愛しのボッチャー(河口仁、グループ・ゼロ)は、人気プロレスラーだったアブドーラ・ザ・ブッチャーをモデルとしたギャグ漫画です。昭和プロレスを思い出す懐かしい作品ですが、マンガ図書館Zで全巻無料で見ることができるので今回ご紹介します。
昭和プロレスを盛り上げた立役者
愛しのボッチャー(河口仁、グループ・ゼロ)は、タイトルでわかりますが、主に昭和プロレスで人気があったプロレスラー、アブドーラ・ザ・ブッチャーをモデルとした全127話のギャグ漫画です。
当時、プロレス漫画というと、『タイガーマスク』や『ジャイアント台風』など、虚実ないまぜ、つまり、個々のエピソードには脚色があっても、主たる登場人物は実在するという、半ドキュメンタリー劇画でした。
その意味で、パロディーのギャグ漫画にまとめたのは、異色の作品ともいえます。
実在のアブドーザ・ブッチャー(1941年1月11日ー)は、2019年2月19日、『ジャイアント馬場没20年追善興行~王者の魂~』(両国国技館)において、現役引退セレモニーを行いました。
当日の様子は、NHK『ニュースウオッチ9』で特集が組まれた他、翌日の一般紙でも報道されるほどニュースバリューがある存在なのです。
初来日は、1970年の日本プロレスの8月興行『サマーシリーズ』。
「本場」アメリカではまだ実績がありませんでしたから、それほど期待されておらず、タイトルマッチも組まれていませんでした。
ところが、ステテコをはいた空手のスタイルで、一撃必殺のスタイルが日本のマットではウケ、いきなり初戦でジャイアント馬場からフォール。
シリーズの最終戦では、別のレスラーが対戦相手に予定されていた、インターナショナル選手権(チャンピオン、ジャイアント馬場)の相手に抜擢されます。
翌年、日本プロレス年1回のイベント、第13回ワールド大リーグ戦に参加すると、決勝戦まで進出。
ジャイアント馬場と優勝を争い、エース外国人レスラーとしての地位を確かなものにしました。
とくに、この頃からは明らかに流血をいとわないファイトスタイルでした。
ジャイアント馬場が、日本プロレスを退団して全日本プロレスを旗揚げすると、ただちに参加。
以後、ジャイアント馬場はもちろん、ザ・デストロイヤー、ジャンボ鶴田、ミル・マスカラス、テリー・ファンク、ドリー・ファンク・ジュニア、ハーリー・レイス、大木金太郎、ビル・ロビンソンら、全日本プロレスのマットに上がる主力レスラーとことごとく抗争を繰り広げ、興行に貢献しました。
特徴的であるのは、これまでの悪役とは違い、親しまれる悪役として、テレビCMにまで登場したことがあります。
それまでは、ザ・デストロイヤーが『うわさのチャンネル』というバラエティ番組のレギュラーになったことはありますが、そのときは、日本陣営に参加していたので悪役ではありませんでした。
毎試合、決まって流血し、相手に攻められると悲鳴を上げ、そのまま負けてしまうのかと思いきや、たった一発の地獄突きで形勢逆転。
そして毒針エルボードロップで勝利を収める展開は、プロレス的には様式美といってもいい定番パターンでした。
ジャイアント馬場との戦いでは、ジャイアント馬場が空手チョップを何発か繰り出してブッチャーが流血。
その何発目かで反撃すると、シュッシュッと空手のポーズ。
すると、ジャイアント馬場も、ウルトラセブンのようなポーズで対抗するのです。
流血はするものの、ショーマンシップのあるどこかユーモラスな試合展開が、人気につながったのでしょう。
ちょうどその頃、発表されたのが本作『愛しのボッチャー』なのです。
ギャグ漫画でもモデルを熟知した虚実ないまぜ
ボッチャーには、バニーガールの格好をした女性のマネージャーがついています。
そして、時にはボケたり、時には突っ込んだりしています。
ここだけは、実在するアブドーラ・ザ・ブッチャーとは違います。
ギャグ漫画として、華を添えたのでしょう。
ボッチャーは、試合で流血し観客を沸かせることを売り物にしているので、試合になったらすぐに切れるよう、でも試合前には絶対に切れないよう、微妙な傷口状態を保てるように神経質になっています。
ところが、ハエが額に止まったので、一瞬それを忘れて額を叩き、額が切れそうになって慌てます。
額が切れないよう、叩いたハエが額にくっついたまま、花道を恐る恐る歩きますが、観客から「ひたいにぶっつぶれたハエくっつけてやがんの!!」と、ハエがついていることをバカにされます。
そして、リングに上ったときに、かさぶたが剥がれてしまい、いよいよ流血寸前に。
ところが、対戦相手のジャイアント葉場は、なかなか額を攻撃しないので、「足をやられて頭から流血したら……絵になんないんだよ」とボッチャーは困っています。
ここは、笑いのシーンではありますが、「でもありそうな話かも」と思わせるリアリティがあります。
実況役で、全日本プロレス中継の倉持隆夫アナ、解説の山田隆さんと思しき人も登場します。
別の話では、葉巻がテーマです。
ボッチャーは葉巻を吸うのですが、葉巻を切らしたときに、マネージヤーはジャイアント葉場から1本もらってきます。
しかし、マスコミが取材に来ていたため、ジャイアント葉場からもらった葉巻を吸うわけにいかず、イライラしたままリングに上がります。
一方、ジャイアント葉場は、格好をつけて1本あげたものの、自分はその1本しか持っていなかったので試合前に吸うことができず、こちらもイライラしたままリングに上がったというストーリーがあります。
ジャイアント馬場も、アブドーラ・ザ・ブッチャーも葉巻愛好家です。
来日するたびに、葉巻を交換していたという話もあるほどです。
要するに、ギャグ漫画ではあるのですが、作者はかなり「リアル」を熟知しており、たんにキャラクターを拝借して絵空事のナンセンスを描いているわけではないのです。
ただ、ファンならではのファンタジーと思えるところも。
対戦相手は、ジャイアント葉場のほか、明らかにアントニオ猪木がモデルのアントニオ猪林、やはりテリー・ファンクがモデルとしか思えないラリーファンク、同様にアンドド・ザ・ジャイアント、ほほえみカラス、デストボイヤー、BNチャンピオンの鶴亀、それらの試合を裁くスキンヘッドはジョー樋口レフェリーがモデルのようです。
要するに、作者はそのレスラーたちが、みんな一つのリングで戦ってほしい、と思っているわけですね。
いずれにしても、梶原一騎先生とは、別の意味での虚実ないまぜの面白さがあります。
令和になり、プロレスもだいぶ変わってしまいましたが、昭和プロレスを思い出しながら、ボッチャーの虚実を楽しんではいかがでしょうか。
本作は、マンガ図書館Zで全巻無料で見ることができます。
河口仁 『愛しのボッチャー 1』 #マンガ図書館Z https://t.co/3ZIuWK7qiQ
— 石川良直 (@I_yoshinao) April 22, 2022
マンガ図書館Zの閲覧書籍は、ずっと同じではなく入れ替わることがあります。
ですから、本作も読めるうちに読まれることをお勧めします。
以上、愛しのボッチャー(河口仁、グループ・ゼロ)は、人気プロレスラーだったアブドーラ・ザ・ブッチャーをモデルとしたギャグ漫画、でした。