脳はバカ、腸はかしこい(藤田紘一郎、三五館)は、腸が脳に比べてもいかに賢いかという話をカイチュウ博士が書いています。腸といえば食べたものを消化する器官ですが、「便通」を通して健康になるための便りを常に発信しているといいます。
『脳はバカ、腸はかしこい』(藤田紘一郎、三五館)は、タイトル通り腸の話を、藤田紘一郎さんが三五館から上梓しています。
藤田紘一郎さん(ふじた こういちろう、1939年8月6日~2021年5月14日)といえば、免疫や伝染病研究の第一人者であり、寄生虫博士としても有名な医師・医学者。
カイチュウ博士の異名で活躍しました。
子どもの幸せは腸が7割 3才までで決まる!というのが持論です。
最近でこそ、腸管免疫とか腸内フローラなど、腸が単なる消化物の通り道ではないことが注目されていますが、腸のコンディションが人間の健康と密接に結びついていることを、以前から一貫して標榜してきたのが藤田紘一郎さんです。
本書『脳はバカ、腸はかしこい』は、2022年9月5日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
たとえば、ダイエットが失敗するのも、タバコがやめられないのも、勉強に弱いのも、腸を鍛えていないから、と本書では明言しています。。
新刊本ではないのですが、レビュー記事も多い人気Kindle本であり、ご紹介させていただきます。
腸>脳という構成には違和感
『脳はバカ、腸はかしこい』(三五館)は、著者が藤田紘一郎さん。
カイチュウ博士として、昨年までメディアでも活躍していた医師であり医学者です。
免疫の問題にも詳しい腸の専門家です。
腸内細菌が、いかに心身に影響しているかを本書では説いています。
そして、脳と比べて腸がいかに賢いかという話を書いています。
腸を中心に生活を考えた方が良いということです。
『脳はバカ、腸はかしこい』では、とにかく腸の機能が、高度で精緻なことを述べています。
今回、その引き立て役にされているのは脳です。
本書のまえがきにはこう書かれています。
脳の報酬系というのは、欲求が満たされた(る)とき活性化し、その快感覚を与える神経系のことです。
欲求が満たされたときや、満たされるとわかったときに活性化。
気持ちよさ、幸福感などを引き起こす脳内のシステムです。
本書によると、人間の脳は、客観的にものを見ているわけではなく、その人の哲学や経験や意図や気分といったバイアスがかかる。
うぬぼれ屋で感情的でもある。
だから、合理的でない間違った判断をくだすことがある。
しかし、腸はそうではない。「便通」を通して健康になるための便りを常に発信している。
たとえば、人間は欲望で食べてしまう。しかし、腸は悪いものを食べれば下痢をする。だから腸は信用できる。
要するに、自分の「思うこと」(脳)で判断すると、思い込みで誤ったことをするが、腸が順調になるような生活なら、間違いなく本来あるべき姿であるという話です。
頭でっかちになってはいけない、人間は間違いうる、という話は全くそのとおりだと思います。
この趣旨について異論はありません。
よくいうじゃありませんか。
脳は騙しやすいと。
つまり、自己暗示をかけたり、積極的な言葉を諳んじたりすることで、本当にその気になるということです。
勘違いや思い込みというのは、日常的にありますからね。
うまそうに見えるものは、腐っててもうまいと思いながら食べてしまう。
しかし、腸は、いくら暗示をかけても、悪いものを食べたら下痢をする、というわけです。
腸は気分で間違えないということです。
ただ、本書に対するレビューの一部に、「結局どうしたら良いのか…が書かれていないので消化不良」というレビューがあるように、そのためのたとえや、結論としての啓蒙の仕方が少し偏っているように見えるかもしれません。
そもそも、脳と腸を対決させて、腸>脳という構成に違和感があります。
腸だって間違うことがあるし……
本書には、「脳は食べ物が安全かどうかは判断できませんが、腸にはそれができるのです」と、「腸の優越」が大仰に書かれているくだりがあります。
具体的にどういうことかというと、食中毒菌が混入している食べ物でも、脳は食べなさいとシグナルを出すが、腸は菌が入ると拒絶反応を起こすからというのです。
でも、これは、脳よりも腸が賢い、ことの根拠にはならないように思います。
腸が毒をお腹を下して排泄するのは、「食中毒菌が混入している」かどうかを「判断」したからではなく、胃から消化されてきたものに対して栄養になるものは取り込み、そうでない毒は拒絶するというシステマチックな「反応」を示しただけはないでしょうか。
だって、「判断」と「反応」は違いますよ。
「判断」ということは、未知のものに対しても回答を出さなければなりませんが、その点で腸は絶対にミスをしないのか。
そんなことはないですよね。
そんなことはない。
たとえば、あるはずがないといわれた、人間のBSE由来のプリオン病。
牛の病気なのに、人間に起こってしまいました。
プリオンは、腸から吸収されたといわれていますよね。
腸は毒を排泄する機能がありますが、同じように鼻は腐ったものなら匂いでわかるし、傷んだものは舌でもわかることがあります。
で、その機能を司るのは脳です。
脳だって、「食べなさいとシグナルを出」しているばかりではなく食い止めることはあります。
著者の論理に従っても、腸>脳という主張はストンと胸に落ちません。
あなたは、ストンと落ちますか。
また、本書には、脳がないミミズが、腸内細菌で地球環境に貢献しているとか、ミミズの生薬が脳梗塞や利尿効果にいい、などといった話も書かれています。
腸>脳といいたくて、脳のないものがいかに素晴らしいかを書いているわけです。
が、これはもう「脳対腸」すらからも外れています。
話を広げすぎです。
本書でいう、頭でっかちになってはいけないということ。
それは脳を否定する方向ではなく、脳の使い方、判断の仕方を再考しましょうという啓蒙であるべきですし、読者にそれをきちんと伝えなければなりません。
きっと、本書はそれが十分ではないと見られたのでしょう。
だから、「結局どうしたら良いのか…が書かれていないので消化不良」なんて酷評になったのだと思います。
ミミズの漢方薬の話なんかよりも、それが大事なのに。
要するに、著者は腸に思い入れるあまり、少し余計なことも書かれているが、脳で「判断」するときは、自分の心境や欲望だけでなく、腸の調子に考慮しましょう、ということでいいんじゃないかと思います。
ぜひ、このレビューを読まれたあなたにもお読みいただき、ご意見いただければ幸甚です。
以上、脳はバカ、腸はかしこい(藤田紘一郎、三五館)は、腸が脳に比べてもいかに賢いかという話をカイチュウ博士が書いています。でした。