『親を、どうする?』(小林裕美子著、滝乃みわこ原作協力、コンペイトウ書房/実業之日本社)は、恩師の葬儀でひさしぶりに顔を合わせた40代の同級生3人が、親の老後と死を意識するようになる話です。
「ねばならない」のお説教や、暗さ悲しさを主張するものではなく、細かいエピソードによって淡々と介護や最期の日々を描いているところに、介護者に寄り添ったリアリティを感じます。
親の老いに深くしずかに向きあう大人のためのコミックです。
介護する側の不安や、老いる人、死に行く人の心境や行動原理
『親を、どうする?』(小林裕美子著、滝乃みわこ原作協力、実業之日本社)は、親の老いに深くしずかに向きあうコミックです。
四十路に入った3人の女性が、祖父、夫の母、父とそれぞれが介護と向き合う日々を描いた、1ページに8コマの漫画で構成されています。
プロローグは、カスミ、ハルカ、サヨという40代の同級生3人が恩師の葬儀で顔を合わせ、自分の親と同世代であることを思ったと告白しあうところから始まります。
つまり、自分たちは、親の老後と死を意識しなければならない立場と世代である、という設定を読者に示しているわけです。
そして3人は、親の老後と、死を意識するようになります。
164ページの“長編”ですから、これは駆け足でまとめたあらすじです。
この経過に、介護する側の不安や、老いる人、死に行く人の心境や行動原理など、リアルなエピソードが沢山描かれています。
カスミが直面したのは祖父の最期
おひとりさまのカスミは、祖父の死をきっかけに両親の老後を思います。
両親は健在ですが、自分は“おひとりさま”であり、自分自身の将来だってわからないのに、いずれ両親も祖父のように亡くなっていく。
姉は嫁いだことを口実にその問題に向き合いそうもない。その時が来たら、うけとめる勇気は自分にあるのだろうか、とカスミは自分に問いかけています。
核家族の場合、祖父母との同居をしているわけではないかもしれませんが、平均寿命の延びで、祖父母が健在のうちに孫がある程度の年令になるケースは増えてきました。
その場合、カスミのように、祖父母の最期から両親の老後と最期を考えることがあるのでしょう。
ハルカが直面したのは認知症義母
ハルカは、アルツハイマー型認知症と診断された夫の母にふりまわされます。
正式な診断が出るまで、夫は母のボケを認めようとしません。
ハルカは実の母でもない人に、なだめすかす駆け引きを考える自分がときどき嫌になる、とも。
しかし、そうした日々を過ごす中でハルカは、「とりあえず今日はあなた(義母)が笑顔でよかった」と思うようになります。
認知症と言っても、いきなり家族の顔もわからなくなったり、寝たきりになったり、自宅がわからなくなって徘徊したりするわけではありません。
むしろ、寝たきりでなく、ボケきっていない要介護1ぐらいのほうがある意味厄介なことがあります。
サヨは、父が突然「末期の大腸ガン」に
離婚したものの、唯一子ども(息子)がいるシングルマザーのサヨは、父が突然「末期の大腸ガン」に。
父も離婚経験者でした。さて、別れた母に知らせるべきか。
「死んでも知らせなくていい」と言っていたサヨの父ですが、最期は母を入れた家族みんなで写真を撮ります。
ごく自然な人生の道順
私が、この書籍に出てくる3人ぐらいの年齢の頃、いさやまもとこさんという人の漫画で、いさやまもとこさん自身が父親の介護をしている話を読んだことがあります。
漫画には、介護者たちが集まって、「こういうのは順番だから」と慰めあっているシーンがありました。
要するに、今は自分たちが苦労しているけど、いずれ自分たちが世話をしてもらう役回りになるからがんばろうという意味ですね。
そう言い聞かせなきゃ、やってられないという気持ちはわかります。
でも、残念ながら「天の配剤」とやらは、そんなに公平で合理的にはできていません。
この書籍に出てきたカスミのように、子どもがいる姉は何もせず、独身で自分の将来の見通しも立たない人が「身軽だから」と介護の貧乏くじをひかされる。
この書籍は女性3人の話ですが、一般的には、長男、または逆に末っ子、独身、子どもがいない、……こういった立場にいるだけで貧乏くじをひかされるのが、「情」が売り物の我が島国日本の大衆の一般的な事情です。
私も後期高齢者の母親がいるのでわかりますが、高齢者の面倒を見るのは、「親孝行」などというキレイ事では折り合いを付けられない面もあるのです。
ただ、これはあくまで私の経験に基づいた個人的な意見ですが、老いた人(実の親でも舅姑でも叔父や叔母でも良い)と一緒に暮らしたり介護をしたり、先祖の墓守を経験したりしている人と、そういう経験の全くない、自分の生活だけやっていればいい人とでは、人間的な深みや心の大きさが違うように思います。
もっとも、いさやまもとこさんのように、私もそうやって自分を慰めているだけかもしれませんが。
いずれにしても高齢者と向き合う機会のなかった方は、ぜひ今回の『親を、どうする?』をご覧ください。
誰もが経験するけれど誰にもいえない不安に寄り添う
この書籍は、介護する人を特別「偉い人」とも「悲しい人」とも主張していません。
それは、ごく自然な人生の道順として著者が受け止めているからだと思います。
ただ、人(しかも近親者)の介護をすると、よくも悪くもこんな葛藤や人の心との触れ合いを経験できる、ということがおわかりいただけるはずです。
なるほど、こういう経験をすれば、人としてもう一回り心が大きくなれるのかもしれないな、とご理解いただけるはずです。
私は、介護の経験のない人にこそ、読んでいただきたい一冊だと思います。
誰もが経験するけれど、誰にもいえない家族の不安に、そっと寄りそう大人のためのコミックです。
以上、『親を、どうする?』は、恩師の葬儀でひさしぶりに顔を合わせた40代の同級生3人が、親の老後と死を意識するようになる話、でした。