荒川放水路巡査バラバラ殺人事件は、1962年に起こった猟奇事件。漫画化したのは『罪深き聖職者~女教師が警官夫を殺したワケ~』(神崎順子著、ユサブル)です。現職の小学校教諭が、これまた現職の巡査である未入籍の「夫」に手をかけたことで話題になりました。
しかも、荒川放水路の入江(日の丸プール)に、死体をバラバラに切り刻んで捨てたのです。
『ザ・女の事件Vol.1-④~特集/神をも恐れぬ鬼畜女たち』にも収録されています。
70年前の猟奇事件
荒川放水路巡査バラバラ殺人事件をご存知ですか。
WikiPediaに書き込まれるほど、犯罪史上に残る事件です。
荒川放水路巡査バラバラ殺人事件、と書きましたが、WikiPediaでは、荒川放水路バラバラ殺人事件、ないしは巡査バラバラ殺人事件と書いています。
1952年5月10日に、東京都板橋区で発生した、小学校教師である内妻による警察官殺人・死体損壊事件です。
荒川放水路の入江(日の丸プール)に、男の胴体と思われる胴体だけの死体が発見されたことが始まりです。
「「荒川放水路にバラバラ死体」。朝日、毎日、読売3紙の5月11日付朝刊は主見出しが全く同じでいずれも社会面トップ。」だったそうです。(小池新『《荒川放水路にバラバラ死体》岸辺に漂着した胴体、首、腕……現職警官惨殺事件』文春オンライン)
《荒川放水路にバラバラ死体》岸辺に漂着した胴体、首、腕……現職警官惨殺事件
被害者が警察官、加害者が妻の教師 「荒川放水路バラバラ事件」 #1 #バラバラ殺人事件 #昭和事件史 #文春オンライン https://t.co/7acQiultqs— 石川良直 (@I_yoshinao) May 18, 2022
警視庁は、西新井署に捜査本部を設置して捜査が行われると、対岸や上流で体の他の部分も見つかり、指紋から現職警官の遺体であることが判明。
内縁の妻を連行して取り調べたところ、「酒癖が悪く、横暴な夫に憤りを感じ、殺してやりたいと思うようになった」と自供したそうです。(龍田恵子著『バラバラ殺人の系譜』)
同書によると、後に彼女はこう手記に綴ったそうです。
「……教員という職業柄自分の存在が値打ち以上に社会から評価されるというアブノウマルな環境から一時間でもいいから解放されたい。その慰安の場所を、私は夫との生活にだけ求めていたのです。
その頼みとする家庭生活が夫によって無惨にも破壊されたのでは、私はどこに人生の幸福を求めたらよいのでしょうか。検事さんの論告でも指摘されたように、夫を憎むより、つまらぬプライドにとらわれて“より大切なもの”を失った私こそ、神の摂理に背いた悪い人間だったのかも知れません。しかし、私達の生活の結論は、あの方法より外に途がなかったのです。この気持はいまでも変わりません。……」
同書によると、内縁の妻は、一家で大阪から山形に疎開。
高等女学校を卒業した1946年に、徴用工とから復員して知り合ったのが、殺害された内縁の夫だそうです。
文春オンラインによると、義理のいとこ(義母のめい)と書かれています。
「義理」なので、血縁関係はなかったんですね。
彼女が大阪の小学校に奉職した1949年。
彼から警察官になったと便りが届き、文通が始まりました。
本当は、別に結婚したい相手もいたのですが、その人に結婚の意志がなかったため、彼女は警察官になった被害者と結婚。
東京の小学校に転勤します。
しかし、婚姻届は出してくれず、夫には借金があったことも判明。
素行の悪い警察官だったことが書かれています。
また、当時の報道は、「彼女をめぐっても大阪時代から男出入りがあったと伝えられている。」とも文春オンラインにはあります。
いずれにしても、夫婦仲は最悪だったと。
思い余った妻が殺害しますが、その後、妻と妻の母親によって遺体がバラバラに切り刻まれます。
捜査が進んで、妻は逮捕されましたが、「私は教育者です。夫を殺すなど、そんな大それたことは絶対にしません」と頑強に容疑を否認。
その後は、上掲のように「あの方法より外に途がなかったのです。この気持はいまでも変わりません。」として、それが「反省がない」とされて懲役12年。
妻の母親も1年2ヶ月の実刑に処せられますが、尿毒症で獄死します。
妻は、冨美子は1959年の「皇太子ご成婚」特赦で減刑。
7年の服役で出所し、「刑務所で習い覚えた洋裁を生かして、どこかで幸せに暮らしているという風のうわさはある」と結んでいます。
責任とプライドにとらわれ……
さて、本書『罪深き聖職者~女教師が警官夫を殺したワケ~/ザ・女の事件Vol.1』は、少し設定が脚色されています。
妻が大阪から東京に転勤になった時、親切にしてくれた警察官がいて、それが被害者だったと描かれています。
公立小学校教諭は地方公務員ですから、事情があって転勤を希望しないと、他県に「飛ばされる」ことはないと思うのですが、それはともかく、「疎開」とか「義理のいとこ」とか、事件に直接関係のない経緯は端折ったのかも知れません。
慣れない土地だったことで、親切にしてくれた警察官と結婚。
法的に婚姻していないことについては、「姓が変わると児童が戸惑うから」と言い訳していましたが、実は夫が婚姻届を出してくれないことについては実際と同じです。
そして、お金にだらしがなく、DVも日常的に行われていたと書かれていますが、妻が二股かけていたことなどは描かれていません。
思い詰めた妻は夫を絞殺。
漫画は、「今から半世紀前、教師が今よりもずっと強く尊敬と信頼をもたれていた時代に起こったこの事件。その責任とプライドにとらわれ、追い詰められた女の悲しさがそこにはあったー」とまとめています。
この妻が教員になったのも、夫が警察官になったのも昭和23年。
憲法や民法が変わったり、新学制になったりした「ドサクサ」のときです。
本来ならその職につけないのに、ドサクサでつけた「幸運」が、まさに「責任とプライド」というプレッシャーを本人たちにかけたのかもしれませんね。
それにしても、バラバラ殺人とは大胆です。
マスコミで大々的に報じられた事件シリーズ
『罪深き聖職者~女教師が警官夫を殺したワケ~/ザ・女の事件Vol.1』は、神崎順子がスキャンダラス・レディース・シリーズとして上梓した漫画です。
Kindle版として、AmazonUnlimitedの読み放題リストに入っています。
ザ・女の事件シリーズは、実際に起こった事件を漫画化したシリーズです。
これまでに、以下の漫画をご紹介してきました。
いずれも、タイトルだけでわかるほど、マスコミで大々的に報じられた事件です。
今回の荒川放水路巡査バラバラ殺人事件は、少し昔の事件ですが、おそらく当時としては大事件として報じられたのだと思います。
活字として読むと入りにくいことも、漫画で読むとハードルが低いですね。
また、これからも実録漫画についてはご紹介していきたいと思います。
以上、荒川放水路巡査バラバラ殺人事件は、1962年に起こった猟奇事件。漫画化したのは『罪深き聖職者~女教師が警官夫を殺したワケ~』、でした。
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