後妻業事件(関西青酸連続死事件)を描いた『結婚相談所の妖女~青酸カリ連続男性不審死事件~』
後妻業事件とも呼ばれる関西青酸連続死事件を描いたのは、『結婚相談所の妖女~青酸カリ連続男性不審死事件~』(桐野さおり著、ユサブル)。ザ・女の事件【合冊版】Vol.3-2 (スキャンダラス・レディース・シリーズ)に収載されています。
後妻業という言葉はご存知ですか。
財産目当てで高齢男性と入籍、あるいは内縁関係になったあと、遺産を根こそぎ狙うやり方を後妻業と呼びます。
高齢者の遺産を狙った犯罪を題材とする、黒川博行さんの推理小説がきっかけといっていいでしょう。
そのタイトル名をつけられた事件が、関西青酸連続死事件。
どんな事件か想像がつきますが、それを漫画化したのは、桐野さおりさん作画の『結婚相談所の妖女~青酸カリ連続男性不審死事件~』(ユサブル)です。
この記事では、Kindle版をご紹介します。
関西青酸連続死事件は、2007年(平成19年)~2013年(平成25年)、京都府・大阪府・兵庫県など関西圏3府県で、高齢男性3人が青酸化合物によって殺害され、1人が青酸中毒になった事件です。
2012~13年に、夫(当時75)と、70代の交際相手の男性2人に遺産目当てで青酸化合物入りカプセルを飲ませて殺害。
2007年には、借金返済を免れるため知人男性にカプセルを飲ませて殺そうとしたとして、3件の殺人罪と1件の強盗殺人未遂罪に問われたのです。
本書は、単冊とともに、ザ・女の事件【合冊版】Vol.3-2 (スキャンダラス・レディース・シリーズ)にも収載されています。
収録作品をご紹介します。
ザ・女の事件【合冊版】Vol.3-2~特集/カネと男に狂った果てに
- 「結婚相談所の妖女~青酸カリ連続男性不審死事件~」桐野さおり
- 「同棲相手を高級外車で轢き殺した女」小牧成
- 「孫3人を死なせた祖母!~歪んだ母息子関係が生んだ大罪~」神崎順子
- 「夫と息子を海に沈めた女~男と金に溺れた果てに~」かわしま梨花
- 「49歳更年期OL色欲不倫殺人事件」かわしま梨花
『本書収録の作品は、すべて実際にあった事件を元に構成したフィクションです』と断り書きがあります。
例によって、単冊は220円ですが、本作を収載した合冊の『ザ・女の事件【合冊版】Vol.3-2』は、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
ただ貧乏が悪かった……のか?
本作『結婚相談所の妖女~青酸カリ連続男性不審死事件~』は、犯人である女K(2021年に死刑が確定)の生い立ちから始まっています。
本作における女の名前は千恵子。
非嫡出子で生まれたため、生後すぐ養女に出されたことから始まっています。
一流の難関校の上位成績だったにも関わらず、両親に大学受験を反対され断念したこと。
「…高校までは出してやったんだから悪く思うなよ」
「就職して家に少しお金を入れておくれ」
両親を恨みはしなかった
ただ貧乏が悪かった。
またしても、犯罪の背景に「不幸なほしのもと」あり、でした。
千恵子は25歳の時、交際6ヶ月で結婚。
早く家庭を持ちたかったのと、家と故郷を捨てたかったから、と描かれています。
不幸なほしのもとの人は、往々にして早く結婚しますが、だいたい同じ理由ですね。
むしろ、25歳というのは、そういう境遇と理由では遅いぐらいです。
それはともかくとして、結婚生活事態は幸せだったようです。
印刷会社を営む夫との間に、二人の子供を授かりました。(リアルではTシャツのプリント加工会社)
しかし、それも長くは続きませんでした。
夫が、クモ膜下出血で急逝してしまったのです。
これもねえ、よくある話です。
不幸な境遇の人が結婚しても、まもなくしてまた新たな不幸が襲い結婚生活を台無しにします。
社長が亡くなると冷たいもので、取引先が次々手を引きます。
保険金を借金返済に充てて会社をたたみ、千恵子は掃除婦に。
そこでばったり、昔の同級生・望月博美と再会します。
その同級生もあまり幸せではなかったようで、前夫のDVに苦しんだものの、再婚して落ち着いたとか。
千恵子は再婚を勧められますが、「50もとうに過ぎているのよ? こんなオバちゃんなんか誰も相手にしてくれへんわ。だいいち私は出会い機会がないもの」
博美は、自分が結婚相談所の紹介で現夫と知り合ったことを告白します。
リアルでは、1998年(平成10年)ごろにKが結婚相談所に登録したそうです。
6人目に知り合った68歳の男性と深い仲に。
家も立派で、千恵子の借金も肩代わりしてくれるというのです。
ところが、そんなにいい話は裏があるもの。
再婚相手は暴力を振るう人でした。
千恵子は最初は、「お灸をすえるつもりで」なにやら薬を飲ませます。
これが、その後のツールになった「健康食品のカプセルに入れた青酸化合物」かどうかは明らかではなく、本作でも薬品名は描かれていません。
千恵子は、それを飲ませて夫の具合が悪くなったら、看病すれば感謝の気持も湧くだろう、ぐらいの動機でしたが、案に相違して夫は脳梗塞で亡くなってしまいます。
夫は高齢だったので、このときの死亡は偶然かもしれません。
千恵子は、また社長業をついで、倒産⇒借金してはかなわないと、今度は早々に会社を手放し1億円の相続をします。
当初は、その金を株にでも投資しようかと思っていましたが、「それよりもっと、いい仕事があるやないか」と考えます。
そこからは、後妻業の「起業」です。
結婚相談所に登録し、年配の男性と結婚したり内縁関係になったりしてから「健康食品のカプセルに入れた青酸化合物」を飲ませて遺産を手にする「仕事」を始めます。
結果的に、冒頭に記したように、京都府・大阪府・兵庫県など関西圏3府県で2012~13年に、夫(当時75)と、70代の交際相手の男性2人に遺産目当てで青酸化合物入りカプセルを飲ませて殺害。
2007年には、借金返済を免れるため知人男性にカプセルを飲ませて殺そうとしたとして、3件の殺人罪と1件の強盗殺人未遂罪に問われたのです。
「獄中面会物語」と併読でいっそう理解が深まる
後妻業事件については以前、マンガ「獄中面会物語」(塚原洋一作画、片岡健原作、笠倉出版社)をご紹介しています。
原作者の片岡健さんが、実際に犯人の筧千佐子死刑囚と面会したことを描いています。
片岡健さんは、筧千佐子死刑囚との手紙のやり取りでは、「いい人」そうな印象を受けます。
「千佐子の疑惑を知っている私ですらそう感じるのだ。何も知らずに千佐子と交際や結婚をしたのち不審死した高齢の男性たちも、間違いなく千佐子に最初から好感を抱いただろう」
本作では、くたびれてタレ気味の乳房をぷるんとさせて「どうや、ええやろ?」と彼女が差し出し、「あ…ああ、ええわ」と、それを懸命に吸う高齢の相手の描き方が、別にエロ漫画ではないのですが、妙に艶めかしくリアリティを感じました。
若くもなく、グラマラスでなくても、です。
……驚いた。68歳の男と58歳の女が……肌がしっくり馴染んでいたことに
というくだりは、自分も独身の68歳だったら、そうなってしまうかもと思いました。
こういってはアレですが、たとえば首都圏連続不審死事件の木島早苗死刑囚などは、どれだけ事件関連の読み物を読み漁っても、夢中になる人の気持ちは申し訳ありませんが全く理解できませんでした。
ただまあ、片岡健さんの書籍にもあるように、「養女」と「進学できなかった」ことが、彼女の人格を深く傷つけたことは確かなのでしょう。
両書を合わせて読むことで、事件についての理解がいっそう深まることと思います。
以上、後妻業事件とも呼ばれる関西青酸連続死事件を描いたのは、『結婚相談所の妖女~青酸カリ連続男性不審死事件~』(桐野さおり著、ユサブル)、でした。
ザ・女の事件 結婚相談所の妖女~青酸カリ連続男性不審死事件~/ザ・女の事件Vol.3 (スキャンダラス・レディース・シリーズ) – 桐野 さおり
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