夫婦漫才(「ごめん下さい」改題、山上たつひこ、フリースタイル)は、若夫婦と老けた母の掛け合い漫才的日常生活を描いた漫画です。関西のお笑い番組、あの吉本新喜劇を見ているようなほのぼのとしたシチュエーションコメディです。
『夫婦漫才』(「ごめん下さい」改題)は、『がきデカ』でおなじみの山上たつひこさんが、フリースタイルから上梓した漫画です。
1982年~1984年にかけて、週刊漫画アクションで掲載されていたそうです。
この記事は、Kindle版をご紹介しています。
山上たつひこさんといえば、以前、『主婦の生活』(小学館クリエイティブ)をご紹介しました。
二世代住宅に住む主婦昌代さんと、家族とのあれこれを描いた日常的喜劇漫画です。
本作は、そこから4年遡りますが、モチーフはやはり、日常的喜劇漫画です。
自宅をベースに、そのご近所の人も時々登場する、シットコムといわれるタイプの喜劇です。
本作は、子供のいない若夫婦に姑の3人が核になっています。
が、姑の年齢設定は62歳になっているものの、当時からみても62歳にしては老けすぎです。
見かけは80代後半といってもいいかも。
もっとも、それは見かけであり、動きは60代よりも若いぐらいです。
『主婦の生活』は、夫婦のやりとりが中心でしたが、本作『夫婦漫才』は、夫婦と姑、とりわけ嫁姑の掛け合いが中心です。
Amazonのレビューにかかれているように、「関西のお笑い番組を見ているような、吉本新喜劇を見ているようなほのぼのとしたお話」です。
本作は2022年11月16日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
なお、いつも記事最初のヘッドの画像は、表紙を全部お見せしていますが、本作は主役3人が風呂に入っているシーンで、若妻の身体が見えているので、今回はちょっと見せ方を替えさせていただきます。
3人を軸に繰り広げる小市民的喜劇
山上たつひこ先生の「夫婦漫才」がアマゾン・アンリミテッドにあるな。これもぶっちゃけ下ネタ多いけど、喜劇新思想体系とかお下劣過ぎてキツい方にはまずオススメ pic.twitter.com/TVAayhSwHQ
— まるほらんどぱす (@mulhollandpass) December 4, 2021
登場人物は、主役が篠田家の3人。
まず夫婦の夫が誠。編集者です。
妻は専業主婦の尚子。山上たつひこの描く典型的美女です。
おめめパッチリで、ちょっとエッチですが、顔がでかい。
そして、62歳とは思えない婆さん姿の夫母(姑)。
平気で垂れた乳房は見せるし、いや、庭で全裸になっています。
悪い人ではなさそうですが、小市民的自我が強そう。
物語の基本は、この3人の絡みです。
山上たつひこさんの漫画ですから、随所にナンセンスと、たわいないエロが出てきます。
梅は、ある日、起きたときはどうもノーパンです。
負いっきり尻を掻いています。
梅の寝言で苦しめられた夫婦は、夫が音響を使って「おはようございます」と怒鳴って意趣返しすると、梅は
「処女膜が破れるかと思ったよ」
「あんたにそんなもんあるんですか」
「はっはっはっ、いやいや、鼓膜鼓膜。……誠。母の処女膜喪失の話を聞かせよう」
「聞きとうないわっ。朝っぱらからそんな話っ!」
「あら、卵がない。おかしいなー、まだ1パックあったはずなのに」
「何、卵?」
「ええ」
「卵ならあたしが飲んだよ」
「え~っ一パック全部~っ!」
「うん!いけなかったかい?」
「アオダイショウか、あんたはっ!」
「年よりだってたまにゃ精つけたいわな~」
このやりとり、まさに3人漫才のノリです。
この3人に加えて準レギュラーは、下手くそな剣道に熱中する近所の中年男性・中村さん。
向かいの浪人生・岩田は、尚子の股を見てコーフンしています。
なぜか、恥ずかしいシーンを目撃してしまうご近所の牧村さん。
山田酒店は、梅に、ビールの中身の詰替えを疑われたり、子供の頃犬に局部を噛まれたことから「片玉」などと罵られています。
まさにシチュエーションコメディーですね。
ウナギを巡って一騒動
実際のストーリーからご紹介しましょう。
全13話が収録されています。
その1『うなぎ』から。
62歳の誕生日に、好物のうなぎを食べさせてもらえなかった母・梅は、あてつけに自分の部屋にこもって、うなぎの絵を描きまくっているところから始まります。
「別に悪気があって、お義母さんの誕生日を忘れたわけじゃありませんのよ」
「ホラ、お母さんの好きな川越のいちのやのウナギです」と夫。
夫は、母親にデスマス調で話すんですね。
「食い物なんてね。あーっ食べたいなーっと思ったとき食べてこそ、初めて美味いんだ。ふんっそれをなんだい、今頃になって」
ああ、こういうゴネ方、私も経験ありますね(笑)
あるあるです。
いや、ゴネているというか、ほんとにそう。
なんでも「旬」てあるんですよね。
とくに、がっかりさせられた後、いかにも「埋め合わせ」的に言われても、「今更なんだい、バカにするな」って思いますよね。
「わたしゃね。わたしゃ、一生、この部屋でウナギの絵を描いて暮らすんだ。えー、ご飯も食べず、ウンコもせず、ウナギの絵だけを描いてね。あー、出てきたくないね」
このセリフも笑いますね。
セリフがいきいきしているから、バカバカしいけどありがちに感じます。
思いっきり駄々をこねている。
もちのろん、「ご飯も食べず、ウンコもせず」なんて、そんなことできっこないんですが、だからいい。
ここで、真剣に洒落にならない怨みツラミを言うと、橋田壽賀子ドラマになって毒が残るので、こういうバカバカしいことを言っている方がいいと、この姑はわかっているわけです。
一方、これを聞いた息子が一応ブチ切れの対応をシます。
部屋のふすまに板を打ち付け、セメントを塗りたくります。
どこから板とセメントを持ってきた? というツッコミは不要です。
ここはナンセンス漫画ですから、そのくらいの気持ちで徹底的にやっていると、おおらかな気持ちで読みましょう(笑)
というか、漫画だからこそ、そのぐらいのナンセンスはあってもいいですよね。
「わたしを塗り込めるつもりかい」
「死ねば死臭がするし、ウジもわく。そんなもの、嗅ぎたくも見たくもありませんからね」
おっ、まだ丁寧言葉ですね。
「冗談はおよしよ、誠~っ。文句言わずにウナギでもなんでも食べるからさーっ」
「二度と、わがままはいいませんね」
「言いませーん。言いませんから堪忍して下さい~」
ここまで読んで、これがこの家のストレス解消のゲームなんだな、と気づきました。
これをすることで、お互いスッキリするのです。
姑は、結構本気で迫られてドキドキする。
息子夫婦は、追い詰めたことで日頃のうっぷんを晴らす。
お互いさっぱりしたところで、3人はうなぎを食べるのですが……
「尚子さん、もっとタレをかけとくれよ。どうして、そう私のだけケチケチすんのかねえ」と、姑は早速わがまま文句タラタラ、というオチになっています。
……って、ここで終わるのかと思いきや、ストーリーはまだ続いています(笑)
日常を描いているので、起承転結ではなく、各話結構ダラダラ話が続きます。
続きは、本書をご覧ください。
以上、夫婦漫才(「ごめん下さい」改題、山上たつひこ、フリースタイル)は、若夫婦と老けた姑の掛け合い漫才的日常生活を描いた漫画、でした。