『2週間で効果がでる! ケトン食事法』(白澤卓二、かんき出版)は、ケトン体のエネルギー産生による健康や脳の状態の改善を解説しています。糖分を徹底的に制限したケトン食とともに、化学調味料や食品添加物も抑え満腹まで食べないことだといいます。
本書は、ケトン体というエネルギーが産生されることで、
- ダイエット
- 気力・集中力のアップ
- 病気への抵抗力が高まる
- 糖尿病予備軍の仲間入りをせずにすむ
といったメリットがあるといいます。
では、どんな状態のときにケトン体が産生されるのか。
そのためには、日常からどのような食生活を行うべきかが述べられています。
糖質中心の食事から脂肪酸を分解したケトン体へ
『2週間で効果がでる! ケトン食事法』は、医師の白澤卓二さんが、かんき出版から上梓した書籍です。
私は、Kindle版で拝読しました。
白澤卓二さんは1958年、神奈川県生まれ。
順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。
専門は寿命制御遺伝子の分離遺伝学、アルツハイマー病の分子生物学・分子生理学、アスリートの遺伝子研究など。
日本抗加齢(アンチエイジング)医学会理事とあります。
どうやら、健康や老化防止の専門家ということがわかります。
本書の結論は明快です。
完全糖質制限を2週間続ければ、体脂肪をエネルギー源として使用するケトン体体質に改善される。
ということです。
タイトルの『2週間で効果がでる!』とは、そういうことです。
本書は、ケトン体体質がなぜ必要なのかという理由で、いかに糖質がよくないかをこれでもか、これでもかと書き綴っています。
では、なぜ糖分が多いと問題なのか。
本書によると、炭水化物は摂取後2時間ほどで、ブドウ糖に変化します。
脳はブドウ糖と酸素、ケトン体をエネルギー源としていますので、ブドウ糖は必須の栄養素です。
もし、血中のブドウ糖があまりにも多いと、脳は膵臓に血糖の調整を命令をし、インスリンが分泌されます。
砂糖のたっぷり入ったスイーツや清涼飲料水などを常飲・常食していると、つねに膵臓からインスリンが分泌されていて、インスリンによる血糖値の調整がうまくできなくなることがあるといいます。
たとえば、普段より食べる量が少なかったり、運動量が多かったりすると、インスリン薬の作用で血糖値が低くなりすぎることがあります。
糖尿病を患っている人は、低血糖を打ち消すための物質である、グルカゴンやアドレナリンを体内で十分につくれないため、こうした状況で低血糖を起こしやすくなるといわれています。
低血糖状態になると、脳にブドウ糖がいきわたらなくなり、ホルモンや自律神経系に影響がでてくるためにいろいろな弊害が現れてきます。
つまり、糖尿病の人は、高血糖のときだけでなく、低血糖のときも正常でない状態になるわけです。
白澤卓二さんは、低血糖になったときに一番多い現象をこう枚挙しています。
- 集中力がなくなる
- すぐにイライラする。
- 感情のコントロールができない
- 不安感がある。
- 落ち込みやすい
- 日中いつでも眠い
- 不眠
- 呼吸が浅い
- 目がかすむ
- 物忘れ
- 甘いものが食べたくなる
白澤卓二さんは、その例として、昨今のメディアを賑わせる、学校や会社でのいじめ、些細なことでの殺人事件などを挙げます。
「イライラ」や「憎しみ」「敵意の感情」は、脳の大脳辺縁系が司っていますが、副腎髄質から分泌される血糖値を上昇させるためのノルアドレナリンとアドレナリンが大脳辺縁系を刺激し、前頭葉が麻痺することで理性的な判断ができなくなってしまうというのです。
そこで、ケトン体です。
本書によると、私たちが活動するときの素になるエネルギー源は、炭水化物などが分解されることで、細胞内のミトコンドリアにある解糖系(クエン酸回路)で代謝されてエネルギーがつくられます。
解糖系の基本的なエネルギー源は炭水化物ですが、血液中のブドウ糖が不足すると、肝臓に蓄えられているグリコーゲンがブドウ糖に分解されて血液に送られるそうです。
しかし、肝臓に蓄えられているグリコーゲンは、一般の成人男性で約100グラム。
運動などをしていると、約3時間程度で肝臓に蓄えられているグリコーゲンはなくなってしまうといいます。
その場合、筋肉などにあるたんぱく質が分解されてエネルギーとして利用されますが、それでも足りなかった場合は、脂肪酸から作り出されるエネルギー源であるケトン体が利用されるようになります。
まとめると、エネルギーの産生は、
ブドウ糖が不足したときエネルギー源の流れは、血液中のブドウ糖⇒肝臓のグリコーゲンでつくられたブドウ糖⇒筋肉のたんぱく質でつくられたブドウ糖⇒脂肪酸を分解したケトン体
になるといいます。
ケトン体は、脳の栄養になり、ケトン食はてんかんやアルツハイマー病、心疾患などに対する療法として用いられています。
白澤卓二さんは、ケトン体が産生されるようになることで、糖質中心の食事で生じるリスクのある、上掲の「低血糖」の問題点が克服されるとしています。
そのために、2週間、ごはんを抜いた食事メニューで、ケトン体回路が産生しやすい体の状態を作り、その後もご飯は従来の半分ぐらいにする、ケトン体回路によるエネルギー産生を啓蒙していてます。
オール・オア・ナッシングでいいのか?
本書は、とにかく徹底した糖質制限に振り切っています。
しかし、素朴な疑問として、オール・オア・ナッシングでいいのか、という点で完全にクリアな読後感はいだけませんでした。
つまり、糖質制限することによるデメリットとの衝突について、解決策が書かれていないからです。
たとえば、『腹7分が最高の健康法』というところでは、まず貝原益軒の『養生訓』から「腹八分目」を引用しています。
そして、次に、「アメリカのウィスコンシン大学の実験」で、それが科学的に立証されたと紹介しています。
それによると、 人間に近い遺伝子を持っているアカゲザル約80匹を3年間飼い続け、食事の量の違いで健康状態がどのように変化するかを観察しました。
その結果、「満腹になる量の餌」を与えたグループよりも、「通常の70パーセントの量の餌」を食べていたアカゲザルのグループのほうが寿命も長く(平均寿命6歳)、病気になりにくいという明確な答えがでたといいます。
白澤卓二さんによると、これは「長寿遺伝子のSirt2が関係」していて、Sirt2遺伝子は低体温で飢餓状態の時に活性化するので、食べ過ぎないことが一番といいます。
問題は、この後です。
「もっとも、低体温は免疫力を下げるといわれていますが、長寿遺伝子が活性化することを考えたら、どちらがいいかはいうまでもないでしょう。」とありますが、本当に「いうまでもない」でしょうか。
「免疫力」と「長寿遺伝子」の衝突について、答えを出していません。
だって、「免疫力を下げ」て、新型コロナ肺炎で急死するかもしれません。
長寿遺伝子のちからがどれぐらいかわかりませんが、免疫力を下げた状態で、がんや感染症に打ち勝てる保証なんてないでしょう。
もう少し突っ込んでおくと、貝原益軒の『養生訓』のくだりは、よく読むと、たんなる貝原益軒の意見に過ぎません。
実証的ではありません。
動物実験は実証的?
いうまでもありませんが、動物とヒトは違います。
「病気になりにくい」とありますが、人間は今や人生80年時代ですから、そもそも病気と完全に無縁というのはなかなか難しい。
問題は、病気になっても生還できる力とか医療体制です。
その意味では、繰り返しになりますが、サルやハエの長寿遺伝子などより、ヒトの免疫力とか、既往症がどうなのか、という方が大事でしょう。
ことほどさように、本書はいささか糖質、満腹、化調や添加物など、飽食現代の食事に警鐘を乱打するあまり、主張がちょっと振り切りすぎているのではないかと思いました。
げんに、Amazonのコメントでは、ケトン体回路にしても「ちっとも成果はない」という書き込みもあります。
どのくらい書籍に忠実に行ったのかはわかりませんが、本書の主張の弱点や矛盾点というのもそこにはあるからではないのか、と思いました。
ケトン体によるエネルギー産生というのは、人体にとってはいわば「奥の手」ですから、それを推奨することについては賛否両論あります。
もちろん、糖質、満腹、化調や添加物などの「摂り過ぎ」に懸念を示す方は他にもいらっしゃいますし、ケトン食が無意味ということではありません。
ただ、無謬で万能、アンチケトンはすべて非、というような振り切り方は極論ではないか。そのくらいの気持ちで食生活の改善を心がけましょう、というぐらいの読み方でいいのではないかと思います。
もとより、糖質は脳のエネルギー源となる必要な栄養素ですから、糖質、脂質、タンパク質をバランスよく摂取していくことが大切だと思います。
以上、『2週間で効果がでる! ケトン食事法』(白澤卓二、かんき出版)は、ケトン体のエネルギー産生による健康や脳の状態の改善を解説、でした。