高次脳機能障害のリハビリがわかる本(橋本圭司著、講談社)は、脳損傷後に現れる後遺症への効果的なリハビリを徹底解説した書籍です。損傷した脳は元通りにはならないので、「元に戻そうと思わないこと」が大切なこととといいます。
『高次脳機能障害のリハビリがわかる本』は、橋本圭司医師が、講談社から上梓した書籍です。
橋本圭司さんは、独立行政法人国立成育医療研究センターリハビリテーション科医長・発達評価センター長を経て、現在は独立されはしもとクリニック経堂の院長です。
高次脳機能障害の第一人者といっていいと思います。
高次脳機能障害リハビリの第一人者
11年前、私の店舗兼用住宅が火災になりました。
妻は一酸化炭素中毒と気道熱傷で心肺停止、子供たちはJCS300(深昏睡)という、今思い出しても震えが来る経験です。
長男は長く昏睡を続け、遷延性意識障害の診断を受けました。
なんとかしたいと、ネットで生還した症例を調べ、その担当医師や、リハビリの書籍を上梓している著者などを調べました。
その際、リハビリの第一人者が紙屋克子さんであることを知り、入院していた大学病院のソーシャルワーカーにつないでいただき、状態を逐一報告しながらアドバイスを頂きました。
その後、高次脳機能障害に「回復」。
今度は橋本圭司さんにつないでいただき、現在もお世話になっています。
一般論としては、名前が知れていることが必ずしも名医ではありませんが、有名な先生のところには、多くの人が診察を求めますから、たくさんの臨床経験をされています。
それが大事なのです。
実際に、私は紙屋克子さんや橋本圭司さんにお世話になれて、大変有効なリハビリをできたのではないかと思っています。
もし、ケガや病気になったら、その分野の第一人者に相談できるよう、ダメ元でツテがなくてもソーシャルワーカーに相談するとよいと思います。
リハビリの極意は「元に戻そうと思わないこと」
橋本圭司医師のリハビリの持論は
できないところではなく、できるところが大事
健常者と同じになろうとするのではなく、自分の『できる』『得意』を知って伸ばせばそれでいい
ということは、すでにご紹介しました。
橋本圭司医師は、言葉が出ないからと言語、記憶が続かないからと記憶力のリハビリをしても、あまり効果がないといいます。
なぜなら、言語中枢がダメージを受けて言葉が出てこない人に対して、いくらそこを鍛えようとしても難しい。
損傷した脳は元通りにはならないので、「元に戻そうと思わないこと」といいます。
では、そういう人は人生を諦めるべきか?
そうではなく、だめになったところを直接なんとかしようとするより、残っているところを刺激するほうが効果的だというのです。
高次脳機能障害の人でいえば、直接高次脳をリハビリするのではなく、低次脳を鍛えることによって脳を活発化させ、高次脳機能の損傷を補えるようにするといいます。
橋本圭司医師は、開業してすぐの頃は、はしもとクリニック経堂において、高次脳機能障害のお子さんと、その家族数世帯を対象としたグループリハビリを行っていました。
に参加してきました。東京・世田谷にある、はしもとクリニック経堂院長の橋本圭司医師(高次脳機能障害リハビリ)が主催するもので、毎月定期的に行われています。
高次脳機能障害とはいったいどうなってしまうのか
そこでまず教えていただいたのが、発達障害、高次脳機能障害、認知症の違いについてです。
高次脳機能障害というのは、認知症とどう違うのでしょうか。
というのも、以前は高次脳機能障害は、若年性アルツハイマー症なんて言われたこともあったのです。
発達障害、高次脳機能障害、認知症の違いについては、以下の説明を受けました。
この表では、発達障害と高次脳機能障害は別のものとして説明されていますが、子供の高次脳機能障害は発達障害として扱われます。
では、高次脳障害になるとどうなってしまうのか。
ダメージの度合いによって違いますが、共通しているのは、イライラしやすく怒りっぽい、集中力が低下して人の話を最後まで聞けない、また聞いてもそれを受け入れられない、何度同じことを言われても忘れてしまうなどです。
受傷前を知っている人からは、「まるで人が変わったようだ」と言われることもあります。
外見は受傷前と同じなので、気づかれにくい「見えない障害」とも言われます。
そんな高次脳機能障害の人には、どう対処すればいいのか。
橋本圭司医師は、「基本的な対応を知ってほしい」として、
- 脳に酸素をおくる
- 否定的なことを言わない
ことが大切であるとしています。
高次脳機能障害の症状のひとつに、易疲労性というものがあります。
要するに、脳が普通の人よりも疲れやすいのです。
具体的には
- 何事にも耐久性がない
- いつもあくびばかりしている
- 反応が鈍い
などの症状ですが、これらは脳の酸素不足が原因なので、脳に酸素を送ることで改善するそうです。
具体的には散歩や運動です。
そして、たとえば高次脳機能障害の人が、会議中にあくびをしたり、話したことを忘れたりしたからと言って、集中力が足りないとか、失礼だとか言って責めないでほしいということです。
この場合、事故で受傷したことがわかっている人はもちろんですが、中には頭を打っても医師の診断を受けず、本人も知らないうちに、高次脳機能障害になっている場合もまれにあります。
ですからむしろ、あくびの多くなった人、集中力が著しく低下した人は、高次脳機能障害のサインだと見て注意が必要です。
もっとも、発達障害、高次脳機能障害、認知症、いずれも、自分で自分を障害者だと思っていない点が共通しています。
自己モニタリングの障害です。
こうした病識のない障害者(児)を相手に療育やリハビリを行う場合のポイントは、「口数を少なく」「否定的なことを言わない」ことだそうです。
つまり、指示は短くシンプルにする。5~7秒程度にします。
「~してはダメ」ではなく「~するといいよ」と、肯定的な言い方に変えて伝えるようにします。
そしてできないところ、悪いところを叱ったり責めたりするのではなく、できるところ、得意なところを褒めて伸ばすことが大切なのだそうです。
神経疲労には食べ物も大事で、ビタミンB1、クエン酸の摂取を心がけるとよいそうです。
具体的には、豚肉、大豆、昆布、トマトなどです。
ケトン体がてんかん発作対策に
それと、脳障害には、ケトン食が注目されています。
ケトン体とは、脂肪合成や脂肪分解の過程で発生する中間代謝産物であることは以前ご紹介しました。
体がエネルギーを消費し、体内のグルコース(ブドウ糖)が減ってくると、肝臓に蓄えられているグリコーゲン(グルコースが結合した高分子)が、グルコースに分解されて利用されるようになります(糖新生)。
しかし、それは無限ではなく24時間ほどで枯渇してしまうため、その後は筋肉中のたんぱく質や脂肪細胞に蓄えられている脂肪酸が、エネルギーとして使われます。
ただし、中性脂肪はそのままだとエネルギー源として利用できないため、肝臓でアセチルCoAという物質にまで分解されます。
そのアセチルCoAから作られるのがケトン体なのです。
たとえば、高次脳機能障害によるてんかん発作はよく聞きますが、ケトン食によって対策することが医療現場でもあります。
高次脳機能障害は、脳の「障害」ですから、食べ物で治るようなものではありませんが、ケトン体によって発作が抑えられるという報告はありますから、リハビリというより、てんかん対策として覚えておきたいところです。
以上、高次脳機能障害のリハビリがわかる本(橋本圭司著、講談社)は、脳損傷後に現れる後遺症への効果的なリハビリを徹底解説した書籍、でした。