『8億9千万を貢いだ女~お局銀行員、狂恋の果てに~』(神崎順子、ユサブル)は、1973年に発覚した滋賀銀行9億円横領事件の漫画化です。日本の銀行で起きた事件としては史上最高の横領額で、3大銀行巨額横領事件の1つに挙げられています。
“女性銀行員3大横領事件”の中でも、横領額はダントツ
滋賀銀行9億円横領事件(1973年)、足利銀行横領事件(1975年)、三和銀行オンライン詐欺事件(1981年)。
犯罪史上、3大銀行巨額横領事件といわれていますが、そのすべてに共通しているのは、犯人は女性行員ということ。
そして、横領した金は自分のためではなく、交際相手の男に貢いでいたのも同じです。
『8億9千万を貢いだ女~お局銀行員、狂恋の果てに~』(神崎順子、ユサブル)は、その先陣を切った滋賀銀行約9億円横領事件について、漫画でまとめています。
滋賀銀行山科支店に勤める35歳の女子銀行員が、10才年下の元タクシー運転手の男性にそそのかされて、約9億円を横領した事件です。
膨大な金額ですが、それがすべて自分のためではなく、元タクシー運転手に貢いでいだというのがやりきれない話です。
冒頭に挙げた戦後の“女性銀行員3大横領事件”の中でも、横領額はダントツです。
ちなみに、金額はこうなっています。
- 滋賀銀行横領事件(1973年10月)8億9000万円
- 足利銀行詐欺横領事件(1975年7月)2億1000万円
- 三和銀行詐欺横領事件(1981年3月)1億8000万円
事件は、土曜ワイド劇場でドラマ化。
安田道代と火野正平主演で、『滋賀銀行九億円横領事件 女の決算』(1981年2月7日)が放送され、ギャラクシー賞月間賞を受賞しました。
当時の9億円は 現在だといくらか。
現在はデフレですが、それでもだいたい3~4倍ぐらいと考えると30億円近いのではないでしょうか。
横領が発覚したのは、1973年10月21日。
地味な女性銀行員が、たまたま、ほんとにたまたま乗ったタクシー運転手が競輪狂でした。
金を無心され、最初は地味に生活をしてコツコツ貯めたお金を切り崩していましたが、それがなくなると勤務先の銀行のお金に手を付けます。
でっちあげた名義で定期預金の支払伝票を偽造。
足掛け6年にわたって金を引き出し続け、その金額は再三ご紹介している約9億円になりました。
銀行の「信用創造」が狙われた
なぜこんなことが可能だったのか。
銀行は、預金者のお金を金庫に入れて、そこから別の客にまた貸しているわけではありません。
信用創造といって、その銀行にお金がなくても、預金者に引き出しをさせたり、お金を貸したりすることができます。
万年筆マネーなんていわれますが、実際には機械で通帳に数字を入力しているだけです。
別に日本銀行がお金を刷らなくても、銀行はお金を作ることが出来るのです。
信用創造によって、銀行が貸し出しを繰り返すことで、銀行全体として持っている貨幣の何倍もの預金通貨をつくりだすことができるのです。
それが、行員によって「お金を操作できる」余地を生んだのでしょう。
いずれにしても、当時は大変な話題となった事件です。
男性に対する見方を見透かされ……
村岡京子(42)は、3人姉妹の末っ子。
父親が女性と逃げてしまった片親家庭で、京子は新学制で編入した共学の新制高校を、「男女共学の学校なんて行くことはありません」と、中退させられてしまいます。
母親の男性不信感をさんざん植え付けられた京子は、この頃にはすでに男性に対する見方が相当偏っていたと思われる、と漫画には書かれています。
学校は中退しましたが、京子は「S銀行」の京都支店に入行。
真面目で勤務態度も良かったので、行内の評判も上々だったそうです。
「男の人に頼らないでも生きていけるようにしなきゃ」と思っていたからだと漫画では描かれています。
しかし、気がつくと中年のお局さん。
飲み会で酔っても、男性行員は誰も送ってくれない。
そんなとき、たまたま乗ったタクシーの運転手、山地元彦に優しくされ、メーターを止めてドライブをしてもらいます。
その日は、それで終わったのですが、1年後に山科支店に転勤になり、偶然山地と再会。
「再会したのは運命かも……。今の私の歳からいって男の人と知り合うことなんてもうないかもしれないし……」
不器用でうまく告白できない京子の様子から、自分のことが好きなのに素直に言えないとわかった山地は急接近。
ほどなくして2人は男女の関係になります。
山地は、彼女の不躾で不器用なところを見透かして、甘えておだててお金をせびるようになります。
最初は競艇で遊ぶお小遣い。
山地はギャンブル好きのため、タクシー会社を何社も解雇されていました。
京子は、初めての男だったこともあり、心身ともにのめり込んでいきます。
金をせびられても、戻ってこない金とは思うものの、一緒にいられるだけで幸せと思って出してしまいます。
ところが、いったんそんな要求を許してしまうと、額はだんだん大きく、そして回数も頻繁になります。
女性の定期預金を解約するだけでは間に合わなくなり、彼女を気に入って大金を定期にした客の偽装証書を作り、お金を引き出してしまいます。
その客に、解約を申し込まれないよう、自らの肉体を提供しますが、山地はとくに怒らず。
要するに、山地は少なくともその時点で、京子自身ではなく京子が引っ張れるお金ガム目当てになっていたわけですが、それでも京子は男に捨てられたくないという思いから、山地の要求を拒めません。
いったん客の金に手を付けてしまったら転落の一途。
「これっきり、これっきりだから」と自分に言い聞かせながら繰り返します。
実在の預金を印鑑偽造で下ろすだけでは足りなくなり、架空名義の預金を作ってお金をおろします。
そうやって、足掛け6年間で作った偽造証書は1300回。
合計8億9000万円を横領。
そんなときに、なんと転勤の話が。
もちろん、他の人が担当すれば横領はバレてます。
山地に相談したところ、「死ぬしかない」というので、てっきり心中かと思いきや、なんと山地は京子に貢がせていた6年の間に、別の女性とこっそり結婚して子供までいることがわかりました。
僅かな救いは、京子だけではなく、自分では手を汚さなかった山地も塀の向こうに検察が送り込んだこと。
京子は懲役8年で1000万円の賠償。
山地は懲役10年、3000万円支払うことになりました。
毒親の過干渉がまたしても人生を狂わせた
いったん悪事に手を染めると、「慣れ」という「麻痺」によって、加速度をつけて転落する様は、この事件に限らず私たちの失敗にもあり得ることですから、大いに教訓となります。
そして、この事件コミックスのレビューでは毎回書いていますが、背景にあるのはまたしても毒親の「ほしのもと」です。
逃げた父親も父親ですが、共学というだけで自主退学させる母親も母親です。
まるで、オール・オア・ナッシングのような男性観は、もっぱら親の責任だと思います。
親子というは、友人と違い立場が「同等」ではありませんから、その刷り込みは子の人生にずっと影響を与えます。
「成人したら人生は本人の責任」
というのは、たとえば法的にはそうかもしれませんが、刷り込みを前提に人格が形成されている以上、親の子に対する責任は否定できないことです。
我が国には、未だに家制度の因習を事実上残す目的で、子は親に無条件で従う奴隷であることを示す法律(民法第818条)があります。
たとえば、親であることをタテに、子に特定の選択や価値観を強要する毒親は、今の日本では虐待など違法行為が公然としたものでない限り「合法」になってしまうのです。
それが、親が絶対などという、インチキ道徳を生み出す原因だと思います。
親を絶対視することから卒業して、容赦なく自分の親を是々非々で総括しましょう。
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以上、『8億9千万を貢いだ女~お局銀行員、狂恋の果てに~』(神崎順子、ユサブル)は、1973年に発覚した滋賀銀行9億円横領事件の漫画化、でした。
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