極道ステーキDX(2巻分収録)全10巻(工藤かずや、土山しげる、ゴマブックス)は、御曹司財閥総帥がヤクザ社会でノシ上がる話です。財界で成功した父親の表も裏も見てきた息子が、自分は別の世界で天下を取り父親を超えると家を飛び出します。
痛快極道アクション漫画ですが、ピカレスクな展開もたくさんあります。
『極道ステーキ』DX(2巻分収録)全10巻は、工藤かずやさん原作、土山しげるさん作画で、ゴマブックスから上梓しています。
単行本の全21巻を、全10巻の合本としたKindle版が、2023年5月11日現在、KindleUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
一千億円の資産を持つとされる、関馬財閥の御曹司財閥総帥・関馬秀次は、父親の表も裏も知っています。
父親のあとを継ぐのも、父親と同じ世界で仕事をするのもやりにくいし、父親に対して反発心もあるなら、なおさら父親と同じ世界の人生にはしたくなかったのでしょう。
大学は一流大学を卒業しましたが、「実力本位」といわれるヤクザ社会に「就職」を決めました。
小さな組に出入りして組員になり、そこで大きな仕事をして、傘下の直参を持つメジャーな組の中で組を任され、さらに直系に取り立てられるも、いったんは破門に。
一門の縄張りを追い出されたところから再スタートし、また組の直系に。
そして、本家の若頭に出世した長年のライバルと雌雄を決するコトに。
極道の社会で、父親を越えるべくノシ上がる男の生き様を描いた痛快極道アクションというのが本書の触れ込みです。
ただし、どおくまんプロの『なにわ遊侠伝』のようなギャ漫画ではないので、かなりリアルであろう展開になっています。
人の命がツールになっているし、主人公ですら他の組の組長を刺殺しています。
信頼関係の深い、主人公の仲間たちも次々命を落としていきます。
私も、これまで多くのヤクザ漫画を見てきました。
たとえば、ももなり高さんが描いた、山口組の漫画は、単行本だけでなく週刊誌の連載も読んでいました。
しかし、そうした実在の組を描いた漫画以上に、本作は創作でありながら、「ヤクザは自分には絶対できないな」という気持ちを起こさせます。
暴対法ができて以来、コンビニのピカレスクロマンの書籍も姿を消してしまいました。
暴力団の情報自体をないものにしたいようですが、私はそれは反対で、そんなことをしてもアングラな情報として残るだけで、たとえばKindleでも暴力団の実話漫画は人気があるようです。
表に出ないということは、論評する人もいませんから、逆に美化されるかもしれません。
その意味で、逆に現実により近い創作を世に発表することで、いろいろな人に論評させたり、読者に考えさせたりしたほうがいいのではないでしょうか。
極道ステーキのあらすじ
極道ステーキのあらすじです。
関馬財閥の御曹司財閥総帥、名門T大学卒業の関馬秀次は、父親の会社に入ることを拒否。
カネしか信じない父親の成功には敬意を表するものの、自分は父親に跪くつもりも、財閥を引き継ぐつもりもなく、自分自身の腕手父親を超えるのだと、ツテもコネもないまま、弱小暴力団の中野会・若頭の矢崎竜三に直訴します。
そこで、いわれた仕事を成功させて組に出入りするようになり、さらに実績を上げて組長から盃を降ろされます。
しかし、これはまだ極道人生のスタートです。
縄張りで対立する組の本家である戸神組からスカウトが来ると、それを受けます。
そして、正式な盃を受ける前に組の結成を許され、そこでまた功績を残して戸神組から盃を降ろされます。
いったんは、よくばりすぎて吸収した組の組員に造反され、戸神組を破門されますが、絶縁ではないのでまだ再生できる可能性を残しました。
そこでまた頑張り、戸神組直系に取り立てられます。
成り上がる力強い話ではあるのですが、冒頭に書いたように、暴力的な描写や登場人物の死が多く、読んでいても気が休まりません。
暴力団を任侠のみで美化するよりは、ある意味リアリティがあるのかもしれませんが、そこが好みが分かれるかもしれません。
読後の2つの謎
全10巻読みましたが、2つのナゾが残りました。
ひとつは、なぜ『極道ステーキ』というタイトルなのか、ということ。
いくら読んでも、「ステーキ」と結びつくエピソードも設定もありません。
「極道素敵」とかけているのかもしれませんが、そうだとしても、というよりだからこそ、ステーキが小道具に使われないと意味がありません。
ステーキを食べて力をつける、ように生きる力が湧いてくる漫画、ということかな。
主人公がどんどんのし上がっていくストーリーなので、それはあるかもしれませんね。
ただ、極道漫画ですから、主人公までが刺殺事件を起こすほど、ストーリーはえげつない。
ですから、主人公ののし上がりに説得力はあっても、「よし、自分も頑張ろう」と読者が思うかどうか。
もうひとつは、結末がわかりません。
関馬秀次の組は、長年のライバルであった片桐と直接対決をするところで物語は終わっています。
対決の結果がどうなったかは描かれていません。
まあ、組としての大きさを見ると、片桐優勢ですが、半グレにやられたときに秀次が片桐を助けたシーンがあるので、もしかしたらそれが結末の伏線になっていて、関馬秀次が勝つのかもしれません。
ただ、関馬秀次の最大の宿敵であった父親が亡くなっているので、関馬秀次も「のし上がる」意欲に、わずかな陰りが見えたかもしれません。
つまり、父親の死が、関馬秀次の伏線になっているのかもしれません。
要するに、どちらに転んでもおかしくないストーリーになっています。
でも、かりに関馬秀次が勝ったとしても、組を立ち上げた頃の仲間はみんないなくなっているんです。
成り行きとして勝ちを目指すとしても、勝ったときに、自分の人生はいったいなんだったのか、と思うかもしれませんね。
実在の人物では、東興業の安藤昇さんが、仲間の死をきっかけに組を解散しました。
安藤組の場合、分類上はヤクザではなく半グレとか言っている人もいますが、そういう議論はここでは結構です。
親分のために、命をかける子分がいるというのはこの世界では当たり前のことですが、実際に子分を亡くしたとき、親分はどう思うのか。
関馬秀次にそのへんも語ってほしかったので、ストーリーがいちばん大事なところで終わってしまうのは残念でした。
続編も作られる予定だったのにリリースされなかったそうですね。
惜しまれます。
以前もご紹介しましたが、土山しげるさんの作品はKindleUnlimitedの読み放題リストにたくさん公開されています。
『食キング』(日本文芸社)は、「B級グルメ店復活請負人」の主人公が、傾いた庶民向け飲食店を再建するストーリーです。
私は土山しげるさんというと、まず『食キング』が思い浮かびます。
『漫画版野武士のグルメ カラー版1st01』(久住昌之/原作、幻冬舎)は、定年を迎えた還暦男性がありふれた食堂を巡るストーリーです。
『男麺』(ゴマブックス)は、商社に勤める無類の麺好き主人公が、立ち食いそばや町中華の焼きそばなどで騒動を解決する話です。
『喰王スペシャル』(日本文芸社)は、食べることが好きなキャバクラ店長が、食べ物で問題を解決する日常を描く漫画です。
『シャケ』 (原作/津流木詞朗、ナンバーナイン) は、肩を壊したドラ1投手とブルペン捕手が球界の事件を解決します。
『どぶ』(日本文芸社)は、会社を謀議でリストラされた主人公が、風俗業界で失敗しながらものし上がる話です。
『蛮王(バンキング)』(漫画/土山しげる、原作/平井りゅうじ、ゴマブックス)は、家族を奪われた銀行員の復讐を描く社会派漫画です。
『邪道』(日本文芸社)は、人生を双六にたとえて、ラーメン業界から政界に進出を試みる青年の野望を描いた漫画です。
本作は、上掲の作品群では『邪道』に似ているかもしれませんね。
以上、極道ステーキDX(2巻分収録)全10巻(工藤かずや、土山しげる、ゴマブックス)は、御曹司財閥総帥がヤクザ社会でノシ上がる話、でした。