秋葉原無差別殺傷事件(2008年)を漫画化して収載したのは、まんが凶悪死刑囚大全獄(アンソロジー著、コアマガジン)。2022年7月26日に刑執行が報じられ、改めて事件と元死刑囚の生き様について振り返る報道により本誌も注目されています。
東京・秋葉原で7人が殺害された無差別殺傷事件(2008年6月8日)の犯行で、死刑が確定していた加藤智大死刑囚が、2022年7月26日午前に刑が執行されたと報じられました。
死刑の執行は2021年12月以来で、岸田内閣では2回目です。
『まんが凶悪死刑囚大全獄』は、アンソロジーがコアマガジンから上梓しました。
同誌は、死刑判決が出た事件と元死刑囚の生き様を描いた27作の漫画などが収載されています。
事件の犯人は、ほとんどタイトルに実名で挙げられています。
秋葉原無差別殺傷事件(秋葉原通り魔事件)もそのひとつとしてとりあげられており、改めて注目され話題をよんでいます。
全世界に速報された白昼の惨劇
3008年6月8日、日曜日の歩行者天国で人が賑わう東京・秋葉原。
白昼の惨劇が起こったのは午後0時半でした。
まず、2トントラック(いすゞ・エルフ)が赤信号を無視して突入。
青信号を横断中の歩行者5人をはねました(死亡3人・負傷2人)。
そして、運転者は道路に倒れこむ被害者の救護に集まった通行人、警察官ら17人を所持していたダガー(ナイフ)で立て続けに殺傷(死亡4人・負傷8人)。
さらに、運転者は奇声を上げながら周囲の通行人を次々に刺して逃走。
警視庁万世橋警察署秋葉原交番の警察官に対しては、防護服を斬り付けるなど抵抗したものの、非番ながらたまたまその場に居合わせた蔵前警察署の警察官とともに取り押さえられ、旧サトームセン本店脇の路地で現行犯逮捕されました。
死者7名、負傷者10名。
この光景は全世界に速報されました。
現行犯逮捕されたのは、当時25歳の加藤智大元死刑囚。
本書『秋葉原無差別殺傷事件 加藤智大』の漫画などからご紹介します。
事件の影に毒親
1982年秋に、加藤智大元死刑囚は青森県五所川原市で生まれました。
「スポーツ万能で勉強もクラストップ」であるにもかかわらず、冬の寒い中、母親に叩かれて外に出されている光景を近所の人が目撃しています。
青森の冬ですから、雪が降り積もっているときでしょう。
本作によると、加藤智大元死刑囚は、教育熱心な母親によって、幼い頃から珠算、スイミングクラブ、学習塾に通わせられていたそうです。
「なぜそんな簡単な作文ができないの?なぜ、この熟語を使ったの?10秒以内に答えなかったらビンタだからね」
地元の小・中学校を卒業後、県内随一の進学校である青森高校に入学します。
Wikipediaによると、母親が卒業した学校であり、進学を望んでいたといいます。
東京ですと、名門私立高校もたくさんありますから選択肢は多いのですが、地方は県立。それも一高、東校といわれますね。
青森の高校には詳しくないのですが、青森高校もそうした高校にあたるのでしょう。
しかし、本作によると、加藤智大元死刑囚の歯車はこの頃から狂い出したといいます。
友人と遊ぶのは禁止。
視聴可能なテレビ番組は『ドラえもん』と『日本昔ばなし』のみ。
これはもう、絵に描いたような毒親ですね。
民法第818条は、「①成年に達しない子は、父母の親権に服する。 ②子が養子であるときは、養親の親権に服する。 ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。」とされています。
親が右向けと言ったら、子は右を向きなさい、というのが現在の日本が定めた親子関係のあり方なのです。
つまり、子は親に人格まで支配された奴隷である、といっているようなものです。
そうやって、親から強引に価値観や思考・判断のシステムを刷り込まれて人生を積み重ねた子が、いきなり生き方・考え方をひっくり返すのは困難なことです。
これは、親元を離れれば解決ということではなく、たとえば親が亡くなった後でも自分の人生に「毒親の影」はついてまわるということです。
もちろん、「恵まれない『ほしのもと』の人は、どんなに転落して悪いことをしても仕方ない」と言っているわけではありません。
いい悪いではなく、親の影響は軽視できない、とくに毒親の影響は子の人格形成に影響を及ぼす、という話です。
加藤智大元死刑囚は、母親に対する反発心から、進学校に入りながらも、地元の国立大学ではなく、岐阜県にある中日本自動車短期大学自動車工学科に進学します。
しかし、学業に意欲を持てず、自動車工学科であるにもかかわらず自動車整備士の資格を取得しませんでした。
卒業後は、仙台で警備員として勤務。
同僚として仕事以外で交友する友人ができたようですが、学校時代に友人づきあいを禁止されていた青年が、上手に人付き合いできるのか。
その後、いくつか転職しているのですが、本作によると、人間関係があまり円滑でなかったよう。
職場の人間関係の不満に対する抗議の表明、というお決まりの理由で退職を繰り返しています。
ありがちな、軽口や陰口に耐えられなかったようですが、人馴れしていないことと、毒親に育てられると往々にして自己愛が強くなるので、そのへんが原因で耐えられなかったのかもしれません。
ちなみに、転居先のアパート代や大型自動車免許取得など、働くようになってからも母親からの資金提供を受けています。
これも毒親のパターンですね。
そんな人間が逃げ込むのはネットの世界。
「彼女いない、ただこの一点で人生崩壊」
「不細工なおれは存在自体が迷惑」
自虐的な自己紹介ですが、それそなりにウケて、やっと自分の居場所を見つけた心境になったようです。
超個人的で独善的な犯行動機
ところが、そんな「大切な」掲示板をなりすましに荒らされ、掲示板荒らしが去ったことで孤独を感じ、掲示板に通り魔事件を起こすと投稿するようになりました。
秋葉原に到着した加藤智大死刑囚は、スレッドのタイトルを「秋葉原で人を殺します」へ。
内容を「車でつっこんで、車が使えなくなったらナイフを使います みんなさようなら」と書き換えて犯行予告を行い、12時10分に「時間です」の書き込みを残して12時30分に事件を起こしました。
事件そのまんまの犯行予告と実況です。
しかし、ネットというのはつくづく無責任ですね。
本作によると、犯行後、元死刑囚はネットで「ネ申」扱いされます。
「格差社会の英雄だ」
「加藤くんを抱きしめてあげたい」
「加藤はオレたちの不満を背負って大仕事をしてくれた」
冗談じゃないですよ。
被害者のことを考えたら、こんな賛辞ありえないでしょう。
一方、加藤智大元死刑囚は、事件を「社会に対する復讐」ではなく、「日本のどこに住んでいるかわからない『なりすまし』や『荒らし』たちに自分の存在を示すためには大事件を起こす必要があった」と述べています。
本作は、「彼の犯行動機は恐るべき超個人的で独善的なものだった!!」と結んでいます。
詳細はぜひ、本作をご覧ください。
以上、秋葉原無差別殺傷事件(2008年、2022年7月26日刑執行)を漫画化して収載したのは『まんが凶悪死刑囚大全獄』(コアマガジン)。でした。