高次脳機能障害~我が子を忘れてしまう!~(宮城朗子著、秋水社ORIGINAL)は、くも膜下出血受傷者の苦悩と決意を描いたコミックです。昨日まで健常だった人が、脳卒中や心筋梗塞などの病気が原因で、障碍者になることだってあり得るという話です。
『高次脳機能障害~我が子を忘れてしまう!~』は、宮城朗子さんが秋水社ORIGINALから出版されているコミックです。
タイトル通り、くも膜下出血に倒れた主婦が、一命をとりとめたものの、脳を受傷して高次脳機能障害になってしまいます。
我が子の名前や性格まで記憶から消えてしまうのですが、脳にハンデを背負っても、母親として子供を育てようと決意する話です。
くも膜下出血とは、脳卒中の一つです。
脳卒中は、脳の血管が詰まったり破れたりすることによって、脳が障害を受ける病気の総称です。
脳卒中には、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、破れる「脳出血」や「くも膜下出血」があります。
「破れる」うち、脳の内部にある血管から出血して脳が壊されるものを脳出血(脳内出血)、脳の表面にある血管(動脈瘤)から出血して脳表が血液で覆われてしまう疾患をくも膜下出血といいます。
いずれにしても、脳卒中を発症すると、障害を受けた脳が司っていた身体機能や言語機能が失われたり、場合によっては死に至ることもあります。
さて、今回の漫画の設定は、くも膜下出血です。
くも膜下出血とは、脳の表面にあるくも膜下腔(脳とくも膜の間のスペース)内で出血が起こることを指します。この出血は、くも膜下膜(くも膜下腔を覆う膜)とくも膜下腔内の血管から出血することが多いです。
くも膜下出血は、突然の頭痛、意識障害、嘔吐、けいれん、片麻痺、視野の欠落など、重篤な神経症状を引き起こす可能性があります。
一般的に、この病気は高齢者に多く見られ、特に高血圧、糖尿病、動脈硬化などのリスクファクターがある人に発症する傾向があります。
くも膜下出血は、CTスキャンやMRIなどの画像検査によって診断されます。
治療は、出血が原因で脳の圧力が上昇している場合には、手術が必要となることがあります。
手術によって、血腫を除去し、脳圧を軽減することができます。
また、脳圧の管理や、予防的な治療として、高血圧や喫煙などのリスクファクターを管理することが重要です。
くも膜下出血は、重篤な病気であり、早期発見、診断、治療が重要です。医師による適切な治療を受け、リハビリテーションによって、患者の回復を促すことができます。
くも膜下出血になると、30パーセントの人は治療により後遺症なく社会復帰できるものの、約50パーセントは初回の出血で死亡するか、病院にきても治療対象とならず、残り20パーセントでは後遺障害を残すといわれています。
発症してからの、意識の状態が予後に関連するといわれます。
高次脳機能障害に悩む物語
物語は、そのくも膜下出血になり、後遺症なく社会復帰できる30パーセントには入れず、一命はとりとめたものの、後遺障害を残す20パーセントになりました。
その後遺症名が、高次脳機能障害です。
高次脳機能障害は、大脳皮質の前頭葉、頭頂葉、側頭葉、扁桃体などの高次脳機能を担う部位の障害によって引き起こされる症状の総称です。
高次脳機能には、認知機能、言語機能、感情・行動制御機能、社会的認知機能、実行機能などが含まれます。
そのため、高次脳機能障害には、多岐にわたる症状が見られます。
具体的には、以下のような症状が挙げられます。
- 言語障害
- 記憶障害
- 注意障害
- 判断力・問題解決力の低下
- 情動障害
- 社会的認知障害
- 空間認知障害
言葉が出なくなったり、言葉の意味が理解できなくなったりする
新しい情報を覚えることができなくなったり、記憶が定着しなくなったりする
集中力が低下したり、継続して作業をすることができなくなったりする
複雑な問題に対応できなくなったり、判断が誤ることがある
感情表現が適切でなくなったり、制御ができなくなったりする
他人の視点や感情を理解できなくなったり、社会的なルールやマナーを守れなくなったりする
空間の把握が難しくなったり、物の位置や方向を正しく把握できなくなったりする
高次脳機能障害は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、外傷性脳損傷、脳腫瘍、神経変性疾患などが原因となることがあります。
治療には、症状に応じたリハビリテーションや薬物療法、手術などがあります。
高次脳機能障害については、このブログでは度々ご紹介してきました。
ノンフィクション、もしくは物語について簡単にご紹介します。
私の長男が、遷延性意識障害から高次脳機能障害に「回復」したリハビリについては、『植物人間が歩いた!話した!ごはんも食べた!遷延性意識障害からの生還』(みおなおみ著、市井文化社)で書かれています。
同書では、高次脳機能障害に「回復」できたところまでで、回復後のリハビリは今後刊行予定です。
『がんばれ朋之!18歳、植物状態からの生還265日の記録』(宮城和男著、あけび書房)は、オートバイの交通事故で頭をうち、脳がびまん性軸索損傷(DAI)という大怪我をしてしまった当時高専生の松本朋之さんの話です。
私は、この本を読んだことで、長男のリハビリに対して前向きになれました。
『消えた記憶』(なかのゆみ著、笠倉出版社)は、交通事故から少なくとも中度以下の高次脳機能障害になってしまった夫を、妻や娘が支えることで、簡単な労働ができるまでに社会復帰する話です。
高次脳機能障害の漫画では、もっとも長男に近い所見があったので、印象に残っています。
『やさしい夫が横暴男に豹変した日~高次脳機能障害の悪夢~』(宮城朗子著、ユサブル)は、高次脳機能障害で別人のようにキレやすくなった夫に悩む妻を描いています。
脳障害には、感情の抑制が効かなくなることがあります。
『脳が壊れた』(鈴木大介著、新潮社)は、41歳のルポライターが突然脳梗塞を発症。一命はとりとめたものの軽度の高次脳機能障害になった話です。
軽度だから「軽い」わけではなく、むしろ可視化されないことで、周囲の理解と支援が得にくい大変さがわかります。
これらの書籍は、それぞれ別の所見があります。
つまり、高次脳機能障害は様々な症状があり、脳のどこがどの程度傷害されるかによって出方も違います。
また、脳の回復については、以前は脳細胞は回復しないと言われていましたが、最近ではそうではないという報告もあり、実のところ医療従事者でも、予後については読めない障害です。
何しろ、私の長男は、MRIで調べたところ、あまりにも脳の損傷が激しいので、どこが原因で脳波が異常かなどがわからないといわれてしまいました(涙)
ま、それでも生きているのだからスゴイですよね、しかも大飯食らいで(笑)
誰でもいつでも障碍者になり得る
主人公の主婦・葉月は、子どもが小さいのにクモ膜下出血になり、一命はとりとめたものの、高次脳機能障害になります。
気がついたときは、子供の名前などは覚えていましたが、退院して料理を作っていても、卵は割ったのに、それを忘れてまた割ってしまうとか、家を出てから、「あれ、何の用事があって出かけるんだっけ」などとわからなくなるなどの状態に陥ります。
昔のことは覚えているのに、ついさっきのことを忘れてしまう。
まるで認知症のような状態です。
それでも、医師に相談すると、「あなたはまだマシな方だ」と慰められます。
人によっては、記憶だけではなく、言葉や地理感覚まで忘れたり、性格まで変わってしまったりするといいます。
しかも、葉月はそもそも自分が高次脳機能障害である、ということすら忘れてしまいます。
いったんは、命を絶とうとまで悩みますが、迷子になった子どもが、自分を求めていたことを知り、また生きる気持ちを持つようになります。
本書は、マンガ図書館Zというサイトで、無料で閲覧できます。
宮城朗子 『高次脳機能障害~我が子を忘れてしまう!~』 #マンガ図書館Z https://t.co/FBoSai22C2
— 赤べコム (@akabecom) March 18, 2023
まあ、当事者やその家族以外の方にとっては、ピンと来ないことかもしれませんが、中途障害というのは、いつ、どこでそうなるかわかりません。
主人公の葉月も、とくに深酒を繰り返したとか、睡眠不足だったとか、ストレスを貯めていたとか、といったようには描かれていません。
まあ、あまり気にしすぎても生きるのがつまらなくなりますが、高次脳機能障害という障害があるのだ、ということはぜひ知っておいていただきたいですね。
以上、高次脳機能障害~我が子を忘れてしまう!~(宮城朗子著、秋水社ORIGINAL)は、くも膜下出血受傷者の苦悩と決意を描いたコミック、でした。
高次脳機能障害~我が子を忘れてしまう!~ (素敵なロマンス) – 宮城朗子
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