植物人間が歩いた!話した!ごはんも食べた!遷延性意識障害からの生還(みおなおみ著、市井文化社)は、社会復帰リハビリの記録です。いったん植物症(植物人間)の診断を受けながら、意識を取り戻して社会復帰に向け動き出した経緯をまとめています。
『植物人間が歩いた!話した!ごはんも食べた!遷延性意識障害からの生還-リハビリと学習の記録1』というKindleのご紹介です。
『~遷延性意識障害から転学まで~』というサブタイトルの通り、火災による受傷で、いったんは遷延性意識障害(植物症、植物人間)の診断を受けた長男が、必死のリハビリで僅かな可能性から活路を見出し、ゆっくりゆっくり社会復帰に向けて動き出した記録です。発行は市井文化社(市井のeブックレット)
著者は、みおなおみ。
私の妻です。
要するに、私の長男のリハビリ記録です。
何度か告白しましたが、忘れもしない2011年5月26日、私どもは火災を経験し、妻と2人の子が意識不明の重体で救急搬送されました。
救急隊からは、「全力は尽くしますが、むずかしいと思ってください」と言われました。
まあ、意識不明の重体の場合、8割は亡くなるらしいですからね。
その中でも、妻の状態は最悪で、心肺停止でした。
わかる?
要するに死んでるのと同じ状態です。
ただ、一応最後の措置を施して、病院で医師に死亡の診断をしてもらう、という段取りが待っているだけです。
そりゃ、「難しいと思ってください」と言われますよね。
心の準備をしとけ、ということです。
最近良く、大衆は安易に、「ずっと死んでた」とか表現することがありますが、ナメた表現です。
いったい「死ぬ」ってどういうことかわかってんのか、と言いたくなりますね。
だったら、吐き出した言葉には責任持ってほんとに死ねよ、とか思ったりして……。
それはともかくとして、心肺停止した妻は、救命救急病棟に搬送後、息を吹き返して回復に向かいました。
ところが、長男はなかなか覚醒せず、脳障害による痙攣や硬直などを繰り返して、遷延性意識障害になってしまいました。
繰り返しますが、遷延性意識障害というのは植物人間のことです。
・話せない
・自力で動けない
・何も意思表示できない
という状態です。
「障碍」ですから、風邪を引いたり、骨折したりと違い、時間が経てば治るわけではありません。
有効な治療法もありません。
ごく一部、まれに意識を取り戻して回復しますが、多くの場合、植物人間のまま治りません。
過去には、遷延性意識障害の介護についての体験記『夫が倒れた! 献身プレイが始まった』(野田敦子著、主婦の友社)もご紹介したことがあります。
以下の6項目が3か月以上続いた場合を「遷延性意識障害」といいます。
自立移動ができない
自立摂食ができない
し尿失禁がある
声を出しても意味のある発語ができない
簡単な命令にはかろうじて応じることはできるが、意思疎通はほとんどできない
眼球は動いていても認識することはできない
長男は、わずか7歳にして、これらを全部満たしてしまったのです。
そこから、どうやって、どんなリハビリをしたのか、ということがまとめられています。
本書は、KindleUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
あなただって、いつどこでなるかわからない遷延性意識障害
火災で受傷した長男は、都立広尾病院で応急措置を受けます。
その時点で、JCS300。
痛みや刺激にまったく反応しない、もっとも重篤な状態です。
都立病院で応急措置を行った後、世田谷にある子どもと妊婦のための国立病院の集中治療室(ICU)に即日転院しました。
ICUというのは、生命に危機があり、集中治療が必要な患者が入室する救急度の高い病棟です。
MRI検査の結果、一酸化炭素中毒によって、大脳基底核や脳皮質、皮質下に広範な異常信号域が認められました。
そして、不全四肢麻痺と、体幹機能障害。
さらに、煙を吸ったので、気道熱傷(器官の火傷)。
要するに、脳がめちゃめちゃに壊れ、体も動きませんよ、呼吸も器官が火傷していますよ、ということです。
火災で、頭を打ったわけではないのに、どうして脳がめちゃめちゃになるのか。
それは、一酸化炭素を吸うと、酸素の吸収を邪魔するためです。
酸素が運ばれないと、脳細胞は壊れていきます。
いったん壊れた脳細胞は、少なくとももとには戻りません。←全く再生しないわけではないらしい。
脳が壊れることで、体の各部との連携も壊れます。
だから、意識もないし、体も動かないわけです。
で、脳細胞がもとに戻らないということは、「意識もないし、体も動かない」まま、ということです。
それが、遷延性意識障害(植物症、植物人間)というものです。
一酸化炭素が、酸素の吸収を邪魔し続けることで、植物人間にとどまらず、亡くなる場合もあります。
一酸化炭素中毒は、火災で煙を吸った場合だけではありません。
水泳ぎで溺れたりとか、首を絞められて窒息したりとか、心筋梗塞などで呼吸が止まったりとか、体内に酸素が取り入れられない場合、脳卒中で脳に血液が回らなくなった場合など、いずれも脳細胞が壊れていきます。
それらは、低酸素脳症といわれます。
遷延性意識障害は、それ以外に外部からの衝撃、たとえば交通事故で頭部を強打して脳細胞が壊れてしまった場合にもなります。
つまり、今、これを読まれているあなたが、何の問題もない健康・健常の方だったとしても、いつどこで、どんな不運(怪我や病気)が原因で、遷延性意識障害(植物症、植物人間)にならないとも限らないということです。
では、遷延性意識障害になってしまったら、どうすれば回復できるのか。
現在の医学では、回復させる確かな手立てはありません。
まあ、脳細胞が壊れてしまったわけですから、原状復帰はむずかしいだろうな、と思うでしょう。
人間の脳は、可塑性がありますから、残った機能で、ある程度補うことも不可能ではありません。
ただし、それは壊れた脳の状態にもよりますし、それ相当の訓練や経験が必要であり、いずれにしても昏睡状態のままでは、どうにも手の施しようがありません。
ということで、私どもの場合、まずは、長男を昏睡から覚ますことが課題になりました。
病院でも、いろいろ措置はしてくれたのですが、全然ダメでした。
そんなときに、やはり遷延性意識障害の老親を介護されている方のブログに書かれている「あること」を、ダメもとで試したところ、長男は若干の反応を示し、それを数日繰り返したところ、徐々に人の話にも反応するようになっていきました。
これは、びっくりしました。
『奇跡体験!アンビリバボー』的に言えば、その施術は、昏睡状態から一人の男児を“生還”させたことになります。
具体的な内容については、本書をご覧ください。
その間、私が行ったことは、とにかく情報を得ることでした。
ネットで、闘病記のサイトやブログはたくさんあるのですが、多くは、がんや糖尿病などが対象でした。
もちろん、それらが重篤な病気であり、情報の共有化が求められることは全く否定するものではありませんが、私が言いたいのは、脳障害の体験記は絶対数が少ない、ということです。
そんななかで、見つけたのが、『遷延性意識障害からの回復例』というコンテンツです。
どこそこの病院で、どんな措置を施したら、どう回復して、患者はその後どうなったか、ということが一覧にまとめられていました。
私は、その中で、長男に措置できそうなケースをリストアップしました。
それは、後々、リハビリのメニューに役立ちました。
さらに、名前の出ていた医療従事者に、図々しくも大学病院のソーシャルワーカーの方につないでいただきました。
お名前を挙げさせていただくと、たとえば、看護学者(意識障害看護・ナーシングバイオメカニクス・看護事故判例研究・リハビリテーション看護) の紙屋克子先生です。
紙屋克子先生は、看護師時代に、意識障害の患者を、自力で可能な限りの動作を可能にするリハビリを行ってきたことで、遷延性意識障害の患者の家族間では有名な方です。
紙屋克子先生は、面識もなければ、受け持ち患者でもない長男のために、誠実に対応してくださいました。
数少ない、脳障害関連のブログでは、福寿草というハンドルネームで、『遷延性意識障害の妻を支えて』というブログを運営されている福田寿之さんのお世話になりました。
事故直後の私は途方に暮れており、同じような立場の人をネットで探しまわり、面識もないのにメールで相談した相手が福寿草さんだったのです。
具体的なリハビリや、相談・連絡先なども教えていただきました。
福田さんご夫妻は、普通に結婚した普通の夫婦だったのに、ある日突然明美夫人が心肺停止から遷延性意識障害になり、ブログはそこから始まった介護の日々について綴られています。
書籍では、以前ご紹介した『がんばれ朋之!18歳、植物状態からの生還265日の記録』(宮城和男著、あけび書房)が、励みになりました。
オートバイの交通事故で頭をうち、脳がびまん性軸索損傷(DAI)という大怪我をしてしまった松本朋之さんが、遷延性意識障害となってしまったものの、家族や友人の励ましや医療スタッフの懸命な治療やリハビリによって、重い高次脳機能障害を残しながらも社会復帰したことを、当時の担当医の宮城和男さん(当時王子生協病院)がまとめたものです。
まさに、私たちの求めていた「植物人間からの回復」です。
こうした医療従事者の方々のご尽力、面識もないのに善意で寄せてくださった情報やアドバイスなどで、長男には可能なリハビリを行い、遷延性意識障害から高次脳機能障害に「回復」後は、さらに一歩進んだ様々なリハビリを行うようになります。
どんなことでも諦めずにやってみること
長男の闘“傷”記は、ブログで時折公開していましたが、検索エンジン経由で、遷延性意識障害の家族を持たれている方々からは、よく相談を受けました。
ケースによっても違いますし、私は自分の体験しか語れません。もとより、医学的に「こうすれば回復する」という療法が確立しているわけではないので、確実に良い方向に進める解答はご提示できません。
ただいえることは、諦めたらそこで終わりだ、ということです。
前述のように、紙屋克子先生というのは、メディアでは有名な方ですが、接点がありません。
そういう場合は、自分から接点を作るしかないのです。
できることは何でも試みることです。
繰り返しますが、遷延性意識障害は、本人が回復する保証はまったくないんですよ。
でも、私には、何か根拠のない楽観主義のようなものが当時ありました。
たぶんそれは、「回復しなかったら今後どうするか」ではなく、「どうやったら回復するか」の方にウエイトを置いた思考と活動だったからだと思います。
長男は、いったんは生後5ヶ月程度の精神年齢に転落しています。
そこから、どのようなリハビリを行い、どんな教材でトレーニングしたか、当時行ったことを具体的にご紹介しています。
大人のリハビリ記はありますが、子どもが、乳児並みに転落してからのものは、たぶん書籍でも、ブログでもないと思います。
少なくとも、私は見たことありません。
そういう意味では、本書は多少なりとも、公益性や公表する意義があるのかな、なんて自負しています。
ご家族の方、もしよろしかったら、1度ご笑覧ください。
以上、植物人間が歩いた!話した!ごはんも食べた!遷延性意識障害からの生還(みおなおみ著、市井文化社)は、社会復帰リハビリの記録、でした。
植物人間が歩いた!話した!ごはんも食べた!遷延性意識障害からの生還-リハビリと学習の記録1: ~遷延性意識障害から転学まで~ (市井のeブックレット) – みおなおみ