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喰王スペシャル(土山しげる、日本文芸社)は、食べることが好きなキャバクラ店長が、食べ物で問題を解決する日常を描く漫画

喰王スペシャル(土山しげる、日本文芸社)は、食べることが好きなキャバクラ店長が、食べ物で問題を解決する日常を描く漫画

喰王スペシャル(土山しげる、日本文芸社)は、食べることが好きなキャバクラ店長が、食べ物で問題を解決する日常を描く漫画です。“飯テロ”的なエキセントリックなシーンもなく、グルメ漫画の多い作者としては異色ともいえる作品です。

『喰王スペシャル』は、土山しげるさんが日本文芸社から上梓しました。

『喰王』と書いて、『クウキング』と読みます。

土山しげるさんは、『食キング』の作者のため、似た名前にしたのかもしれません。

食キング(土山しげる著、日本文芸社)は、「B級グルメ店復活請負人」の主人公が、傾いた庶民向け飲食店を再建するストーリー
食キング(土山しげる著、日本文芸社)は、「B級グルメ店復活請負人」の主人公が、傾いた庶民向け飲食店を再建するストーリーです。店主には、一見すると店の料理とは無関係な修業を質問厳禁でさせますが、実際には再建のために必要なことがわかります。

ただし、『食キング』のような、エキセントリックな特訓や、食べるシーンなどはありません。

あくまでも、食べることが好きなキャバクラの店長が、従業員や関わりを持った人たちとのちょっとした摩擦を、食べ物で解決するというストーリーです。

土山しげるさんについては、定年を迎えた還暦男性がありふれた食堂を巡る『漫画版野武士のグルメ カラー版1st01』(久住昌之/原作、土山しげる/画、幻冬舎)、

漫画版野武士のグルメ カラー版1st01(久住昌之/原作、土山しげる/画、幻冬舎)は、定年を迎えた還暦男性がありふれた食堂を巡る
漫画版野武士のグルメ カラー版1st01(久住昌之/原作、土山しげる/画、幻冬舎)は、定年を迎えた還暦男性がありふれた食堂を巡るグルメコミックです。ネオクラシック系ラーメン店には目もくれず、昭和の佇まいを感じる町中華でタンメンをすすります。

商社に勤める無類の麺好き主人公が、立ち食いそばや町中華の焼きそばなどで騒動を解決する『男麺』(土山しげる、ゴマブックス)など

男麺(土山しげる、ゴマブックス)は、商社に勤める無類の麺好き主人公が、立ち食いそばや町中華の焼きそばなどで騒動を解決
男麺(土山しげる、ゴマブックス)は、商社に勤める無類の麺好き主人公が、立ち食いそばや町中華の焼きそばなどで騒動を解決するストーリーです。どんな揉め事があっても、大衆的な「麺」を食べることで心が穏やかになってハッピーエンドです。

グルメコミックの作家としてたくさんの作品を遺されていますが、キャバクラの店長、というその中でも異色の主人公によって、いろいろなストーリーが展開されています。

本書『喰王スペシャル』(土山しげる、日本文芸社)は、Kindle版をもとにご紹介します。

2022年11月10日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。

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謎のチョビヒゲ店長がトラブルも食べ物で解決

『喰王スペシャル』の表紙は、

『日本全国美味いモノ案内人!!』
『喰わせ上手なチョビヒゲの店長、ネオン街の「喰わせもの」!!』
『土山グルメ最新作 初単行本化』

と書かれています。

ということは、遺作と見ても良いのでしょうか。

上の2行は、まさに主人公の設定が説明されています。

主人公は、桑瀬主水(くわせもんど)。

通称、くわもんさん。

『食わせもん奴』とも読めます。

見かけは、鼻の下にちょび髭を生やした、少し太めのありふれた中年男性です。

キャパクラの店長で、全国の名産に精通しているグルマン。

しかも、食べるときは、たとえば博多ラーメンを前にしたら博多弁など、その名産の地方の方言を話すという本籍不明の人物です。

そもそも、主人公の背景は全く謎です。

それをストーリーには一切使っていないからです。

たとえば、どこで生まれて、どうしてキャバクラの店長になったり、食通になったりしたのか。

家族構成はどうなっているのか……。

1度、従業員が、くわもんさんの住まいに遊びに来るのですが、夫人が正月だけ来ていたことが語られています。

さすれば、単身赴任なのか。

また、キャバクラの店長になる前は、営業マンだったようですが、何を売っていたのかはわかりません。

食通になるには、それなりの動機や事情があり、それがストーリー展開に大きく影響するのが、土山しげるさんの作品を含めた他の作品の「お約束」なのですが、本作にそれはありません。

とにかく食通で、物語中展開されるゴタゴタは、食べ物で解決しています。

本編は、全21話です。

そして、『もんどセレクション』として、『桑瀬主水が厳選!!全国津津浦浦故郷の味』というタイトルとともに、ストーリーにでてきた地方の名物を紹介しています。

たとえば、こんかいわし(石川県金沢市)、静岡おでん(静岡県中部地方)、小豆雑煮(島根県松江市・鳥取県東部)、塩ブリののた(滋賀県竜王町)、ぜんご寿司(大分県佐伯市)、ねきそば(福島県大内宿)などです。

具体的には、こんなふうに紹介されています。引用します。

こんかいわし 石川県金沢市 ほか
昔は旬を迎える春になると、能登から加賀の 海域でイワシが大量に水揚げされておりまし た。なにせ傷みやすい魚ですから一時に集中し して獲れると保存に困り、塩漬けにしたイワ シを更に糠に漬けるという方法で保存してみ たところからコンカイワシがうまれたそうな のですだ。イワシの旨みと塩っぱさがヤミツ入 キ ご飯はもちろん、お酒も進みますぞ!
2静岡おでん 静岡県中部地方
静岡県中部地方では大正時代から庶民の味としておで んが親しまれてきました。飲み屋や駄菓子屋におでん 鍋があり、子供も大人も一年中おでんを食べます。静 岡市には「おでん横丁」があり、湯気のたつ鍋を覗くと、 真っ黒スープからにょきにょきと竹の串が生えてます。 牛すじのダシのきいた濃いつゆで「黒はんぺん」や練 り物を着て、ダシ粉(かつおぶしの粉)と青海苔をか けて食べるのです。もう、たみゃらんですぞ!

主人公のくわもんさんの話し言葉で書かれているわけです。

ストーリーは、全体としておとなしめです。

ライバル店の店長が、時々仕掛けるのですが、『食キング』ほど壮絶ではありません。

あっさり、くわもんさんが勝っています。

そもそも、くわもんさんは、ライバル店と「勝負」という考えはなく、お互いが頑張れば良い、という考え方です。

ですから、ストーリーの中には、ギスギス感はなく、比較的刺激は少なく読めます。

『食キング』のような大掛かりなストーリー展開を期待すると、少し物足りないかもしれませんが、『孤独のグルメ』以来の、ストーリーにギスギス感を持ち込まないグルメストーリーという「トレンド」にあるものなので、そちらのほうがお好みなら期待に答えた作品であると思います。

各地の方言を話す本籍不明の男

本編は全21話の中で、第1話『くわもん登場』から簡単にご紹介します。

トップページの説明から。

桑瀬主水、通称くわもんは、キャバクラ「ル・ジャーナ」の店長さん。
ちょっと前にこの街にふられと現れて、今ではちゃっかり馴染んでいるけど、前職では日本全国を飛び回っていたらしく、日本各地の美味しいものを何から何までよおく熟知しております。
郷土料理、名物料理、B級グルメに、ご当地グルメ!
キャバクラなのに、料理が名物!
人呼んで「得恋レストラン」!!(笑)

漫画は、くわもんが、立ち食いそばでイカ天そばを食べるところから始まります。

すると、のレンの外から、「高い!!ぼったくりじゃなかか」という声。

くわもんは、食べかけの丼に自分のハンカチをかけ、「これ、後で食うから取っといて」と店員に伝えて声の主のもとへ。

スナックの客が、勘定が高いと言い、店員がそれをなだめていました。

くわもんが、「あんた、博多モンね。博多ン漢ならサクッと払わんね?」と仲裁に入ります。

安堵の表情を見せる店員にVサインしたくわもんは、客に「飲んた後のラーメン食わんね。おごるけん。この街にもうまか博多ラーメンの店があるとよ」と誘います。

店で注文後、客が「ところで、あんた誰ね」と尋ねるので、くわもんが答えようとすると、ラーメンが出来て着丼。

客は、「見た目と香りは本物っぽかばってん…スープを飲んだらばれるけん」と言いながらレンゲで一口。

「うまかーっ」

次々麺をすすります。

「地元以外でこげんうまか博多ラーメン、初めてったい!……ところで、あんた何者…」

といって客がくわもんのいた隣りを見ると、もうくわもんはいません。

テーブルには、600円と、くわもんの名刺が。

くわもんがスナックに戻ってくると、店員が礼を言います。

「くわもんさん、ありがとうございました。くわもんさん、博多の人だったんスね。知らなかったスよ」

すると、くわもんは……

「ちゃうちゃう。博多とちゃう」

本籍不明の男です。

くわもんは、立ち食いそば屋に戻り、ハンカチをとり、冷めてのびきった残りのそばをすすります。

「またうまい!トロトロになったイカ天の衣とそばを一緒にツユごと飲み干す」

店に帰ると、店長としてテキパキと指示を出します。

そうしているうちに、今度は前日面接に来た女性が「ル・ジャーナで働かせていただくことに決めました」とやって来ます。

面接の後に、お好み焼きを2人で食べたのが決め手だったようです。

「お好み焼きもおいしかったですが、店長さんと食べているともっとおいしくなって……」

くわもんは、もちろん彼女を歓迎します。

「ようこそ、ル・ジャーナへ!!まずは体験入店を」

キャバクラは、まずお試しで働いてもらうんですね。

初めて知りました。

くわもんは、今度は東北弁になります。

「あの娘、人気出っぺよ」

ということで、この回だけでも、博多ラーメンとお好み焼きが解決ツールになっています。

こんな感じで、毎回各地の食べ物、とくに大衆的なものが次々登場します。

その一方で、キャバクラ店長の仕事やキャバクラの営業方法、「キャスト」についてなどがさりげなくわかるようになっています。

全21話は、なかなか読み応えがあります。

いかがですか。

以上、喰王スペシャル(土山しげる、日本文芸社)は、食べることが好きなキャバクラ店長が、食べ物で問題を解決する日常を描く漫画、でした。


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