『42歳、無職。職歴無し(不登校・高校中退編)』(美鬼将斗/著)は、42歳にして初めて本格的に就職活動を始めた著者が自らの経歴を綴った私小説です。「見よ、これが人生に負け続けた男の末路だ!」と、自虐的に人生を振り返っています。
本書は、まともに働いたことのない42歳の男性が、これから就活をするそうですが、その中で小・中学時代、そして高校を中退するまでを綴っています。
私小説になるわけですが、ノンフィクションで、そのまま歩んできた道を綴っています。
小・中学は友達もなく浮いていた、高校も変わらず、結局中退、という話です。
いじめというほどの仕打ちを受けたわけでもなく、落ちこぼれでもありません。
むしろ成績は優秀で、県下でもっとも難易度が高い県立高校に進んでいます。
そして、高校は中退していますが、小学校はオール5、中学、高校でもトップクラスの成績をとり、大検も合格するし、中退しましたが大学も2つ入っているし、司法試験を受験するほど学力はあります。
しかも、司法試験は、短答式試験を現役大学生のうちに合格です。
ところが、その後のと論文式試験を16回不合格。受験資格が変わり、法科大学院に入らないと試験を受けられなくなったことにより「強制退場」となりました。
そこで、就活をすることになったわけです。
人にうまくなじめず、学園生活を楽しめないタイプのようです。
ということは、たぶんどこかに採用になって会社づとめをシても、居づらいでしょうけどねー。
ちょっと似ているんですよね、私に。
もっとも私の場合は、毒親にさせられた中学お受験失敗、ヤル気をなくした中学の成績はほぼ2と3、一択だった工業高校に不合格、わざわざ学士入学した大学は結核になって脱落、大学院も3校志願して入れない、司法試験なんてとんでもないなど、病気退場はともかくとして、この著者とは学力が月とスッポンなんですけどね(汗)。
ただ、「人にうまくなじめず社会から切れてしまうタイプ」という点では、私は著者と同じなので、興味を持って読みました。
関わりにくいからついスルーされる
本書の文章は、スラスラ読めます。
30分あれば読了できます。
さすが、学力が高いと筆力もあるんですね。
主語と述語が一致しない私とは大違いです。
著者の学校生活は、弁当を食べるときもぽつんと独り。
休み時間の10分が、話し相手もいないので所在なく苦痛。
体育のドッジボールでは、自分のところにボールが来ない。
……と書くと、「いじめ」でシカトされているように見えますが、それとは微妙に違うんです。
「いじめ」のシカトというのは、無視することでその人を落ち込ませることが目的です。
しかし、著者の場合は、関わりにくいからついスルーされる、という感じです。
頭はいい、でも親しみやすいわけではない。
そういう人に対して、クラスメートは、とっつきにくそうだとか、勝手に決めちゃうんですね。
親しくない人だと、女子などは、用事があるときは丁寧語で話す。
「〇〇ですか」なんて。
クラスメートにですよ。これ傷つくでしょう。自分は「別の世界の人」扱いで。
それによって、著者も心を閉ざす。
教員は見て見ぬふり。
それが、小・中・高と続くのです。
いやー、そりゃ学校行きたくなくなるよな、と思います。
それで、著者は県下一の進学校を中退して、大検で大学に行くことにします。
著者の寂しい学校生活は、全部ではなくても、自分にも思い当たるところがないわけではないので、感情移入ができます。
学校時代、疎外感があった方なら、きっと「うんそう。あるある」と言いたくなるエピソードが書かれています。
いくらでも可能性はある
冒頭に、「見よ、これが人生に負け続けた男の末路だ!」と自嘲気味のキャッチコピーをご紹介しましたが、42歳でこれから就活なら、決して「末路」なんかではないでしょう。
私よりふた周り近くも若くて羨ましいですよ。
私の場合、エラソーなことを言っていながら、やっぱり歳を取ってきて人生を諦め始めていたのです。
しかも、ここ10年~15年は、親類と祭祀承継で揉めて色々嫌がらせをされたり、火災を経験したり、介護があったり、スラップ訴訟を食らったりシていたので、まさに「神も仏もない罰ゲーム人生」です。
そんなとき、大学の同級生が、還暦を迎えて、「自分にとっては出来すぎた人生だった」と振り返る投稿をFacebookにしたのです。
自慢と謙遜の両方が含まれた、絶妙な挨拶ですよね。
翻って、私はどんなに見栄をはったって、そんなきれいなことは云えない人生だと改めて振り返り、このままで人生を終わりたくないと思いました。
そこから、いったい自分は客観的にどういう「生まれ」なのかをストーリーとして知るために家系図を作り、自分の人生で、親、先祖、親類が、自分に直接間接にはからってきたことを振り返り、「ほしのもと」の見定めをした上で、そんな人生をこれからのどう過ごそうか考えました。
そのひとつが、還暦過ぎた大学院入学だったわけですが、まあ、私のあがきに比べれば、若くて学力も文章力ある著者なら、たとえ社会性に欠けていても、学者とか作家とか、エンジニアとか、いくらでも可能性はあると思います。
みなさんは、これまで生きてこられたご自身の人生、どんなふうに考えられていますか。
以上、42歳、無職。職歴無し(不登校・高校中退編)(美鬼将斗/著)は、42歳で就職活動を始めた著者が自らの経歴を綴った私小説、でした。