『60歳で小説家になる。』という幻冬舎の書籍をご紹介します。森村誠一氏は、「社会でさまざまな経験を積んだ60代のほうが、書くという点では有利」として、第二の人生の選択として小説家を選ぶことを薦めています。元サラリーマンだけに説得力を感じました。
社会でさまざまな経験を積んだ60代のニーズ
森村師匠の新刊新書「60歳で小説家になる。」中の文字は大きめですが、若い小説家志望者も参考になること盛りだくさん。後半に山村教室生の私や七尾与史さんの名前まで出してくださって、弟子サービスが過ぎますよ師匠。 pic.twitter.com/M1KfSIi0
— 坂井希久子 (@kiku_sakai) February 3, 2013
森村誠一氏といえば、元ホテルマンの作家として有名です。
そして、プロ作家を多数養成してきた実績もあります。
その森村誠一氏が、作家になるための戦略とノウハウを伝授した書籍です。
森村誠一氏によれば、「人間には3大欲求のほかに、人に認められたい、役に立ちたいという表現欲求がある」といいます。
その欲求を満たすために、元手がかからない小説はペンと場所さえあればすぐに始められると『日刊ゲンダイ』(2013年3月7日付)の著者インタビューで述べています。
「60代は今の若者と違って、骨をうずめる覚悟で入社した人が多いものです。それだけに知識の蓄積があるし、人間関係の難しさも経験しています。実際、自身の社会体験を足がかりに作家になった人は多く、たとえば医者だった渡辺淳一は医学の世界を描いてデビューしましたし、ホテルマンだった私もそうです。また会社では大出世する人は一握りですが、実は会社で主流に立てなかった人のほうが小説家としては成功する可能性が高いんですよ。大体そういう人は、寄らば大樹の陰の発想がなく、自己顕示欲が強い。長年の問題意識や社会への疑問が起爆剤となって大化けするんです」以前は、より若い人に賞を与えたほうが、その作家で長く稼げるという理由から、あまり高齢者の受賞というのはありませんでした。
しかし、最近は60~70代での文学新人賞受賞者が急増中です。
歳をとっていても作家としての需要があるわけです。
『60歳で小説家になる。』には、「会社で成功しない人が小説家として成功するかもしれない5つの理由」という章があります。
それによると、
- 自己顕示欲が旺盛
- 哲学的疑問が常にある
- 寄らば大樹の陰という発想を持たない
- 人格的支配に反発している
- 会社の規格に合わず社会的に不適合な人間すらフィットする
だそうですが、「なるほどな」と思います。
実は、出世できない人ほど小説家に向いているわけです。
同書には、ホテルマンだった森村誠一氏がどうして作家になったのか、その経緯や、「新刊本が無料で読める」「取材によって広がる見聞」など、作家になったときの「特典」を紹介。
中頃は、「感性の保ち方」や「アイデアの出し方」指南が書かれています。
このへんを読むと、よし、自分も作家にチャレンジしてみようか、という意欲がどなたにもわいてくるかもしれません。
60歳でも作家になれる出版界の現状
昨今の出版業界は、不況というよりどん底で、旧来の流儀が通用しなくなっています。
先程書いたように、出版社や雑誌編集部主催の文芸賞はたくさんありますが、今までいわれていたのは、そうした顕彰は若い人が優先的に選ばれるということ。
賞を取っても、それだけで作家は一人前になったわけではありません。
出版社がその作家に書かせて経験を積ませ、売り出し、その作家で儲けるようになるためには時間もコストも手間暇もかかります。
となれば、60歳の人を売り出すよりも、20歳の人に賞を取らせて40~50年かけて稼ぐ方が、ビジネスとしては順当な選択という考えだったわけです。
しかし、余裕がない出版界は、今やそんなことをいっていられない。
手っ取り早く売れるものなら売る、というのが現状です。
また、平均寿命も伸び、実働期間も長くならざるを得ませんから、60歳の人生経験でもうひと働きしてもらおう、というわけです。
森村誠一氏は、現役時代にタネを仕入れ、時間が自由になる60歳の定年後にデビューすることこそ、理想の第二の人生と述べています。
今は、高齢者にもチャンスがあるということです。
作家になるための努力は何から始めたらいいのか
もちろん、60歳なら何を書いてもウケる、というわけではありません。
どんなものを書こうが、簡単ではないことも確かです。
だいたい、前職を生かすだけで作家になれるのなら、この世の中、お金持ちのぼんぼん以外はみな作家として身を立てることができてしまうでしょう。
たとえば、元ヤクザだった人でも、今はむしろその経歴の珍しさから物書きになっています。
ただ、もしその人がそれだけなら、活躍はそう長続きはしないでしょう。
同じような人がカタギになってデビューしたら「キャラがかぶる」ことになり、そうなると新しい人の方が新鮮なエピソードを持っていますから、その人に食われてしまうからです。
その道の先駆者には、後に俳優やプロデューサーも経験した安藤昇氏率いた東興業(安藤組)の安部譲二氏が有名です。(一部にある、安藤組はヤクザといえるか、とかいう議論はここでは措いてください)
安部譲二氏はもともと良家の子弟で学校(麻布中学)時代の人脈もあるほか、キックボクシング解説やパーサーなど様々な職業を経験。
さらに作家になるにあたっては、ある作家に弟子入りして文章作法を一から学んでおり、ヤクザの物珍しさだけで作家活動を軌道に乗せたわけではありません。
作家になるには、それだけの努力はやはり必要だと思います。
では、具体的にどんな努力をしたらいいのか。
本書の最後の章では、読ませる文章を書くために、「まずは日記に嘘を書」くことことを勧めています。
そして、デビューのきっかけとなる新人賞応募のコツなどが書かれています。
作家は嘘つき、というのはよくいわれることです。
ただし、誤解してはならないのは、クロなのにシロといいくるめて騙す詐欺師になれ、という意味ではありません。
クロを描く文章に厚化粧をして、読む者にシロと思わせてしまう詐術こそが読みもの作り手の醍醐味だ、といっているのです。
たとえば先の著者インタビューで、森村誠一氏はブログを書くことを勧めています。
「ただ事実を書いていては単なる備忘録になるので、読ませることを前提に自分や周りを美化して書くんです。それが文章修業になる。今ならレスポンスが付くブログなどもいいですね」つまり、あえてあつかましい記事を書いて、コメントで反応を見ろ、ということです。コメントは、自分の創作に反応してくれる最高のモニターといっているのです。
まとめ
作家で身を立てたいという野心が少しでもある方は、まずはコメントを閉じずに、あまりいい表現ではないかもしれませんが「実験をする」つもりでコメントを利用するところからはじめられたらいいのかもしれません。
60歳で小説家になる。60歳になっていなくても興味深い一冊です。
以上、『60歳で小説家になる。』は元ホテルマンだった森村誠一氏が定年後の60代以後は第二の人生の選択として小説家を推奨、でした。
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Photo by Sharon McCutcheon on Unsplash