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クロスロード (鎌田敏夫著、角川文庫) は、高校時代の同級生9人が1年に1度、思い出の橋で会う約束をして10年後までを描いた小説

クロスロード (鎌田敏夫著、角川文庫) は、高校時代の同級生9人が1年に1度、思い出の橋で会う約束をして10年後までを描いた小説

クロスロード (鎌田敏夫著、角川文庫) は、高校時代の同級生9人が1年に1度、思い出の橋で会う約束をして10年後までを描いた小説です。『飛び出せ!青春』『俺たちの旅』など、友情や生きる意味、悩み、喜びなどを活写した青春群像劇を思い出します。

『クロスロード』は、ドラマ脚本家として数々の実績を残している鎌田敏夫さんが書いた青春小説で、角川文庫から上梓されています。

ドラマ脚本家と言っても、本作はノベライズ(ドラマを原作にして小説にすること)でもないし、ドラマ化されたこともありません。

正真正銘、小説としてだけ、発表されたものです。

通学路に、同じ橋を通った高校の同級生10人のうち、卒業して6年目の夏に1人が早逝。

葬儀で再会した残る9人は、1年に1度、思い出の橋で会う約束をしました。

その年によって、欠席者は出ましたが、10年間、橋の同窓会は続きました。

その間、高校時代の延長だった橋の上の集まりは、いつしか「特別な時間」へと変化していきます。

恋、結婚、仕事、不倫、挫折など、それぞれが人生でもっとも揺れ動く時期を、9人はこの同窓会でお互い打ち明け合い、少しずつ大人へと成長していく青春の軌跡を描いています。

鎌田敏夫さんの世界である、人のつながりを通して、決して特別な設定ではないのにせつなくなる感動的なストーリーが展開されます。

目次は、第1章から第10章までありますが、すべて章題は「○年目の橋」。

○には章数が入ります。

初出は、1998年です。

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幸せだけで生きていける人間と幸せだけでは生きていけない人間

24歳の夏。

通学路に同じ橋を通った高校の同級生10人のうち、地元の短大を出て保母になった桐沢弥生が早逝しました。

葬儀に集まった9人。

「一年に一度、ここで会わないか?弥生が会わせてくれたんだから、一年に一度、この橋で会おうよ」

その後、9人は途中で8人になりますが、橋の上での会話は、「この橋の上でなら全てをさらけだせる」という思いで、彼らは「今」と、そこに関連する「過去」を打ち明けます。

恋、結婚、仕事、不倫、挫折など、その年代らしい出来事を経験し、高校時代と同じままではなくとも、橋の同窓会を、その「人生の句読点」として心の支えにしているのです。

24歳~33歳までの「句読点」を、毎年毎年10年にわたって描いていく作品。

これって、『俺たちの旅』でもやっていたような。

それは後述します。

26歳と27歳とか、30歳と31歳とか、その1年で人生の方向性の違いを描くというのはなかなかむずかしいですよね。

でもたしかに、恋愛や結婚や仕事の異動・転職・昇進など、この時期にはいろいろあります。

歳を取ってしまうと、「いろいろあったなあ」で終わってしまうことかもしれませんが、そこにこだわって事細かに書き続けた、鎌田敏夫さんらしい世界なのです。

メンバーは、美人でロシア人の先祖が入っていると言われた清水香織。

タクシー会社社長の息子で、夢を叶えるためハリウッドへ行った児玉知己。

葬儀の時点で唯一人人妻だった藤沢夏絵。

その藤沢と、お互いが婚姻後も付き合いを続け、その関係を主人公だけには打ち明けていた川口史明。

物事を斜めから見たがる独善的な印象だったが、実は毒親に苦しみ、大病院の娘と結婚するも途中で自殺する西条影一。

西条影一とは罵り合いながらもお互いを思いやり、亡くなった弥生が好きだった竹井昭。

秀才だったが不倫関係を断ち難く、結局は会社をやめて10人の1人だった竹井昭と同じ職場で働くことになった押川真弓。

主人公が高校時代憧れていた存在で、老舗の菓子屋の娘ながら東京の名門女子大に入り、広告で賞を受賞するなどもっとも華やかな仕事をしている石沢伸子。

そして、主人公は、高校時代はサッカー部の安定感あるゴールキーパー。勉強もそこそこ出来て地方の国立大学工学部に入り、大阪のそこそこ大きな会社に就職。実家もそこそこ大きな酒屋で、親に言われると後をついで見合い結婚と、もっとも破綻のない人生を歩む前野。

ずっと読み返したのですが、下の名前が確認できませんでした(汗)

これを読まれた方で、下の名前がおわかりの方は、ご一報いただけると幸甚です。

それで、いきなりクライマックスに話が移ります。

この9人の中には、メンバーの中で同棲したり、お互い配偶者がいるのに関係を続けたりと、まあお盛んなんですが、主人公の前野だけは、それが全くありません。

厳密に言うと、香織に迫られた時がありましたが、「安売りするな」と諭して、結局何もありませんでした。

では、そういう感情がまったくなかったかというと、実は石沢伸子にこっそり想いを寄せており、高校時代は進学塾のZ会の小説コンクールで、彼女をモデルにした作品を書いて入賞したほどです。

しかし、だからといって、伸子に告白するデモなし、作家になるでもなし。

もともと恵まれた家庭環境で、部活も進学も就職も、そこそこの結果を出すと、それ以上を望まない安定した人生でよしとしていました。

しかし、他の人達はそうでなかったため、前野の想像を超える人生を過ごしていたのです。

そして、10年目に橋に来たのは、前野と伸子でした。

伸子は、本当は前野が好きだったと告白。

いえ、過去形ではなく、今も好きな関係になりたいと告っているのです。

アトランタに行く仕事が決まっていましたが、もし前野が好きだと言ってくれたら、それをやめて日本に留まりたい、といわんばかりです。

それに対して、妻子のいる平和な暮らしをしている前野は、何と言って断ったか。

この物語の、まさに主題となるところです。

世の中には、二種類の人間がいるって、おれは思っている。幸せだけで生きていける人間と、幸せだけでは生きていけない人間と

「幸せがつづくと窒息しそうになる人間だよ。……」

「幸せだけだと窒息しそうになる人間。通りいっぺんの幸せでいいなら、きみは、とっくにそれを掴んでいる」

「きみは、幸せよりも、もっと激しいものを追い求めていく人間だよ。近くのものではなく、遠くにあるものを掴んでいこうとする人間なんだよ」

「前野くんは、どっち?」

「おれは幸せだけで生きていける人間なんだ。だから、さっさと見合い結婚をした。きみに対するあこがれを、心の奥にしまい込んで」

本当は前野は、この10年間、彼女がどんな服装で「橋の上の同窓会」に来たかまですべて覚えているほど、彼女に今も夢中なのです。

前野は、自分の生き方を本文で、「やるべきことをする人間ではなく、できることをする人間」と表現しています。

つまり、理想や目標を打ち立て、もしくはそれらしきものがあったらそれに向かって進むのではなく、目の前の課題を確実に処理する人生、ということのようです。

つまり、たとえ理想の女性が彼女であっても、目の前にお見合いがあり縁あって結婚したら、その幸せな結婚生活を守るのが自分の人生、ということです。

いやー、これは大名言ですね。至言です。

まさに、人生の分かれ道は、そこにあるといっていいかもしれません。

そして、前野の生き方は、女性たちからこう評価されていました。

『平凡に生きるには、才能がいる』

理想や目標に引っ張られて、目の前の確かな幸せをご破産にしてしまう人が、どれだけ多いことか。

他のメンバーは、大なり小なり、そういう「冒険」で人生の陰翳を作っている。

でも、前野だけはそうではない。前野だけは幸せな家庭生活を営んでいる、という話です。

ただ、ただですよ。

人生は、理想や目標を追うことが間違いである、とも決して言えないですよね。

それがあるから、人生の張り合いとか、生きている実感とかもあるわけです。

恵まれた「ほしのもと」の前野くんだから、そんな受け身でもそこそこの人生が送れるのであり、思いっきり走り続けないと生きていけない人生もあります。

ですから、そこに、人生とはなんだろう、という価値観の深さがあるわけです。

これほどの名作を、ドラマ化しないのは惜しいような気がしますが、逆に言えば、この小説を知ったものだけが味わえた思いの深さのような充足感もありますね。

人間がすることには、すべて、そうしなければいけない理由がある

結局、結ばれなかった前野と伸子ですが、これは、やはり鎌田敏夫さんの代表作である『俺たちの旅 二十年目の選択』を思い起こします。

結婚生活に恵まれなかったカースケ(中村雅俊)が、やはり幸せな結婚生活を送っているとはいえないヨーコ(金沢碧)に対して、自分の気持ちを打ち明けようとすると、告白を予感したヨーコは、「子供が出来た」と嘘をついて、告白自体をさせずに別れました。

もちろん、ヨーコは、カースケが嫌いになったわけではありません。

2人のことを「きれいな思い出のままにしたい」というには、お互い切羽詰まっていました。

決断するなら、「今でしょ」といえるチャンスであったわけです。

しかし、結ばれなかった。

ヨーコは避けた。

鎌田敏夫さんは、「やるべきことをする人間」(カースケ)と、「できることをする人間」(ヨーコ)のすれ違いを描きたかったのかもしれない、と私は気が付きました。

ちなみに、『週刊現代』(2015年1月17・24日号)の、『あの「TVドラマ」最終回はこうでした』という特集ページには、岡田晋吉(元日本テレビプロデューサー)、柏原寛司(脚本家)という、とくに70~80年代のテレビドラマ史を語る上で重要なクリエーター2人が、『「史上最強の最終回」はこれだ!』というタイトルで、当時のドラマづくりについて振り返る対談を行っています。

『俺たちの旅』は実はカースケと洋子の旅だったから洋子が没した『俺たちの旅30年SP三十年目の運命』が最終回だった件
『俺たちの旅』といえば、中村雅俊、津坂まさあき(秋野太作)、田中健、そして途中から森川正太が合流した若者の生活を「旅」として描いたものですが、実は中村雅俊演じるカースケと金沢碧演じる洋子の旅だったから続編はない、という見方もあります。

『俺たちの旅』では、放送当時は、「オメダと洋子を一緒にしてくれ」という投書が多くて迷ったそうです。

これは初耳でしたが、少なくとも鎌田敏夫さんが考えていたのは、決して三角関係ではなく、あくまでカースケと洋子の「すれ違い」であったと思います。

なぜなら、オメダの洋子に対する思いは一方通行であり、洋子は決してカースケから視線を外さなかったからです。

鎌田敏夫さんの作品といえば、『金曜日の妻たちへ』(1983年2月11日~5月13日、TBS)も有名です。

『来て!見て!感じて!』(海竜社)は、脚本家の鎌田敏夫さんが生み出した名作や名台詞の背景となった自身の生活や考え方エッセイ
『来て!見て!感じて!』(海竜社)は、脚本家の鎌田敏夫さんが生み出した名作や名台詞の背景となった自身の生活や考え方をまとめたエッセイです。ドラマの作り手は、生きるためにセリフを書き、セリフは過去への懺悔であり明日への希望でもあると綴っています。

視聴率も上がった人気番組ではありましたが、一方では「不倫を扱うとは何事だ」という批判もありました。

鎌田敏夫さんは、そのような安易なレッテル貼りには、本書でこう反論しています。

人間がすることには、すべて、そうしなければいけない理由がある。それがぶっつかる、どうすることもできない切なさを描いたから、視聴者が泣いてくれたのです。
「不倫」、そんな言葉から出発してしまえば、そこにある男と女の切なさをすべて見逃してしまうことになります。倫理、そんなものは現実に任せておけばいいのです。

本作にも、不倫は出てきますが、まさに「男と女の切なさ」を描くためであるということがわかります。

いやー、それにしても、深い深い作品です。

みなさん、ご一読をおすすめします。

以上、クロスロード (鎌田敏夫著、角川文庫) は、高校時代の同級生9人が1年に1度、思い出の橋で会う約束をして10年後までを描いた小説、でした。


クロスロード (角川文庫) – 鎌田 敏夫

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