消えたママ友(野原広子著、KADOKAWA)は、なかよし4人組の中の1人のママ友が、突然子どもを置いて姿を消してしまった話です。1人欠けただけで3人まで不仲になったり、蒸発の理由を勝手に詮索する陰口が横行したりと、人間関係の脆さが描かれています。
『消えたママ友』は、野原広子さんがKADOKAWAから上梓した漫画です。
コミックエッセイというジャンルの漫画です。
この記事は、Kindle晩をもとにご紹介しています。
第25回手塚治虫文化賞短編賞を受賞した、話題騒然のミステリーコミックエッセイです。
仲良し(であるはず)の保育園ママ友4人組。
その中で、有紀ちゃんがある日突然姿を消しました。
保育園のママたちの間では、噂では有紀ちゃんは男を作って逃げたと噂されます。
そういう目撃があってもなくても、妻の蒸発はそうに決まっているという世間の決めつけです。
有紀ちゃんとは、仲良しだったはずのママ友である、春香、ヨリコ、友子は、何も知らされていませんでした。
「どうして一言も言ってくれなかったの」という思いはありますが、みんなそれぞれに思い当たる「予兆」がないわけではなかった。
そもそも、ママ友ってなんだろう。
そんなになんでも腹を割って話し合っているわけではないし、ちょっとしたことで関係が壊れてしまうものであることもわかっています。
げんに、有紀ちゃんがいなくなっただけで、ママ友たちの関係には微妙な溝もできました。
雑誌『レタスクラブ』連載で大反響を呼んだ話題作、描き下ろしを加えついに単行本化!!と本書のはじめに書かれています。
あなたの日常にも起こるかもしれない物語です。
本書は2023年2月8日現在、KindleUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
ママ友を下の名前でちゃん付けするなよ
本作の目次は、Amazon販売ページに公開されています。
【もくじ】
1章 消えたママ友
2章 有紀ちゃんを探せ
3章 本当のことなんて話したりしない
4章 ママ友がいない
5章 つないだ手
6章 本当の有紀ちゃん
7章 あの日
中心となる登場人物は、仲が良いことになっているはずの、大久保春香、斎藤ヨリコ、八尋友子、安西有紀のママ友4人組です。
有紀ちゃんとは仲良しだったはずなのに、
何も知らなかった春香、ヨリコ、友子。
しかし、みんなそれぞれ思い当たることがあった…..。
有紀ちゃんが、息子のツバサくんを置いていなくなってしまいました。
どうして一言も言ってくれなかったのか、と春香はむくれます。
子どもを家族に見てもらい、仕事ができて何が不満なんだと、夫の家業を手伝っているヨリコはいいます。
逆に、お互いそんなに深く詮索したり干渉したりできる関係でもないのに、とやかく言わない方がいいと友子。
その他の連中は、男ができたと勝手に噂しています。
私は読んでいて、そもそも、ママ友レベルで、下の名前で呼びあうことに違和感がありましたね。
友子の言う通り、子どもを通しての付き合いに過ぎないのに、まるで学生時代からの親友のような気分になるのは行き過ぎだと思います。
「〇〇さん」で十分。
で、有紀がいなくなったことで、その3人の関係も微妙に悪くなります。
4人の子どもには、それぞれいじめっ子とか、コミ障とか、いろいろいて、いくら仲良しのママ友といっても、自分の子供がいじめられたら嫌ですよね。
それを上手に調停してくれたのが、有紀だったようです。
つまり、有紀がいなくなってしまったことで、子どもの争いをうまくとりなす人がいなくなり、3人のママ友同士の関係にも影響を与えてしまったわけです。
その一方で、有紀の姑はもう、張り切って子供の送り迎えをしています。
ある日、春香は、移動ホットドッグで働いていた有紀を発見。
それがきっかけで、4人が会います。
有紀の家出は、姑が子どもを自分の子のようにして実母の有紀に触らせず、夫も姑に加担したことが原因でした。
有紀は、ストレスでパチンコに入れ込み、多額の借金をこさえ、それをまた姑や夫になじられ、いよいよ居場所がなくなって家出したのでした。
その際、パチンコ店で知り合った、娘をもつおとこやもめと同居しています。
姑にとられた息子よりも自分になつく娘と、思いやりのある同居の男との暮らしで、有紀は笑顔を取り戻していました。
人間関係の危うさと毒親
ということで、エッセイのポイントは、ママ友の付き合い方の微妙さと、またしても毒親ね。
今回は鬼姑でもあるわけですが。
姑は、息子に執着し、孫に執着し、息子も姑に執着しています。
仏教では、煩悩といいます。
息子は、妻の有紀ちゃんに対して、母が一所懸命やってくれているのに何が文句あんのか、と母の側に付きましたが、バカじゃなかろうかと思いますね。
自分の人生に対して、母親が介入することをなんとも思わない時点で、毒されています。
姑は、孫を自分の所有物だと思っているんでしょうね。
以前から何度も書いてきましたが、そもそも、日本では「親孝行」という封建的なイデオロギーが残り、民法818条で再生産されているため、自分の親についての毒親認定とは向き合わない場合も少なくないため、毒親が社会問題であることがなかなか理解されません。
「服する」ですよ。
子は親に服従しなさい、ということです。
親であることをタテに、子に特定の選択や価値観を強要する毒親は、今の日本では虐待など違法行為が公然としたものでない限り「合法」になってしまうのです。
未だに家制度の因習を事実上残す目的で、子は親に無条件で従う奴隷であることを示す法律といっていいでしょう。
だから、安西の姑と夫のようなキ×ガイが存在するのです。
ひとつ本作に注文をつけます。
あとがきで、こう書かれています。
「誰にでも、後ろ暗い物語に触れたいという気持ちがある」
という言葉を受け、描きだした物語です。
有紀ちゃんや春ちゃんやヨリちゃん、友ちゃんを描きながら、
だんだんと、
「妻は、現実から逃げ出したいという、うっすらとした欲求がある」
ということに気がつきました。
すべてを置いていなくなってしまった有紀ちゃんは
不幸なのか?
それとも…..。
決して口には出せないけれど、
ほんとはみんな、有紀ちゃんになりたいのでは・・・
あなたはどうですか?
ということで、書かれていることは別にこれで良いのですが、これって、母(妻)のママ友としての立場に、フォーカスしている書き方になってますよね。
このエッセイのキモは、夫婦のあり方、家庭のあり方についてでもありますから、別に妻だけでなく、夫だって同じような苦悩を抱えているのだ、ということは補足しておきたいですね。
夫だって、「現実から逃げ出したいという、うっすらとした欲求」はあるのです。
結婚して○年。
でも、思い返すと、何も残っていない、いったいその○年は何だったのか。
なんて思うこと、ありませんか、世の夫たち。
子どももいるから離婚もしにくいし、タイムマシンがあるわけでもないからもう1度戻れるわけでもないけど、人生の貴重な時間を使うにふさわしい結婚生活だったのか、と考えると、「全く後悔なし」と胸を張って言える人はどのくらいいるのかと思いますし、その「責任」は、お互い様ですからね。
妻だけが悲劇の犠牲者と思ったら大間違いです。
ですから、妻が虐げられている、夫は何も考えずのほほんとしている、というなら、それは一面的な描き方です。
もちろん、本作の作者がそういう言っているわけではありませんが、少なくとも夫もそうだとまでは読めないので、私も「夫」の立場からそこは強調しておきたいのです。
ファミリーサスペンスコミックは、先日、『わたしは家族がわからない』(やまもとりえ著)をご紹介したことがあります。
一見、幸せそうな家庭も、実は脆いものである、というモチーフは本作に通じるものがあります。
以上、消えたママ友(野原広子著、KADOKAWA)は、なかよし4人組の中の1人のママ友が、突然子どもを置いて姿を消してしまった話です。でした。
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