『慟哭!!秋田連続2児童殺害~鈴香事件~』(画:桐野さおり/原作:有田万里、ユサブル)は2006年に起こった2児童殺害事件の漫画化です。女子児童と男子児童が立て続けに遺体で発見され、それが女子児童の母親の犯行だった事件です。マスコミで話題になりました。
秋田連続2児童殺害事件とはなんだ
秋田連続2児童殺害事件とは、2006年に秋田県山本郡藤里町で2人の児童が殺害された事件です。
女子児童と男子児童が立て続けに遺体で発見され、それが女子児童の母親・畠山鈴香の犯行だった事件です。
女子児童が亡くなったとき、警察は「事故死」と判断しましたが、母親本人は、誰かに殺されたと主張してマスコミにも取り上げられました。
マスコミが、女子児童の母親を犯人と疑いはじめ興味本位で報じたものの、沙汰止みになると、自宅から2軒隣に住む男児まで殺害して、死体を河岸に遺棄したものです。
あらすじ
2006年4月10日、小学校4年生の女子児童が川で水死体となって発見。
さらに5月18日、女子児童の2軒隣りの男子児童が遺体で発見されました。
警察は初動を誤り、1件目の事件を事故と断定。
しかし、2件目の事件が発生したことで再捜査を始め、女子児童の母親を逮捕し、2件とも母親の犯行であることが明らかになりました。
当初は事故死とされて終わるはずだったのに異を唱えたのは、ほかでもない犯人の母親自身でした。
「娘は事故死ではなく殺害された」と主張。
能代署に直談判に行ったり、駅前などで犯人探しのビラを配ったり、娘が生きているときは滅多に顔を出さなかったのに、小学校の運動会に娘の遺影を持って参加したりしました。
わざわざ、自分に捜査が及ぶ道を作ったのは、事件にすることで犯罪被害者等給付金を得たかったからだと言われていますが、一方では本当にそう信じ込む母親としての姿でもあるとみる向きもあります。
さらに、近所で彼女を何かと気にかけてくれた夫妻の男児までも殺害。
そこから、事件現場の東北の静かな町はテレビカメラが入り、連日ワイドショーが報じました。
被害者であったはずの彼女は、彼女の「人となり」を怪しんだマスコミから連日好奇の目に晒され、「悲劇の被害者」として扱われないことに不服の態度を示しました。
しかし、彼女は自分にアリバイがなかったり、警察から長時間の事情聴取をされていたことを明かしたりなど、報じられるほどに「自爆」を繰り返しました。
本書では、女子児童の母親が幼少時に家庭内暴力で父親から虐待され、食育がなされなかったことから偏食で、かつ身なりや入浴なども構ってもらえず、学校ではそれらを口実にした壮絶ないじめられっ子であったことが描かれています。
一方で、キレやすく、不遇な身の上から「バレなければいい」という処世術を身につけ、それが後の事件を起こすことにも影響を与えたと書かれています。
彼女は高校を出ると町を出ますが、2年後に結婚して帰って来たときには、見違えるほど派手になっていた……と彼女を知る地元の人々は感じました。
しかし、まもなくして離婚。
コミュニケーションが上手にとれず、勤勉でもなかった彼女は、自己破産と生活保護を申請して、生活の手段として身を売るようになりました。
男児殺害は、事件を起こすことで、娘が「事件の被害者」として見てもらえるのではないかと考えたと供述。
本書では、円満な家庭を見て、「完璧な家族の歯車をひとつ外したって何がいけない?」という気持ちが働いたと見ています。
本書は、無料で読むことができます。
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関心のある方はいかがでしょうか。
自己愛が子どもにすら手をかける
私はこの事件について、自分で捜査や取材を行ったわけではありませんが、検証するテレビ番組で、被疑者との面会や現場検証などを行った元刑事の「捜査メモ」をもとに、事件の書籍を制作したことがあります。
結論から述べると、女子児童の母親は自己愛の強いタイプの人間であり、そこに不遇な環境や様々な成り行きが重なり、2人の子どもに手をかける事態に陥ってしまったと思いました。
「自己愛」というのは、自分はもっと社会に評価されるべきだという思いが、不平不満の大前提になっているということです。
たとえ、都度都度言うことが、矛盾していることであっても。
そして、その原因は、生まれや育ちなどの「ほしのもと」にあるのではないかと私は思います。
もちろん、彼女の行為の是非を議論するつもりはありませんが、なぜ、そのような人間になってしまったのか、という原因を探れば、不遇な「ほしのもと」に育ち、歪んだ自我が形成された、としか言いようがありません。
本書は、(女子児童の母親は)子どもを虐待はしていなかったが、娘だけでなくすべての人間への接し方を彼女は学んでこなかった、思い通りいかない人生に苛立ち、我が子を死に追いやり、隣人の子を道連れにしてしまった、とまとめています。
なぜ彼女は、自分の娘に対する接し方がわからなかったのか。
親が愛情がないと、その子どもが親になっても、子への愛情の注ぎ方も、そもそも子の価値すらもわからない、というのはよくある話です。
そして、それもまた「自己愛」へ向かう因子になるのです。
キレやすい性格というのは、一概には言えませんが、性格や脳障害というよりも、口より手が早い父親の影響と考えたほうが合理的に説明できると思います。
つまり、不遇な生い立ちや、いじめ経験が、彼女の人格に影響を与えたといえます。
いじめの後遺症
もうひとつ、これまでの書籍などでは誰も指摘されていないこととして私が指摘したいのが、「いじめの後遺症」です。
学校時代にいじめにあい、人格形成に悪影響を及ぼした。
ここまでは、よくある話です。
しかし、いじめの「後遺症」というのは、それだけではないのです。
女子児童の母親は、いじめられて、町が嫌になって他県に移った。
そして、2年後に見違えるほど派手になって戻ってきた……と彼女を知る地元の人は思った。
しかし、「見違えるほど派手になって」と見えたのは、派手ではない昔の彼女を地元の人たちが覚えていることを意味します。
つまり、いくら2年でかわったところで、彼女をいじめた連中は、再会してもその当時の彼女のポジションを忘れません。
彼女は、その人たちと関わり昔に引き戻され、心の底に沈殿していたものが混ぜっ返されたような気持ちになり、混乱もあったのではないかと私は思いました。
彼女に限らず、一般にクラス会・同窓会があっても、行きたがらない方々は、たぶんそれが理由の一つではないかと思います。
必ずしもいじめられっ子でなくても、クラスメートとの人間関係がうまく発展しなかった人が、「旧交を温める」ことに消極的なのは、そうでないお幸せな人にはとうてい理解できないことでしょう。
不運・不幸の積み重なりから人格が形成された
いずれにしても、彼女が犯したことに至る“因子”として、誰にでもありがちな、様々な不幸・不運がいくつも重なっていたということです。
自分のパーソナリティと我が子、親、周囲の人達との関係次第では、決して他人事ではないと思いました。
彼女のような事態まで来ることはめったに無いと思いますが、“よもや”の悲劇につながらないよう、子育て・人間関係など、改善できることは改善しておきましょう。
以上、『慟哭!!秋田連続2児童殺害~鈴香事件~』(画:桐野さおり/原作:有田万里、ユサブル)は2006年に起こった2児童殺害事件の漫画化、でした。
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