初恋さん今日は(みやわき心太郎著、Jコミックテラス)は、トミコと三郎の奥手な高校生2人が、不器用ながらも互いの思いを高めるハートコレクション傑作。1966年の作品ですが、今再び脚光を浴び、Amazonkindleやマンガ図書館Zなどで読まれています。
『初恋さん今日は』は、みやわき心太郎さん(1943年3月29日~2010年10月9日)の作画で、Jコミックテラスから上梓されています。
この記事は、Kindle版をご紹介しています。
みやわき心太郎さんは、貸本誌『街』の新人コンクールに入選したのを機にデビューしました。
当時の漫画化家は、貸本誌でデビューすることが多かったのです。
本作は、1966年に発表されました。
水道橋、四谷、飯田橋、市ヶ谷。電車は「立川行き」など、こんにちでも通用する舞台ですが、背景には都電が描かれるなど、よく見ると時代を感じさせます。
本作は、高校生の男女が、お互い初恋の相手として意識し合う様子を描いています。
慎み深く、さりとて見ている方がイライラするようなツンデレもなく、21世紀の今日から見ても、ごく自然に2人は距離を縮めていきます。
時代が変わろうが、初恋というのは、こういうものだよな、という気がします。
本書は2023年2月3日現在、KindleUnlimitedの読み放題リストに含まれているほか、マンガ図書館Zでも無料閲覧が可能です。
みやわき心太郎 『初恋さん今日は』 #マンガ図書館Z https://t.co/jLWyDwoRGj
— 赤べコム (@akabecom) January 30, 2023
では、さっそくストーリーをかいつまんでダイジェストでご紹介しましょう。
たんなるエリートではない、ひょうきんで優しい男
「もしもし私、トミコ。やっぱり降ってきちゃったわ。うん、うん、神保町の『アン』の前で待ってる。早くね」
トッコことトミコが、雪が降り始めたことで、家に電話しているシーンから始まります。
髪は三つ編み。
高校生らしくていいですね。
通りの信号が青になり、横断歩道を傘もささずに走ってくる高校生。
「私と同類だわ」
高校生も、トミコと同じところで「雪やどり」しようとしますが、誤ってトミコに雪をかけてしまいます。
「すみません。大丈夫ですか」
初恋の相手となる三郎です。
そのとき、はやくも車が到着します。
運転しているのは、トッコの姉です。
「ギョッ!トッコにボーイフレンド!?」
2人でいるところを見て、姉は勘違いしてしまったのです。
「トッコ。カムイン」
「あ、お姉さんですか。すみません。慌てていたもので」と三郎。
「ウフっ、いいから、いいから。あなたも早く乗んなさいよ」と、姉は強引に三郎を車に乗せてしまいます。
「トッコめ。なかなか選球眼があるじゃん。さすがわ、私の妹だわさ。雪に濡れたぐらいで、真っ赤になって弁解するなんてかわいいじゃん」と、姉は三郎を高評価。
しかし、そもそも今しがた会ったばかりの2人です。
後ろの座席で、離れて座っています。
「それにしても、トッコもすみにおけないね~。内気で無口で、とてもボーイフレンドなんて、できないと思ったのに」
家につくと、家族もびっくり。
「えーっ、トッコにボーイフレンド」
姉から話を聞き、驚くトッコの母、妹、祖母。
「さあ、入ってくるわよ。皆何気ないふりして」と姉。
困ったのは三郎です。
誤って、トッコに雪をかけてしまっただけなのに。
「あの……。どうなってるの。君のお姉さん、なにか勘違いしてない?」
困惑するトッコ。
しばらく玄関でもじもじしていましたが、家族に促され、2人はやっと家に入ります。
「困ったわ。あの調子だと、もう家族全員、了承済みだわ。あの、もし迷惑でなかったら、それらしくふるまってくれませんか」
トッコの部屋に通される三郎。
濡れた学生服の上着を乾かすからと、姉が持っていってしまいます。
「あっ、これ帝都高校のマークだわ!ジャパンリートコースよ」
さきほどは、神保町という実在の地名が登場し、物語はこの後も飯田橋とか四谷なんて出てくるのですが、ただこの高校だけは仮名ですね。
地域的に、少し遠いけれど、都立小石川高校あたりでしょうかね、モデルになっているのは。
神保町の高校というと、あとは明治高校がありますね。
「トッコ、目が高いわねえ」と姉。
やはり、そうきますか。
学歴が大事なんですね。
まあ、初対面で、何もわからなかったら、やはり学歴とか肩書で、評価せざるをえないですからね。
服が乾き、また姉に車で駅まで送ってもらう三郎。
「トッコって、すごく内気で、ボーイフレンドもあなたがはじめてなの。これからも、いい交際を続けてやってくださいね」
「はい」と返事するしかない三郎。
でも、満更でもない様子です。
三郎が帰った後、盛んに家族に冷やかされるトッコ。
食事も早々に切り上げて、自分の部屋に戻ります。
「何よ、早合点して!私の気持ちも知らないで。私がボーイフレンドなんか作ると思ってるのかしら。だいたい、男なんて〇〇で〇〇で〇〇で……」といいながらも、なんか頭の中には三郎がポッと思い浮かび、脳内で「男嫌い」の持論に対抗しています。
「あーん、もう。とにかく私は断じて、男の人は嫌いです……なはずなのに、どうなってんのかな。この気持ち。ちょっぴりイカシてんじゃん、あの人」
と、結局、自分の気持ちに正直になったのはいいとして、名前もわからないことに気づきます。
それは、三郎も同じ。
「トッコって名前のほかは、何もわからないわけか……。いや、家を知ってるぞ。しかし、訪問する理由もないし、再会の約束もしていない」と、こちらも「次」をどうしようか考えています。
その後、出会ったときと同じ時間と場所で3日間待ってみた三郎。
しかし、そのときは、公衆電話をかけて、車を待ちやすいところに移動しただけで、本来の通学路ではなかったのでしょう。
結局、会えません。
「まあ石の上にも三年だ」と、次の日また待とうと心に決め、今日のところは水道橋駅から帰ろうとします。
ああやっぱりね。
神保町と水道橋って、少し離れてますからね。
電車に乗っていても、車内広告のモデルまでがトッコに見えてしまう三郎。
好きになったときって、そんなもんですかね。
飯田橋に止まり、発車寸前で、三郎は駅のホームでトッコを見かけます。
トッコは、三郎の乗る電車に乗ろうとして、寸前でドアが閉まってしまいます。
トッコの学校のモデルは、三輪田学園かな。
しまったドアを三郎は内側からどんどんと叩き、それに気づくトッコ。
ドアのガラスに息をかけて、「待ってて」と書いたものの、そんなの走り出した電車ですから、読めるわけないんですよね。
車内では、乗客がみんなニヤニヤしながら三郎を見ています。
トッコは、飯田橋の駅で待機。
市ヶ谷につくと、急いで降りて、飯田橋に戻るために反対側の電車に乗ろうとする三郎。
冷やかす乗客たち。
すると、三郎はくるっと振り返って、片足をくの字に上げて帽子を取ってペコッと挨拶します。
結構、洒落のわかるひょうきんな人みたいです。
ていうか、東京の乗客なんて、みんな見て見ぬふりだと思うんですけどね。
ま、そこは物語ですからね(笑)
飯田橋で再会する2人。
確かに、初恋の相手と、こういう再会って楽しいでしょうね。
「あの、あの、一緒に帰りましょう」
「はい。どこまで?」
「四谷まで」
車内では、トッコの隣りに座った婦人が抱っこする赤ん坊が泣き止みません。
トッコが、「すみません。ちょっと抱かせてください」と言って赤ん坊を引き取ります。
市ヶ谷駅で降りようとする婦人に、「あ、あの、おばさん。赤ん坊を」と三郎が声をかけると、婦人は、
「まーあ、失礼な。これでもワタクシ、独身ザあます」
「じゃあ、あの子は?」
「知るもんですか。座席で泣いていたのを、うるさいからあやしていただけザンス」
ということは、捨て子?
三郎は怒り出します。
「ばかな。そんなこと、許せないよ」
実は、三郎は孤児で、今の両親は養子にしてもらったのです。
三郎は、人肌で牛乳を温めて飲ませたり、自分のシャツをおむつ代わりに使ったりします。
突っ込んでおくと、赤ちゃんに牛乳を飲ませてはいけません。
さらに、哺乳瓶がないからと言って、口移しで飲ませる三郎。気持ちはわかるけど間違いだらけですよ。
それはともかくとして、トッコは、三郎の優しさをそこで知ります。
公園で、赤ん坊をあやしながら、話をする2人。
三郎は、若秩父(←当時の力士)のように太った女の子にいじめられ続けましたが、それは彼女の愛情表現らしかった、という話をトッコにします。
トッコも、自分が男嫌いになったのは、男からからかわれたことが原因であり、それも愛情表現だったのかと気づきます。
結局、赤ん坊は、親が見つかって一件落着するのですが、2人の関係も、赤ちゃんを巡る騒動を通して、ぐっと親密になりました。
2人の会話には、「バーブ佐竹」という、やはり当時の流行歌手の名前も出てきます。
いいですね、時代を感じます。
三郎は、朝もトッコを待つことにしました。
「トッコって呼んでいい?」
「えっ?う、うん。あの……そう!いい!」
あー初々しいですね。
時代を超えて爽やかな気持ちになれるストーリー
巻末には、本作を描くために、作者が実際に中央線の各駅を写生したことを打ち明けています。
今だったら、スマホでパチリかな。
その方が正確ですが、でも逆に当時のほうが、写生の段階から真剣勝負だったんでしょうね。
人物の描き方も、『ジャイアント台風』や『タイガーマスク』を描いた、辻なおきさんに似ています。
この頃の男性漫画家は、だいたいこんな描き方だったのかもしれませんね。
黒目は、まんまるに大きくとか……。
1966年というと、私はまだ小学校にも入っていない頃でした。
その時代のマンガを、今も新鮮に楽しめるというのは、若い人の初恋って、普遍的なものということでしょうね。
本作はここで終わっているのですが、こからさらに、続編も読んでみたかったですね。
みなさんも、いかがですか。
おすすめします。
以上、初恋さん今日は(みやわき心太郎著、Jコミックテラス)は、トミコと三郎の奥手な高校生2人が不器用ながらも互いの思いを高める話、でした。