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本当のことを言ってはいけない(池田清彦著、KADOKAWA)をご紹介します。人気の生物学者が「身も蓋もない話」を書いています。

本当のことを言ってはいけない(池田清彦著、KADOKAWA)をご紹介します。人気の生物学者が「身も蓋もない話」を書いています。

本当のことを言ってはいけない(池田清彦著、KADOKAWA)をご紹介します。人気の生物学者が「身も蓋もない話」を書いています。生きとし生けるものに意味はない、教育に市場原理を持ち込む愚行、AIができることとできないこと、など興味深いテーマが満載です。

本書の著者は、高校教師、大学教授などを経て、現在は執筆活動をされている生物学者です。

現在、日本の85歳以上のうち約5割は認知症である。
学校はほぼ最悪のブラック職場になりつつある。
近い将来、エリート層は国外へ逃亡する――
ネトウヨは、「日本すごい」と馬鹿の一つ覚えみたいに騒ぐけど、本当に「すごい」のは日本の凋落速度だ! 人気の生物学者が、独自のマイノリティ視点で快刀乱麻を断つ。世間にはびこるウソと無駄を見抜くエッセイ。

という書籍です。

昨今の我が国といえば、緊縮財政、技術も国家機密もダダ漏れ、基地だけでなく上空もいまだに占領されているアメリカの属国、売国奴の「右」と昔ながらの運動しかできない「左」の不毛なポジショントーク……

政治もマスコミも国民もそんなことをしている今このときにも、日本はどんどん沈没しているという話です。

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生きる意味のない人間はAIに勝てるか


第1章は、「生きとし生けるものに意味はない」という話です。

生きる意味なんか考えるのは人間だけで、動物はそんな事考えない、といいます。

つまり、人間は「意味」で生きているわけではないから、「生産性のないものは生きている資格がない」などという、やまゆり園の犯人の言い分などは成り立たないという話です。

ただ、人間は知能が他の動物より高いから、「自分はどうして生きているのか」ということを知りたがる生き物であることも確かです。

ですから、自分の人生のあり方として、個人的に「意味」を抱くことは否定しません。

正確には、「意味」というか「価値」でしょうね。

ただし、それは他人から押し付けられたり、逆に押し付けたりするものではなく、あくまでその人自身が自分の人生の中で見つけ出す自分の心の中だけのものです。

以前も書きましたが、ある障害者が、自分でデキる仕事や自分の生き方を見つけて自律した。

それは、その人が人生の意味を見つけたという意味で素晴らしいことですが、だからといって別の障害者に対して、あんたもやればできる、しないのは怠けているから悪い、ということではありません。

第2章は、AIの話です。

AIが台頭して、人間の居場所がなくなってしまうのではないか、という人もいます。

でも、本書は、そこまで心配はしていません。

AIは、将来を予想してくれるけれど、将来は創ってくれないからです。

AIの情報処理は、「これがもっとも有利な選択である」回答を出します。

そのための既知のデータの蓄積と整理は、きちんと行います。

だから、将棋や碁は、人間は負けてしまいます。

人間が、今後とってかわられる仕事もたくさんあります。

しかし、人生をどう生きたらいいかの答えは出してくれません。出せません。

いや、正確に言うと、たとえば複数の異性の中から、誰と結婚すれば、その人にとって経済的精神的にもっとも良い生活が送れそうか、というシミュレーションは、いくらでもできます。

でも、それがその人にとって幸せとは限らないから人生とは難しい。

わざわざ、一番苦労しそうなタチの悪そうな人を選んでしまうって、人生にはあることでしょ。

体に悪いと分かっていても、酒飲むでしょ。

人間関係が壊れるかもしれなくても、我慢ならないと声を荒げることってあるでしょ。

給料は良いけど、あいつ嫌いだから一緒に働きたくない、なんて選択もありますよね。

ことほどさように、人間の複雑な価値観は、AIには理解できないのです。

微妙な感情、ヤキモチとかコンプレックスとか、幼年期のトラウマとか、そういうものの判断における影響や、感情の定量化などができないので、その人の最良の価値判断を回答することができないのです。

防衛費よりも知的イノベーションへの交付が先


教育の効率主義にも言及しています。

民主党が政権を取った時、仕分けと称して、「2位じゃだめなんですか」と言って学術予算を減らそうとした例のアレが今も話題になりますけど、本質は、順位云々というより、研究や教育を効率主義で考えたことが間違いだといいます。

「知的イノベーションはあらかじめ凡人には分からないからイノベーションなのであって、(中略)20人の研究者に対して、1億円の研究資金があるとして、1人に9000万円渡して、残りの1000万円を19人に分配するよりも、500万円ずつ均等に分配した方が、あっと驚く知的イノベーションが起こる確率は高くなるのである。」

「究極的な国力とは国民の知的能力の総体なのであるから、防衛費に5兆円注ぎ込むより、交付金に5兆円注ぎ込むほうが国力は上がる」

諸外国は国立大学が無償です。

ところが日本は、国立大学を法人化された上に、予算自体の削減と傾斜配分(研究成果や学生の就職率などの指標に基づいて、予算が配分)という「成果主義」になってしまいました。

そして、大学院になると、国立も私立も学費はそんなにかわりません。1学年でほぼ100万、理系はもっとかかるのかな。

国民の学修を国力と考えず、学歴という本人のキャリアアップ投資なんだから自己責任で金を出せ、というのが財務省の言い分なのです。

そんな馬鹿なこと言ってりゃ、優秀な研究者はみんな外国に行っちゃうよね。

昨今問題になっている奨学金も、いったん社会に出てから学業復帰した人は、やはり「キャリアアップ投資」扱いで、給付どころか貸与すらないんですよ。それが日本の教育事情です。

Copilotによると、博士課程に入った人は、全人口の約0.1%から0.3%、修士課程で全人口の約0.3%です。

人口構成はかわりますから、これからの若者が入らないと、この割合はさらに減ります(涙)

これでは、イノベーションもハチノアタマもあったものではございません。

そんな、身も蓋もない、でも面白い(興味深い)話がたくさん書かれています。

AIのところで明らかなように、なんだかんだいって、著者は未来を諦めているわけではないと思います。

だからこそ、現状の真実を知ってほしいということなのでしょう。

いかがですか。AIにも読めないような、ご自身の人生設計はたてておられますか。


本当のことを言ってはいけない (角川新書) – 池田 清彦

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