川口祖父母殺害事件を題材にした映画『MOTHER マザー』について解説されているのは『映画になった恐怖の実話』(鉄人社)です。少年が、母親に求められて自分の祖父母に手をかけたものの、母親は「息子が勝手にやった」と供述した事件です。
川口祖父母殺害事件をご存知ですか。
川口高齢夫婦殺害事件ともいわれています。
より具体的には、『少年による川口祖父母殺害事件』『少年による川口高齢夫婦殺害事件』といわれています。
少年が、母親に求められて自分の祖父母に手をかけたものの、母親は「息子が勝手にやった」と供述した事件です。
2020年に公開された『MOTHER マザー』は、その事件を題材に制作されました。
映画『MOTHER マザー』について解説されているのは、『映画になった恐怖の実話』(鉄人社)です。
鉄人ノンフィクション編集部の著作です。
ここでは、Kindle版をご紹介します。
2022年10月16日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
本書はタイトル通り、実在の事件を題材にした映画を、事件と重ねながら解説しています。
全54タイトルについて解説されています。
多くは洋画ですが、邦画のひとつとして『MOTHER マザー』が解説されています。
監督は大森立嗣、主演は長澤まさみです。
本書によれば、「実際の事件が映画より何倍も悲惨だったことがよくわかる」そうですが、それらも含めて解説されていますから、映画レビューであり、かつ事件解説にもなっている書籍といっていいでしょう。
実の息子に金の無心をさせるだけでは足りずに……
川口高齢夫婦殺害事件(川口祖父母殺害事件)は、2014年3月29日に埼玉県川口市で夫婦が殺害された事件です。
そして、『MOTHER マザー』は2020年公開の映画です。
男たちと行きずりの関係をもち、その場しのぎで生きてきたシングルマザー(長澤まさみ)が、息子(奥平大兼、幼少期:郡司翔)を毒親然として精神的に支配。
実の息子に、金銭強奪目的で祖父母を殺害させ、さらに逮捕されると全部息子のせいにして逃げ切ろうとした壮絶な事件です。
映画自体が壮絶ですが、先程書いたように「実際の事件が映画より何倍も悲惨」というのですから、なんとも救いようのない事件です。
長澤まさみ主演
“MOTHER マザー”
2014年に実際に起きた、
17歳の少年による、
“埼玉・川口祖父母殺害事件”が題材。被疑者であるこの少年の背景が
あまりにもむごすぎる。少年は懲役15年 服役中
母親は4年 出所済少年は母親を恨んでないという。
この本は全ての人に読んでほしい。 pic.twitter.com/usWjAx3bwq
— ? ?????????????????? ???? ?コレリス??????? (@delta9kid15) November 15, 2020
映画では、母親の名は三隅秋子(長澤まさみ)。
パチンコなど浪費癖があり、息子周平(奥平大兼、幼少期:郡司翔)と借金の依頼で実家を訪ねても、毎度毎度のことで浪費癖をなじられます。
リアルでは、母親は1972年、埼玉県川口市生まれ。
父親は金属加工工場勤務、母親はパート、母の連れ子である3歳上の姉がいました。
定時制高校に入った秋子は、まもなく中退。
スナックやキャバクラでアルバイトをしながら遊び歩き、異性や金銭関係で頻繁にトラブルを起こすようになります。
一応、ディスコで知り合った男性と結婚しますが、2006年に周平が小学校4年のときに離婚。
ここで父親が息子を引き取っていれば、後の悲劇も起きなかった可能性は高かったのに、「ママはずっと一緒にいてあげられるけど、パパはいずれ他の女性と再婚するかもしれない」などという秋子の言葉を信じ、周平は母を選ぶことになります。
ただ、私が思うに、母親がそう言わなくても、息子は母親を選んだんじゃないかな。
結局、子供って母親なんですよね。
どんな母親でも母親は母親。悲しいですね。
秋子は、すでに離婚の2年前、周平が小学校2年後半ぐらいからホストクラブにハマり出していました。
そして、浪費だけで仕事も家事もしなくなっていたのです。
そんな秋子は離婚後、以前勤務していた店の常連客だった中年男性が住む、さいたま市のアパートに息子と一緒に転がり込みます。
もちろん、生活費の全てはその人に依存。
周平は、秋子がホスト遊びを始めた頃から学校を休みがちだったが、両親の離婚を機に完全に不登校に。
小学校低学年から「学校を休みがち」で、周囲が何もできなかったというのは、ちょっと首を傾げます。
いずれにしても、周平はTVゲームに明け暮れる日々を送るようになります。
離婚後は、映画や本書をご覧いだたければわかりますが、とにかく壮絶です。
たとえば、その後秋子はホストクラブのホスト・遼(阿部サダヲ)と再婚しますが、遼が周平に自分の陰部のお伽を強要。
周平は秋子のためにそれを受け入れます。
日雇いで食いつないでいた遼の収入がなくなると、周平に親族宅を回らせ金を無心させるなんて当然のこと。
本書によれば、最も同情的だった親戚のおばさんが、周平に同情して400~500万円を融資したそうです。
しかし、他者(自分以外という意味で周平も「他者」)を通して他者から融通してもらったお金にありがたみはなく、いや、かりにあっても享楽的に使っていたでしょう。
「それでも金がなくなると、彼らはモーテルの敷地内にテントを張り生活する」という図々しさ。
さらに3人は名古屋に移転して、遼の働くホストクラブで寝泊まりした後、さいたま市のアパートに戻り、住人の男性客がいないことを良いことにその部屋で暮らし始めるという展開は全く理解に苦しみます。
もちろん遼も秋子ともに仕事をせず、周平のゲーム機を売ったり、周平に親族から金を借りさせるなどして生活費を工面。
それも尽きると件の男性客を騙して数十万の金を奪うなど、もうめちゃくちゃです。
その後の絵描き方は、リアルと映画では若干違いますが、まあとにかく行き詰まってしまい、2014年3月、 秋子と周平の間でこんな会話が交わされたといいます。
秋子「ばあちゃんたち殺しで もすれば (金が)手に入るよね」
周平「そうだね(冗談だと思って笑う)」
秋子「本当にできるの?」
周平「(やる気なさげに)ああ」
秋子「やる気がないなら言わないで。見た目だけの話、好きじゃな いの知ってるでしょ。結局、できるの?」
周平「やろうと思えば、できるんじゃない?」
冗談から本気モードにさせられた感じです。
そして、手を下してしまう。
逮捕後は一転して、「息子が勝手にやった」と秋子は言い出すわけです。
実際に下った判決は秋子に懲役4年6月、周平に懲役2年。
周平は弁護士の薦めで最高裁まで争い、2016年6月8日、上告 は棄却され一審判決のまま刑が確定しました。
自因自果では説明がつかない悲惨な事件
これまでいろいろな事件をご紹介してきましたが、そのほとんどは「ほしのもと」に怪しさを感じました。
つまり、恵まれない「毒親」や「貧困」や「障碍」などが、本人の人格形成に負の影響を与え、それが取り返しのつかない事件につながっている、というパターンです。
ただ、北九州監禁殺人事件だけは、主犯がサイコパスであることが指摘されています。
本書では、「実家は決して裕福ではなかったが、親からの愛情も普通に受け育っており、彼女が素行不良になった要因は本人の性格によるところが大きかったと思われる」と、そのタイプであったことを示唆しています。
しかし、母親が再婚で姉は連れ子ですから、そこに微妙な家族間の思いに齟齬がなかったとはいいきれないので、私は簡単にそのような結論は出せないと思います。
ただまあ、いずれにしてもメチャクチャな母親ですから、こんな親のもとに生まれた少年は、まさに人生が罰ゲームです。
どこにも書かれていない個人的な感想ですが、こういうケースを見ると、あらためて宗教というのはなんて無力なんだろうと思います。
神に感謝することしか許されない諸宗教はもちろん、悟りを求める仏教でも同じことです。
仏教は、親に翻弄された事実があっても、毒親を総括して考察するということはありえません。
なぜなら、自因自果の世界観であり、親といえども他因自果は許されないのと、「布施」の概念に「親孝行」はあっても、「次世代のための毒親棚卸し」は認められていないからです。
つまり、周平は秋子を批判してはならないのです。
そんな馬鹿な話ないよね。
親の毒を知り、それを自分の代で食い止め、子孫に毒を「相続」しないためには、毒親の総括と批判は必要であるし、そもそもその人が毒親かどうかは実子だからこそわかることなのに、それをさせないのです。
「毒親だったら、批判しなくても親を否定すれば済む話でしょう。やっぱり否定しない少年が悪い」
……という単純な問題ではないんです。
毒親に育てられればわかりますが、毒親だからこそ、何気ない家族の団欒のひとときが忘れられなくて、子は親にこだわってしまう。
毒親だからこそ、親を諦められないというパラドックスが存在するのです。
秋子に対する周平もそうだったのだと思います。
親で苦労すればわかりますよ。
さすれば、こういう境遇「子」は、どうすればいいんでしょうね。
みなさんは、どう思われますか。
以上、川口祖父母殺害事件を題材にした映画『MOTHER マザー』について解説されているのは『映画になった恐怖の実話』(鉄人社)です。でした。