作り方については参考になりました。
以上、『僕の仕事は YouTube』(Hikakin、主婦と生活社)は、YouTuberの先駆者であり代名詞ともいえるヒカキンさんの自伝的エッセイ、でした。