南幌町家族殺害事件(2014年)を漫画化したのは、『絶対君主の家~2014年北海道南幌町家族殺害事件~』(藤田素子著、ぶんか社)です。祖母が絶対的な家長として振る舞い、血のつながった孫が虐待され続けたことで殺害に至った事件です。
絶対的な権勢を奮って虐待の限りを尽くした祖母
南幌町家族殺害事件といわれる、やるせない事件が2014年にありました。
北海道空知郡南幌町で発生した、女子高生が母親と祖母を殺害した事件です。
簡単に述べると、祖母の常軌を逸した「しつけ」と称する虐待や、飼い犬以下の扱いに我慢ができなくなった一家の三女が、母親も含めて殺害に及んだのです。
薬局勤務の長女が帰宅した際に遺体を発見。
祖母は、頭や胸など7箇所を刺され、母親は喉仏から頸動脈まで切り裂かれていた、ともに失血性ショック死でした。
YouTubeでは、2022年2月17日現在、少なくとも5つの動画チャンネルで事件を取り上げています。
【ゆっくり解説】10年以上の過酷なイジメへの報復…孫による祖母、母にメッタ刺し 「南幌町家族殺害事件」 https://t.co/vOd6WUMRpf @YouTubeより
— 石川良直 (@I_yoshinao) February 16, 2022
ふつう、祖母といったら隠居の立場ですよね。
しかも、この祖母は母方の祖母です。
ところが、この一家はその祖母が絶対的な力を持っていました。
もともと、水道工事関係の仕事をする、父、母、長女、次女、そして犯行に及んだ三女という、平和な5人家族だったのですが、そこに夫を亡くした母方祖母が入り込んで、同居することから不幸が始まります。
年寄りは邪魔者扱い?
いえいえ、祖母は金を持っていました。
といっても、汗水流して働いた対価ではなく、病気で亡くなった夫の生命保険金です。
それを原資に株投資で資産を増やし、一家が住む一戸建てを建てました。
「ここはアタシの家だよ。アタシの家に住むのなら、アタシのいうことを聞くのが当たり前だろ」
祖母はすっかり戸主を気取るわけです。
ついていけなくなった娘の夫、つまり三女の父は2年後に離婚。
次女を連れて祖母の家を出ます。
しかし、三女の母は、夫よりも母親を選んだんですね。
親離れできていなかったというより、もともとこの祖母は自分の娘を支配下においていた絶対的な関係だったのでしょう。
そういう調子ですから、祖母は長女と三女も自分の支配下におくわけです。
それどころか、自分の飼い犬以下の扱いです。
といっても、ひどい仕打ちはもっぱら三女に対してでした。
旧弊な家制度の価値観に凝り固まっている祖母は、長子主義だったのです。
つまり、長女は跡取り娘。
三女だけが下女扱いです。
もとより、祖母は子供嫌い。
母親に、「子供は1人でいい。2人も3人も産むなんて恥ずかしいことだ」と言っていたとか。
そう。「しつけ」と称する虐待だけでなく、三女を家事や犬の世話など「無料の家政婦」としてこき使いました。
何しろ、三女は物置の離れに住まわせられたのですから。
しかも、実の母親はそれを全く止めないのです。
祖母の、三女に対する「報道されている虐待の目撃談」をWikiから引用します。
虐待の詳細は打ち明けていなかったが、犯行5日前に「予告」
Wikiでは、「三女」ではなく「少女」と表記されています。
- 頻繁に雪かきや草むしりをさせられていた。
- 祖母の飼っている犬の散歩をするため、毎日夕方5時まで帰るよう命じられており、学校から走って帰っていた。
- 冬に車庫の前に立たされていた。
- 少女だけ表玄関の使用を禁じられ、勝手口を使っていた。
- 生垣の手入れを全部させられていた。祖母は窓から杖で指示していた。
- 小学生時代、ランドセルを買ってもらえず、風呂敷で通っていた。
- 少女だけ、二段ベッドの置かれた離れで寝起きしていた。
- 裸で屋外にほうり出され、祖母から頭から水をかけられては笑われていた。
それ以外にも、「生ゴミを食べさせられていた」という三女自身の裁判における証言もあります。
これだけ事態が明明白白な虐待で、どうして警察や市役所や児童相談所は止められなかったのでしょうか。
家庭の問題は、なかなか第三者が入りにくいことかもしれませんが、「裸で屋外にほうり出され、祖母から頭から水をかけられ」などというのは、理由のいかんを問わず、看過できることではないでしょう。
実は、児童相談所は、いったんは子供たちを保護しているのです。
が、祖母らと面談を重ねて保護を解除してしまいます。
しかし、保護解除がやむを得なかったとしても、「次はないぞ」と釘を刺し、要監視の中で実際に「次」は厳しく取り締まるべきだったのです。
それ以降、祖母の虐待は苛烈になったと報じられているのですから。
学校では、教員や生徒が薄々は感づいていましたが、三女は虐待の詳細を打ち明けていなかったので、どのくらいひどいのかまでは把握できなかったようです。
ひとつには、口外すれば祖母の虐待が、その報復も加わってますますひどくなることが予想されたことと、自分の母親までが祖母の側についていたことから、人を信用できないようになっていたのではないでしょうか。
それでも、殺害5日前には姉に買ってもらった端末で、殺人をほのめかすツイートを行ったり、友人との電話では殺害の意思を伝えたりしています。
めったなことで口外しない、もといできないだけに、それは「固い決意」の表明だったわけですから、止められなかったことが惜しまれますね。
殺害のきっかけは、長女が交際男性との同居を望んで祖母から罵られ、「死んじゃえばいいのに」と思ったことを三女が受け止め、自分と長女の自由のためにヤるしかない、と決意したと言います。
同級生の親らは、減刑のための署名(嘆願書)を1万以上集めたといいます。
別れた父親と次女は、このことをどう見ているのでしょうか。
親>子という「道徳」に根本的な問題あり
三女は、札幌家庭裁判所で医療少年院送致とする保護処分が決定。
長女は、祖母と母親に使う睡眠導入剤や、手袋を用意して殺人の手助けをした殺人幇助で在宅起訴されました。
罪は罪ですが、ではいったい三女はどうすればよかったのか。
みなさんは、三女がどうすればよかったと思いますか。
この事件は「尊属殺人」ということになりますが、なぜ「尊属」なんて言い方がまかり通るのでしょうか。
私は繰り返し書いていますが、親や先祖を無原則に敬う道徳はクソくらえだと思っています。
親は、自分の勝手な意思で子を生んだのです。
「生んでくれてありがとう」以前に、というかもっと根源的に、「生まれてくれてありがとう」なのです。
この一家はとくにひどいですが、子>親、という価値観をもたないと、親が絶対という合理性を欠いた絶対的な関係の中では、より新しい世代が自由を奪われることになります。
我が国には、未だに家制度の因習を事実上残す目的で、子は親に無条件で従う奴隷であることを示す法律(民法第818条)があります。
たとえば、親であることをタテに、子に特定の選択や価値観を強要する毒親は、今の日本では虐待など違法行為が公然としたものでない限り「合法」になってしまうのです。
それが、親が絶対などという、インチキ道徳を生み出す原因だと思います。
そして、現代は家制度が否定され、家族制度であることも忘れてはなりません。
「親孝行」というのは、もう死語にしてもいいのではないでしょうか。
個々の親子関係でそれがあるのは構いませんが、社会的にそれが当然だ、という「道徳」は、今回の事件の素地となっていると思います。
この事件を漫画化したのは、藤田素子さん作画の『絶対君主の家~2014年北海道南幌町家族殺害事件~』(ぶんか社)です。
AmazonKindle版で、それのみで1冊完結している単話版もありますし、『ストーリーな女たち ブラック Vol.7』、『僕は死にたくなかった~実録・児童虐待の闇~』に収録もされています。
AmazonUnlimitedでは、読み放題リストに入っています。
以上、南幌町家族殺害事件(2014年)を漫画化したのは『絶対君主の家~2014年北海道南幌町家族殺害事件~』(藤田素子著、ぶんか社)です、でした。
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