医療否定本の嘘(勝俣範之著、扶桑社)は、一部では「放置療法」ともいわれている近藤誠さんの「がんもどき理論」を批判しています。昨年夏に亡くなった、近藤誠さんの「がんと闘うな」を真に受けて、治療の機会を逃してはならないといいます。
『医療否定本の嘘』は、勝俣範之医師が扶桑社から2015年に上梓した書籍です、
帯には、「医者の極論で命を縮めないように読んでください。」と書かれています。
「医者の極論」というのは、昨年夏に亡くなった近藤誠さんの「がんもどき理論」もしくは「がん放置療法」といわれる、抗がん剤を否定する考え方です。
近藤誠さんの「がんもどき理論」は、すでにご本人が亡くなっているのに、いまだに根強い信者がいるようです。
医療現場の「がん放置療法(がんもどき理論)」に対する評判はすこぶる悪いのですが、がん患者の間では「近藤信者」と呼ばれるほど熱心な支持者がいるといいます。
たぶんそれは、抗がん剤を使ったのに亡くなってしまった身近な人がいるか、たんに抗がん剤の評判を聞いて「怖いのはイヤ」と思っているか、どちらかではないかと思います。
そこで、新刊ではありませんが、勝俣範之医師が近藤誠さんの「がんもどき理論」を批判する書籍をご紹介しましょう。
勝俣範之医師が近藤誠医師の「がんもどき理論」を批判
本書が上梓された2015年当時、『2ちゃんねるニュース速報』という、Web掲示板『2ちゃんねる』でたったスレッドのうち、レスポンスの多いものを一覧表示するサイトで、勝俣範之医師が近藤誠医師の「がんもどき理論」を批判するスレッドが上位に来ていました。
それは、『医療否定本の嘘』(扶桑社)という勝俣範之医師の自著PRインタビュー記事を紹介しているスレッドでした。
レスが多くつくということは、勝俣範之医師が批判の対象としている、近藤誠医師の「がんもどき理論」に対する関心の高さを物語るものにほかなりません。
医師による、近藤誠医師の「がんもどき理論」批判は、著書になったものも含めて、今に始まったことではなく、これまでいくたびとなく、幾人となく行われてきました。
「がんもどき」理論曰く、「がん」には他臓器に転移する「本物のがん」と、転移しないから慌てて治療しなくても命を落とすことのない「がんもどき」の2種類しかない。
「本物のがん」は現在の医学では治せない。
「がんもどき」は慌てて治療する必要はなく、最小の治療か経過観察でいい。
どちらにしても「がん」は必死に治療する必要はない。
だから、抗がん剤などの厳しい治療だけでなく、健康診断による早期発見自体すら無意味であるだけでなく有害である、というものです。
本丸の「がん発見」以前に、健康診断は、緑内障の早期発見、心電図検査、高血圧や高脂血、血糖値など、がん以外の病気の発見にも関わるものですから、そもそも粗雑な指摘であることは明白です。
さて、では本丸の゜がん」ですが、たしかに、進行しないがんが存在するのは事実ですが、それは最初から見分けることはできません。
したがって、発見したがんを軒並み「放置」するという近藤誠医師の「がんもどき」理論は、間違いであり乱暴です。
もちろん、『医療否定本の嘘』にもそれは書かれています。
それとともに本書では、がんは「がんもどき」と「本物のがん」の2極だけでなく、中間層や例外にあたる「延命・共存できるがん」もあり、それは医学の進歩で発見が増えてきているが、近藤誠医師の「理論」にその概念はないことも指摘しています。
つまり、中間層や例外まで全部「放置」してしまったら、いよいよ治せたかもしれないがんの治療機会の喪失につながってしまうわけです。
本ブログでもご紹介しましたが、『がん六回、人生全快 復刻版』(ブックマン社)を上梓した関原健夫さんは、大腸がんが転移して6度の手術経験を持ちます。
近藤誠医師の言い方による「がんもどき」ではなく、転移を繰り返した「本物のがん」ですが、諦めすに治療(切除)をしたから助かりました。
元チェッカーズの高杢禎彦さんは、2002年11月に「食道、胃接合部がん」で大手術を行い、胃や食道や脾臓や肝臓や膵臓などに転移したため、それらを全部切除。
体には刀傷のように斜めに大きな傷跡が残り、手術から3年後には、担当医師から「開けても8割方ダメだろうって意見が大半だった」が、「やってみなきゃ分からない」と半ばごり押しの手術だったと聞かされたそうです。
もちろん、現在は社会復帰しています。
現在も球界で活躍する、ソフトバンクホークスの王貞治会長は、胃がんでリンパ節2箇所転移していましたが、当時はめずらしかった腹腔鏡手術を行い、「本物のがん」から生還して完治宣言をしています。
どう強弁しても、その人たちは「がんもどき」ではありません。
近藤誠医師の説による立派な「本物のがん」でも、ちゃんと治療して治りました。
現代の医学は、こうした例は枚挙に暇がありません。
がんが原発にど止まっているステージ1~2だけでなく、転移したステージ3からの生還も決して珍しくないのである。
現代医学では、その「延命・共存できるがん」こそが、現在の医学では生存率、延命率を上げるキーワードになっているのです。
過去にがんになっても、治療してその後の人生を元気に過ごした人たちは、みな「がんもどき」と思い込まないと、近藤誠さんの「がんもどき」理論はつじつまがあいません。
無理があるつじつまだが、信者たちは、現実に無理にでもそう信じているのでしょう。
信者さんがたよ。
医療を宗教化する主観自体は自由ですが、そうした現在の医学の課題や努力から、目を背けてしまうのは大変残念というか、もったいないことではないでしょうかね。
近藤誠医師の話を鵜呑みにして、「本物のガンだからたたかわない」などと諦めていたら、関原健夫さんも、高杢禎彦さんも、王貞治会長も、みんな今頃はお星様になっていたんですよ。
人は信じたいものを信じる
私は改めて、「がんもどき」理論を信じたい人について考えてみました。
頑迷な「がんもどき」の信者は、
- 重篤な病気の深刻な現実と向き合えない弱い、単純に抗がん剤が怖い人間
- 身近に治療の甲斐なく亡くした経験のある人が、がん治療そのものを否定することで自分の気持に折り合いを付けるべく、今の標準治療を否定して「ガンは放置しろ」という「低きに流れる」説に飛びついている
のだと思います。
しかし、だからといって、同情もできないし、捨て置くことも出来ません。
それによって、貴重な治療の機会を逸したり、Web掲示板に間違った情報を書き込んで広めたりすることは防ぎたいと思うからです。
本書では、「がんもどき」理論が一部大衆の心をつかんでいる理由は、無知や弱さやトラウマの他に、医療不信もあるのだろうと見ています。
ドクハラ、医療過誤、封建的な医学界のイメージ(実際に封建的なのだろうが…)
大衆が、医療に対して心配するキーワードはいくつもあるわけです。
そして、「がんもどき」はともかく、がんの部位によっては、早期発見を目指すことがが有効な場合とそうでない場合があるのも事実です。
早期発見の有効性や検査方法などについては、医師や医学者の間でも議論が重ねられています。
医学も医療も、まだできないことがたくさんあります。
無謬でも万能でもありません。
しかし、日々進歩していることも確かです。
さすれば、その現実はきちんと認識したうえで、では何ができるのか、なにが出来ないのか、自分は重篤な病気になったらなにを求めるのか、そうしたことをきちんと頭のなかで整理できることが必要ではないでしょうか。
過大な期待と勝手な絶望が、医療否定につながってしまったら、それは自分にとっても賢明ではない思考だと思います。
「がんもどき」理論に対してナイーブな信奉の残る人は、ぜひ『医療否定本の嘘』を一読していただきたいと思います。
以上、医療否定本の嘘(勝俣範之著、扶桑社)は、一部では「放置療法」ともいわれている近藤誠さんの「がんもどき理論」を批判する、でした。
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