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『大阪2児放置餓死事件』(北上祐帆著、ぶんか社Kindle版)は、猛暑のゴミ部屋で愛児を餓死させた事件を前後編で漫画化しました

『大阪2児放置餓死事件』(北上祐帆著、ぶんか社Kindle版)は、猛暑のゴミ部屋で愛児を餓死させた事件を前後編で漫画化

『大阪2児放置餓死事件』(北上祐帆著、ぶんか社Kindle版)は、猛暑のゴミ部屋で愛児を餓死させた事件を前後編で漫画化しました。“ホスト遊び母の素性”が注目されましたが、背景には毒親、暴力、根性主義、自己愛、懲罰的育児など社会的病理が伺えます。

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母親をそこまで追い込んだものは何だったのか

『大阪2児放置餓死事件』(北上祐帆著、ぶんか社Kindle版)は、前後編の2冊で完結するコミックです。

前編の表紙は、背景に鬼の影を背負いながら、よい母であろうとした加害者の女性と子どもたちが明るい色彩で描かれ、後編の表紙は転落していく女性をモノトーンで描くなど、作者の意欲が最初から感じられる力作です。

さて、描いた事件は、2010年7月30日に、大阪市西区のマンションで、2児が母親の育児放棄によって餓死した大阪2児餓死事件です。

裁判は、上告され最高裁までいきましたが、懲役30年が確定しています。

YouTubeでは、センセーショナルに、加害者女性を叩くタイトルの動画がこれでもか、これでもかと並んでいます。

そりゃ、育児放棄で我が子の命を奪ったのですから、重罪は免れないでしょう。

しかし、それらには、なぜ事件が起こったのか。

なぜ、女性がそこまでの行為に至ったのか、という掘り下げはありません。

彼女を、そこまで追い込んだものは何だったのかを明らかにすることで、同種の事件の再発防止とともに、他の人間関係や事件に対する教訓も生まれてこようというものです。

とくに、この事件は、例によって毒親が、大きな鍵を握っています。

何より、親の不仲(離婚)が、子に決定的な不幸をもたらします。

本書中にもそう表現されていますが、子は親の生き方をトレースする悲しさを確認できます。

そして、事件全体を通して、女性に対する懲罰的育児も問題になりました。

懲罰的育児というのは、育児を押しつけることをもって制裁とするもの。

なぜ、彼女が育児を押し付けられて、周囲の人達は何も手助けしなかったのか。

そこも問う必要があるでしょう。

大阪2児放置餓死事件は、すでにニュースでも何度も報じられ、ルポも書籍として上梓されていますから、大筋で事件の概要は明らかになっていますが、上掲の社会的病理が、加害者の女性の背景にはある、ということを念頭に置いた上で本書を手に取ると、事件に対する認識がいっそう深まるのではないかと思います。

誰も救うことができなかったのか

本書は、上村七絵(23)が、50日戻らなかったマンションから異臭がするとの苦情があったところから始まります。

マンションには、2児の餓死遺体が。

警察から出頭要請があり、上村七絵は逮捕されます。

それを受けて、作者の独白。

なぜ子どもたちは死ななければならなかったのか
誰も救うことができなかったのか
子育てが嫌だったらせめて路上に置き去りにすればいいものを

一番下については、たしかに無責任なだけなら、そのほうが順当な行動です。

劇中、女性が子供を、意図的に手をかけようとしたことはありません。

だったら、なおさら、どうしてこんなことになってしまったのか。

自己愛と毒親

簡単に言えば、自己愛に尽きると思います。

こうした事件にありがちなのですが、結果的にでもひどいことをしておきながら、もともとの動機は、自分は周囲から評価されたい、よく思われたいという心理が働いているのです。

でもできない。

その際、「やっぱりだめでした」と自分の非や至らなさを認めて善処を頼むのではなく、無責任に逃げ出してもっと悲惨な結果に陥ってしまうのです。

できない自分という現実はあってはならない。

かといって、もう責任が持てない。

結論は、逃げるしかないのです。

本書では、「飛ぶ」という表現を使っています。

彼女は、自分に課題が生じると、「飛ぶ」ことが習性になっていました。

彼女の自己愛がそうさせたのです。

自己愛というと、一部には誤解があり、「自分で自分を愛する行為がどうしていけないのか」と反論する向きもありますが、自己愛というのは、自分に誇りを持つとか、自愛する、ということとは意味が違います。

自分は、社会でもっと評価されるべき人間である、自分の判断はいつも正しいなど、ありのままの自分ではなく、理想の自分に異様なほどのこだわりを持つことを自己愛と言います。

それは結局、ありのままの自分と向き合うことが出来ないわけですから、実は自己を愛することになっていないのです。

その自己愛という人格の形成に関わるのは、当然両親です。

彼女は、両親とふたりの妹の5人家族の長女として育ちました。

父親は、メディアでも取材されたことが在る、市内でも有名な体育教師でありラグビー部の部長。

教え子の女生徒と結婚しますが、どうやら旧弊な思想の持ち主で、浮気とDVの常習犯。

それでいて、自分の体面を気にする「ええ格好シイ」でした。

母親は、虐待する親に育てられたそうで、子供に対しては虐待の連鎖があり、さらに自分も浮気して、七絵が5歳の時に離婚しました。

そこではネグレクトが行われ、七絵たちはいつもお腹をすかせて風呂にも入っていない姉妹だったそうです。

つまり、七絵は自分の母親にされたことを、自分の子供にトレースしていたのです。

作者はこう考えます。

母もまた
ネグレクトで育ち
本来守ってくれる
温かい人との
想い出がなければ
子育ては
何が正しいのか
どうすればいいか
わからなかったの
ではないか

毒親は毒親に育てられる。
これは私の持論です。

もちろん、中には、「こういう“毒”は自分の代で打ち切りとしたい。子々孫々には絶対に継承させない」という固い決意の中で、自分は気をつけてその連鎖を止めることは不可能ではありません。

ただし、親子というのは対等ではなく、絶対的な関係ですから、親から強引に刷り込まれた価値観を、全面的にクリアするというのは困難ではないかと思います。

見るに見かねた父親が七絵らを引き取ったものの、再婚相手が自分の付け子ばかりを可愛がる「えこひいき」を行っていたため、父親は2度目の離婚。

その頃から、七絵は実母と再会しますが、実母は別の男性と再婚して、その頃に限っては幸せな生活を送っていました。

七絵の胸中いかばかりか。

このころから七絵は、家出を繰り返すようになり、悪い友達と付き合うようになります。

本書は、その頃の「遊び仲間」の証言を入れています。

七絵は自分を盛る(よく見せる)嘘をよくついた。
七絵はテンションが高かったからおったら楽しかったけど
よく嘘をついたから仲間からは信用されていなかった。

ね、またしても自己愛まる出しです。

しかも、悪い連中に集団レイプまでされ、自我をなくし、自尊心をずたずたにされた七絵は、解離性人格障害になってしまいます。

では、そのまま転落かと言うと、更生のチャンスもないわけではありませんでした。

父親の知り合いのラグビー部の監督のもとに下宿し、監督の母親から初めて躾らしい躾を受けます。

父親は、七絵の非行を、実子だけをえこひいきした2番目の妻と、荒れた中学のせいだと考えました。

が、監督とその母親は、生育環境にあったと考え、愛情を持って七絵に接したのです。

いったんは更生して結婚したのに……

そうして、いったんは真人間になった七絵は、普通の青年の大学生と出会い妊娠⇒結婚します。

大学生は、学校をやめて働き、大学生の実家も彼女たちを迎え入れます。

しかし、そこでの生活も長続きしませんでした。

またしても、例の自己愛が頭をもたげ、良い母親でなければならないと思ったらしく、そのプレッシャーに負けたか、ママ友サークルをケンカ別れで辞めてからは、また昔のたちの悪い連中と付き合うようになります。

結婚生活も破綻。

シングルマザーとなった彼女は、風俗で働きますが、「良い母親」としてのリア充をSNSにアップすることに夢中で、現実のシングルで苦闘する自分とは折り合えません。

児童相談所からも声はかかりますが、結局ありのままを打ち明けて世話になることは出来ず、また自分の周囲の人間も頼りにならず、彼女は子育てからも飛んでしまいます。

冒頭の動画タイトルで、ホスト遊びに彼女が熱中しているような描き方は、風俗勤めでストレスをためた彼女が、ホスト遊びに明け暮れていたことを指します。

その結果が、50日間自宅に帰らず、子ども2人の餓死でした。

自己愛が邪魔をして、更生してもまた転落

こうしてみると、人生にとって「ほしのもと」というのがどれほど大きいか、ということが改めて思い知らされます。

毒親に育てられた自己愛者の七絵は、いったんは愛情を持つてしつけられ、学校を卒業後は普通に就職し、旧家の息子と結婚して実家に迎えられているのです。

もちろん、婚家はそれまでの彼女の生き様も聞いています。

なのに、自己愛が邪魔をして、また転落していく。

しかも、ネグレクトのトレースまで行い、より悲劇的な結末に。

これまでにも実録コミックを何度かご紹介しましたが、毒親が背後にあることは、もうセオリーといっていいかもしれません。

昨年、話題になった『実力も運のうち 能力主義は正義か?』という書籍は、マイケル・サンデルさんの新著で、努力だ、実力だといったところで、どういう親に生まれるかで前提が変わってくるという話が書かれています。

マイケル・サンデル教授先生の『実力も運のうち』で、オバマ氏の「努力は必ず報われる」が社会の分断招いたという指摘が話題
マイケル・サンデル教授先生の『実力も運のうち』で、オバマ氏の「努力は必ず報われる」が社会の分断招いたという指摘が話題です。中村佑子さんが書評で解説していますが、努力による「功績」偏重社会の奥底に眠る人間の奢りをあぶりだしています。

改めて、人生は「ほしのもと」がいかに重いかを感じさせてくれます。

それにしても、毒親の問題はどうにかならないのでしょうか。

親の子どもに対する懲戒権は、民法でこう定められています。

「子の利益のため」というのは、抽象的な文言であり、親が「良かれと思う」なら、この法律には反しないことになってしまいます。

その意味で、この民法では、私は毒親や懲罰的育児の問題は根本的な解決にならないように思います。

ちなみに、『気づけない毒親』(高橋リエ、毎日新聞出版)によると、毒親は次のようなパターンがあるといいます。

  1. 口が悪く、つねに攻撃的な言葉で子どもを否定し押さえつける「ジャイアンタイプ」
  2. 子どもが思い通りにならないと、つらそうにしたり、泣いたりして子どもに罪悪感を抱かせコントロールする「可愛そうな母タイプ」
  3. 子が思い通りならないと、親戚中に触れ回って自分の正当性を訴える「パフォーマンスタイプ」
  4. 献身的に尽くしながら、子どもが自分の敷いたレールを着実に走るよう、たくみに誘導する 「至れり尽くせりタイプ」

今回のテーマである「被害者意識が強い」ということと、重なるものがありますね。

自己愛の強い人の特徴が分析されて話題。自己愛者は被害者ぶり「他人からいい人に見られたがる傾向」がある。毒親の素地も
自己愛の強い人は被害者ぶり「他人からいい人に見られたがる傾向」がある。「被害者であることを頻繁にアピールし他人の同情を得ようとする人は、他人からよく見られたがり、他人への共感能力にも乏しいナルシシスト的傾向がある」加えて毒親の素地も

いかがですか。

あなたや、あなたの両親にあてはまりますか。

その時は正直に認めることこそが、子孫に対して「負の遺産」を継がせない唯一の道です。

「親孝行」などという曖昧な「道徳」に負けずに、親を含めた先祖の悪い点は率直に認めて向き合いましょう。

なお、本書『大阪2児放置餓死事件』(北上祐帆著、ぶんか社Kindle版)は、前後編ともAmazonUnlimitedの読み放題リストに入っています。

以上、『大阪2児放置餓死事件』(北上祐帆著、ぶんか社Kindle版)は、猛暑のゴミ部屋で愛児を餓死させた事件を前後編で漫画化しました、でした。


大阪2児放置餓死事件 (ストーリーな女たち) – 北上祐帆


大阪2児放置餓死事件(単話版) 【後編】 (ストーリーな女たち) – 北上祐帆

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