海猫亭へようこそデラックス版1~5(剣名舞/原作、村尾忠義/画、ナンバーナイン)は、海猫島のレストランを舞台にした料理漫画です。全10巻の単行本を2巻ずつ合本した全5巻が、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
『海猫亭へようこそデラックス版1~5』は、剣名舞さんの原作、村尾忠義さんの作画で、ナンバーナインから上梓されています。
全10巻の単行本を、2巻ずつ5巻の合本としてリリースしました。
2022年11月19日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
『ザ・シェフ』との共通点と相違点
剣名舞さんといえば、やはり原作を務める『ザ・シェフ』の大合本をご紹介しました。
『ザ・シェフ』は、主人公の味沢匠が、ブラック・ジャックのように高額の報酬を取りながら、フリーのシェフをつとめる話ですが、『ブラック・ジャック』がヒューマンな部分を削ぎ落としているのに比べ、『ザ・シェフ』の味沢匠は、商談は用件だけを手短に求める冷淡な姿勢なのに、依頼者の事情や心境を汲み取った料理を作ったり、世話をしたりします。
つまり、たんなるグルメ漫画ではなく、人間を描いています。
本作の『海猫亭へようこそ』も、やはり主人公はフランス料理人ですが、登場人物の人間模様を丹念に描いています。
『ザ・シェフ』との相違点は、舞台が海猫島の海猫亭と定まっていて、島の登場文物もレギュラー、もしくはセミれギャラーで、群像劇になっていることです。
亡兄と義姉の店の料理長になった弟の話
第1回から見ていきましょう。
主人公は、レストランで下働きをしていた風吹涼二。
厨房では最も下の階級である「追い回し」(雑用係)を担当していましたが、ある時、店に対して嫌がらせとも言える注文をつける料理評論家の鰐口荘三郎が来店。
料理長も知らない『伊勢海老のソース・タンベット』を注文します。
厨房ではお手上げ状態でしたが、「あのう、僕作りましょうか」と名乗りを上げた風吹涼二が代わってその料理を作り上げます。
ひとくち食べて「話にならんな」と席を立った鰐口荘三郎。
それを見た、風吹涼二はその場で辞職を申し出て寮も出ていきます。
しかし、鰐口荘三郎は、いつもは絶対に作れないような料理を注文して、お詫びのお車代をせしめるのに、その日は黙って代金を払っていきました。
厨房のスタッフが味見をしてみると、これが実に美味い。
「まさかアイツに、こんな料理が」と驚く料理長。
その料理を発明したのは、弱冠22歳でフランス料理の本場パリの名店で総料理長になった天才コック、風吹高志であり、風吹涼二はその実弟だったのです。
料理の世界ですから教科書はなく、風吹涼二はなにかの機会に見よう見まねで覚えたのでしょう。
では、なぜそれだけの料理を作れる風吹涼二が、追い回しに甘んじていたのか。
偉大な兄をいつも意識して、高い理想とコンプレックスから、自分に焦り、いらだち、ひとつの店で長続きせず7年間転々としていたために、力はあっても序列社会ではなかなか出世できなかったのです。
ところが、その頃、その兄の風吹高志は、不慮の自動車事故で崖から転落して急死していました。
フランス料理を、安い値段で提供しようと、せっかくの料理長の職を辞しての帰国。
故郷である東北の海猫島で、海猫亭というレストランを開いており、その仕入れの途中でした。
突然の出来事に呆然とする、新妻の風吹羽純。
無職になってしまった風吹涼二は、実家に架電を行い兄の急逝を知ります。
虫の知らせなんでしょうかね。
3年ぶりに故郷に帰ってきた風吹涼二は、自宅の葬儀で集まった人々に振る舞うおにぎりを握っていた羽純を手伝い、野菜スープを作ります。
その夜、来客がすべて帰り、放心状態で岸壁に立ち尽くす羽純。
「そんなところに立っていたら危ないよ」と声をかけた涼二に、それまで気丈に振る舞っていた羽純は抱きつき泣き出します。
「その時俺は、不謹慎なことに感じてしまっていた」という独白で第1話が終わります。
勃起したんでしょうかね。
そりや、若いんだから、不謹慎でも仕方ないです。
ということで、涼二は義姉さんと一緒に、海猫亭て安価で心を癒す料理作りに頑張るという話です。
以後、家族、お店のスタッフ、島の人々、お客さんなど、いろいろな人が登場しますが、昭和のホームドラマのように、登場人物から何組ものカップルが誕生。
もちろん、涼二と羽純も結ばれるハッピーエンドです。
あ、ネタバレはまずいですか。
でも、展開としてはそれしかありえないですからね。
女性の「毒」を描いた話?
実は私は、この作品を今回はじめて知りました。
たんなる料理うんちくの話ではなく、ヒューマンなストーリーは好むところなので、第1巻から読み始め、面白くてどんどん読み進めていきましたが、ちょっと気づいたことがあります。
「昭和のホームドラマのように」と書きましたが、それは結末のハッピーエンドがそうだということで、プロセスはちょっと違いました。
作中を通して、どちらかというと、登場人物の男性は素朴で「一筋」に描かれ、女の人のほうが「移り気」に描かれているのです。
まず、ヒロインの風吹羽純です。
高校時代の剣道部の先輩と、少なくともキスまでして、追いかけるようにフランスまできておいて、先輩の同僚ながら料理人としては格上の天才シェフ・風吹高志に乗り換えてしまうのです。
そして、帰国後は高志と海猫亭を始めるのですが、高志急逝後は、店を畳むという家族やスタッフの意見に対して実弟の涼二を料理長にすることを提案。
以来、結婚の記念にと買ったワインを涼二と飲んだり、火大会でもたれかかったり、映画に誘って抱きついたりと思わせぶりな態度を見せます。
ところが、セカンドの鱒田が倒れると、ピンチヒッターにはその「昔の男」である剣道部の先輩を呼ぶのです。
そりゃないでしょう、と思いますね。
困ったときに呼ぶのは、その男に気持ちが残っているからだろう。
涼二の気持ちを考えたら、どんなに店が困っても、昔の男は呼ばんだろう。
そんなふうに思いました。
つまり、涼二よりも店のほうが大事なのか、ということになりますからね。
そもそも、兄が亡くなったから今度は弟ですか、という感じです。
いえ、若いんだし、「貞女は二夫に見えず」なんていうつもりはありません。
ただ、もう少し葛藤があってもよかったんじゃないのかな、と思います。
死別。しかも事故による急逝ですから、きっと無念できれいな思い出ばかり。
それを断ち切って、弟に思いを寄せるには、好きになってしまう自分の中の葛藤があって当然だと思うのです。
「私は、涼二さんを高志さんの身代わりにしているんじゃないだろうか」とかね。
が、物語では、葬儀のときに涼二にいきなり抱きついて泣いて、それ以来、肉体関係こそないものの、すっかり涼二こそが大切な人になっているのです。
涼二は3年前に家出同然に飛び出しているので、それまではほとんど接点はなかったにみもかかわらず、です。
今風に言えば、彼女は男なしには生きていけないかなり肉食系ではないのかと思います。
セカンドをつとめる鱒田は、理由はわかりませんが、女房を他の男に寝取られます。
しかも、家に帰ってきたら、妻は男と布団で腰を動かしてハアハア睦み合っていたという最悪の経験もしています。
「奈落の底に突き絵とされたような、大きなショックだった」と描いてあります。
もちろん、離婚ですよ。
許せないでしょう。
トラウマになりますよ。
ところが、今度はその元妻と結婚したいという男が頼みもしないのにわざわざ島にやって来て、島主催のトライアスロンに出て鱒田を負かそうとしています。
勝って、鱒田だけでなく、なつかなかい鱒田の息子にまで結婚を認めさせるって。
それって、鱒田をさらに傷つける行為でしょう。
鱒田の息子の前で、鱒田に勝って、息子に「これからは俺を父ちゃんと呼ばせる」ことを認めさせるというのですから。
んなもん、結婚したきゃ勝手に結婚しろよ。子供がなつくかどうかはその「新しい家族」の問題で、鱒田を巻き込むなよ、と思います。
さらに、鱒田は陶器に興味があり、陶器を焼く女性に恋をしますが、その人もまた亭主持ちでした。
そんなに鱒田をいじめんなよ、と思いました(笑)
給仕兼マネージャーの江波秀樹は、一流ホテルのフロント係だったものの、アル中になってしまい職務を遂行できず、高志に誘われて働くようになりました。
そこで、酒は飲まないと誓ったのですが、禁断症状が出る自分を無心にするために教会に。
そこで知り合った美術教師にも過去がありました。
見習いの鳥塚圭介は、島の女性の鮎美に熱を上げますが、これまた移り気な女性です。
原作者は、交際女性の浮気で辛い経験をしたのでしょうか。
女性の「毒」を描いています。
私が子供の頃の昭和のドラマは、女性が一筋に男性を愛すパターンが多かったと思います。
で、男の方にはそれなりにいいよってくる女性がいると。
時代が変わりましたね。
でもまあ、現実の統計でも、一部の男性が複数の女性と付き合うから、つまりモテる男性に女性が集中してしまうから、女性は異性との交際経験のあることが多いのに、「一部」以外の男性は異性経験がない、ということになっているそうですから。
男性も、頑張らなければなりませんね。
以上、海猫亭へようこそデラックス版1~5(剣名舞/原作、村尾忠義/画、ナンバーナイン)は、海猫島のレストランを舞台にした料理漫画、でした。