重要事件で振り返る戦後日本史 日本を揺るがしたあの事件の真相 (佐々淳行著、SB新書)は、著者が関わりを持った事件を回顧しています。著者は、警備幕僚長として、東大安田講堂事件、連合赤軍あさま山荘事件などで危機管理に携わりました。
重『要事件で振り返る戦後日本史 日本を揺るがしたあの事件の真相』は、佐々淳行さんがソフトバンククリエイティブのSB新書から上梓した書籍です。
著者は、警察・防衛官僚として、在職中からメディアに登場。
退官後も、危機管理評論家として文筆、講演、テレビ出演と活躍していました。
警察・防衛官僚ですから、日本の戦後史を語る上で欠かせない事件の語り部でもありました。
本書の目次を見ると、これだけの事件を語っています。
日本国憲法公布・施行
東京裁判
公職追放
朝鮮戦争
サンフランシスコ平和条約
帝銀事件
二・一ゼネスト禁止事件
下山事件・三鷹事件・松川事件
昭電疑獄・造船疑獄
血のメーデー事件
安保闘争
浅沼稲次郎暗殺事件・嶋中事件
東大安田講堂封鎖事件
あさま山荘事件から沖縄ひめゆりの党事件まで
ライシャワー事件
三島由紀夫事件
沖縄返還時の密約報道、西山事件
金大中誘惑事件
ミグ25事件
宮永スパイ事件
ロッキード事件
リクルート事件
東京佐川急便事件
地下鉄サリン事件
すべての事件についてご紹介したいほどですが、今回はそのうち、三島由紀夫事件についてご紹介します。
本書は2022年11月14日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
三島由紀夫事件とはなんだ
三島由紀夫事件というのは、1970年(昭和45年)11月25日、作家・三島由紀夫(本名・平岡公威)さんが、憲法改正のため自衛隊に決起(クーデター)を呼びかけた後に、割腹自殺をした事件です。
ノーベル文学賞候補にも挙げられていた、昭和を代表する作家であった三島由紀夫さんは、自ら『楯の会』という民兵組織(軍隊的な集団)を結成しました。
その隊員たちを率いて、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地にある東部方面総監部を占拠。
総監・益田兼利陸将を人質にとりました。
そして、日の丸鉢巻姿で、バルコニーから自衛隊のクーデター蹴起を呼びかけたものの、Wikiによると自衛官たちからはやじや反論があっりました。
自衛官たちは一斉に、「聞こえねえぞ」「引っ込め」「下に降りてきてしゃべれ」「おまえなんかに何が解るんだ」「ばかやろう」と激しい怒号を飛ばした。「われわれの仲間を傷つけたのは、どうした訳だ」と野次が飛ぶと、すかさず三島はそれに答えて、「抵抗したからだ」と凄まじい気迫でやり返した。要するに、自衛隊の共感は得られませんでした。
すると、約10分の演説の後、「貴様ら、それでも武士か!」と怒鳴って総監室に消え、古式に則り割腹自決の上首をはねさせたのです。
楯の会は、1968年(昭和43年)10月5日に正式結成。
三島由紀夫さんは常々、左翼革命勢力による日本への間接侵略に対抗することを標榜し、民族派の学生を中心とし最盛期には100名を超える隊員を擁していたそうです。(楯の会 – ピクシブ百科事典)
この事件は、別名『楯の会事件』ともいわれています。
著者は、時代背景をこう説明しています。
日の丸鉢巻姿で演説を始めると、隊員からは野次や非難が飛び、指を差して笑う者もいたという。約10分の演説の後、彼は「貴様ら、それでも武士か!」と怒鳴って総監室に消え、古式に則り割腹自決したのだ。海外でも知名度の高かった 作家だけに、「ハラキリ」のニュースは驚きをもって報じられた。
著者は、三島由紀夫 さんとは家族ぐるみの長い付き合いがあったそうです。
三島由紀夫さんの妹さんは、著者の姉と大学の同級生で親友。
外務省に入っていた三島由紀夫さんの弟は、著者の東大同期で交遊があったそうです。
家族ぐるみという言葉がありますが、少なくとも姉弟ぐるみの付き合いがあったんですね。
本書によると、第2次反安保闘争は機動隊が動き、『楯の会』の出番がなくなってしまいました。
もちろん、私兵組織に機動隊の仕事をされては困ります。
著者が警備第一課長として、機動隊の大量集中配備によって、事態の早期収拾に成功していたのです。
三島由紀夫さんに対して著者は、「もうゲバ闘争は終わりです。あなたも文学の世界に戻られてはいかがですか」と説得したといいます。
ちょっと生々しい表現もあるので、ご注意下さい。
知り合いだっただけに、よりショッキングだったでしょうね。
文学座を割った喜びの琴事件
私は、三島由紀夫さんというと、文学座を割った出来事『喜びの琴事件』を思い出します。
三島由紀夫さんが文学座の舞台脚本を書いていたとき、『喜びの琴』という劇が、反共主義思想を信じる主人公として描かれていた政治色の強い作品であったために、キャスティングされた北村和夫さんがセリフの一部を拒絶しました。
そこで、杉村春子さんら幹部は上演中止とし、三島由紀夫さんは退団。
すると、三島由紀夫さんに心酔していた大幹部の中村伸郎さんを筆頭に、以下多数なので敬称略しますが、青野平義、奥野匡、荻昱子、賀原夏子、北見治一、丹阿弥谷津子、寺崎嘉浩、仁木佑子、真咲美岐、南美江、宮内順子、水田晴康、村松英子ら、これまた知名度のある俳優が大量に離脱しました。
「喜びの琴」事件で文学座と訣別した三島由紀夫の出した声明、声に出して朗々と読みたくなる文章すぎる。これくらい流麗にブチ切れてみたいもんだ……https://t.co/HTYgbe3DTM pic.twitter.com/h2PaLf4HDf
— 瀬尾はやみ (@hayamiseo) March 9, 2020
これは、左翼的立場にある杉村春子さんが、劇に政治を持ち込み三島由紀夫さんを切ったようにいわれますが、それは三島由紀夫さんの側にもいえる“お互い様”で、杉村春子側を一方的に悪く言うのはおかしいと思います。
現に、離脱した1人の村松英子さんは現在も日本会議側の人であり、同劇は浅利慶太さんによって公演が行われている以上、三島由紀夫さんの確信犯的「踏み絵」であり仕掛けた分裂だったと思います。
もっとも、時がすぎると過去の話になるらしく、北村和夫さんは田宮二郎版『白い巨塔』で、財前五郎側の代理人になり、東教授役の中村伸郎さんと対決しています。
また『俺たちの旅』では、南美江さんや名古屋章さんとも共演しています。
一方、杉村春子さんは、いったん離脱した人は絶対に許さず、文学座の復帰はもちろん、テレビドラマや映画の共演も一切拒絶したそうです。
テレビドラマの売れっ子もたくさんいますし、杉村春子さんにとっても決して得策ではなかったと思いますが、損得抜きで信念を貫く態度は、けだし組織の幹部として信頼が置けます。
騒動のもととなった北村和夫さんは、そこまで頑なではなかったのですが、またこれはこれでひとつの見識であると思います。
以上、重要事件で振り返る戦後日本史 日本を揺るがしたあの事件の真相 (佐々淳行著、SB新書)は、著者が関わりを持った事件を回顧、でした。